新型コロナウイルスの感染拡大は、大学生の生活にも影響した。交流の機会やアルバイトの収入が減り、孤独や貧困の問題が指摘されている。
そんな学生を支援しようと、静岡県立大学で「たべものカフェ」という取り組みが行われている。運営してるのは同じ学生だ。一体、どういった取り組みなのか。

2週間の食料と悩みごと相談…運営は同じ「学生」ボランティア

静岡市のスーパーマーケット。買い物に訪れたのは、県立大学の学生と教授だ。

店員
全部13個ずつですか

学生:
13個ずつでお願いします

静岡市内のスーパー
静岡市内のスーパー
この記事の画像(13枚)

購入したのは13人分の肉や野菜、それに缶詰やレトルト食品など。段ボールいっぱいに詰められていく。

Q.この食材はどう使うのですか
学生:

1人1人にごみ袋に分けて配ります

大学に戻ると買った食材をロビーに運び、何やらイベントの準備にとりかかる。

食料は栄養バランスを考え選ぶ
食料は栄養バランスを考え選ぶ

Q.何をやるんですか
学生

「たべものカフェ」を行います。学生の困りごとや悩んでいることを聞いて、食材を無償で配布しています

「たべものカフェ」は、精神的・経済的に困っている学生に、2週間分の食料支援と日頃の悩みを聞き取る活動だ。静岡県立大学の学生グループが、2020年7月から、2週間に1回のペースで行っている。事前予約制で、食料支援にはアルバイトや仕送りなど収入面での条件はない。

2週間分の食料を袋詰めする
2週間分の食料を袋詰めする

コロナで交流も収入も減少 利用者の65%が支出超過

始めたきっかけは、新型コロナの感染拡大だ。

静岡県立大学 学生ボランティアセンター・柴田せいあ代表
オンライン授業になり人と接する機会が減ってしまったり、学校に行かなくていい日ができて家にずっとこもっている。お店が閉店してしまい、お金が稼げない学生がいることから支援したいと思い始めました

「たべものカフェ」のパンフレット
「たべものカフェ」のパンフレット

カフェを利用した学生への調査によると、65%の学生が、支出より収入が少ないことがわかった。また、新型コロナの影響でアルバイトの回数が減少したのは26%で、収入がゼロになった学生も8%いた。

カフェの資金は大学が出しているが、食材は栄養バランスを考えて学生が自ら選んでいる。食べ終わった後のごみの処理も考え、食材を市指定のごみ袋に入れて渡すことにした。

食後の処理を考え、食料はごみ袋に入れて配布
食後の処理を考え、食料はごみ袋に入れて配布

学生ボランティア
身近に困っている人がいると気づいて、自分にできることがあるなら力になりたいし、友達になりたいと思ってやっている

別のボランティア
学生のために学生が動けるのはすごくやりがいを感じているし、ありがたいと思って活動しています

同じ学生だからこそ悩みを共有

この日も早速、カフェを利用する学生の姿が見られた。

利用する学生:
まん延防止措置になって平日の夜が働けなくなった。お店がやらなくなって収入が(減った)。就活と実習の時期がかぶっているのがきつくて。一応食べてはいるけど栄養とれているか(心配)

学生ボランティア:
ジャガイモとキャベツなど野菜を地域の方からたくさんいただいた

利用する学生:
うれしい、ありがとうございます

学生ボランティア(左)と利用者
学生ボランティア(左)と利用者

同じ学生だからこそ、悩みを共有し寄り添う。

利用する学生:
いつも同じ方に会えるのが救いになっている部分があって。こういう場所で他の学部の話を聞けたり、自分の身の回りの話ができるのはすごくうれしいです

留学生も大助かり

カフェは留学生も数多く利用している。

学生ボランティア:
(アルバイトの)シフトは希望通りにしてもらえていますか

利用する留学生:
土日は学校が休みだから、アルバイトしています

留学生も支援
留学生も支援

留学生の利用者に、普段の生活について聞いてみた。

利用する留学生:
アルバイトの収入は5万円くらいで、生活費は静岡でも足りないです。ずっと厳しいです

コロナで浮き彫りになった学生の孤独・貧困 「学生の実態を知って」

「たべものカフェ」を利用したのは、これまで延べ450人以上。活動を通して見えてきたのは、コロナ禍以前から存在していた学生の孤独や貧困だ、と教授は指摘する。

県立大学国際関係学部・津富宏教授:
新型コロナであぶり出された、言いやすくなった、見えやすくなったとは思いますけど、元々コロナのせいで起きている問題ではないことがよくわかった。元々ギリギリの状態で進学して、非常に脆弱な状況で学んでいる人が少数かもしれないが一定数いるということ

 
 

学生グループは「たべものカフェ」の内容を冊子にまとめ、オンラインで説明会を開いた。

県立大学生ボランティアセンター・中島怜子さん:
(説明会の)目的は「たべものカフェ」の認知度をあげること、今までの記録を見える形で残すこと、必要性を訴えること

多くの人に学生の実態を知ってもらいたい。学生や教員に、活動の意義や支援を呼びかけた。

「たべものカフェ」オンライン説明会
「たべものカフェ」オンライン説明会

参加者:
活動を実践している中で、大変だなと思ったことがありますか

県立大学生ボランティアセンター・柴田代表:
学生がこんなに困っているのに、全員を細かくケアすることの難しさだったり、必ずしも(私たちの活動を)「いいね」と言ってもらえないこともあります。でもやっぱり学生のこういう(苦しい)状況があるということは、放置したらその人は一人になってしまうし、見て見ぬふりはしてはいけないと、私は活動をして感じています

柴田さんたちは、大学への「キャンパスソーシャルワーカー」の導入も提案している。社会福祉士などの資格を持ち、悩みを抱える学生をサポートをする専門のスタッフだ。
学生の話を聞いてカウンセラーや医師などに橋渡しをしたり、長い間連絡が取れない学生に声掛けなどを行う「キャンパスソーシャルワーカー」は、全国の大学60校ほどで導入されている。

コロナ禍で浮き彫りになった、学生の孤独と貧困。
声をあげづらく見えづらい問題だからこそ、社会全体で目を配り対策を講じていく必要がありそうだ。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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