中国では2022年1月、鎖でつながれた女性の映像がSNSに公開され、社会に衝撃が広がった。
中国で相次ぐ人身売買、その驚きの実態と背景について、FNN北京支局の河村忠徳記者が解説する。

「鎖でつながれた女性」の動画

FNN北京支局・河村忠徳記者:
中国では、2022年1月に撮影されたある動画が社会に衝撃を与えました。古い小屋の中で薄着の女性が写っていますが、その首には鎖が巻かれています。これは、中国のインフルエンサーが1月下旬に撮影しネット上に公開したものです。

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しかも、女性の歯はほとんど抜け落ちていました。実は、この女性を鎖でつないだのは女性の夫でした。

“偉大な父親”への取材で発覚 

FNN北京支局・河村忠徳記者:
では、なぜ発覚したのでしょうか。この鎖でつながれた女性と夫の間には8人の子供がいました。

夫は、この村周辺では貧しいながらも8人もの子供を育てる“偉大な父親”と言われ、少子化の救世主として地元企業の広告にも使われるなどしていた有名人でした。そして、たびたび取材などを受けて、子育てのための寄付などを募っていたのです。

今回もそういった取材のために訪れたインフルエンサーが、女性の扱われ方に異変として気付き、動画を撮影。そしてSNSにアップしたところ、事態が急変したのです。

この映像をきっかけに大きな展開を見せます。まず、人身売買ではないかという声が上がりました。次に「女性は誘拐されてきたのではないか」といった多くの批判の声が上がったのです。さらに、8人の子供がいたということで、女性に対して性的虐待の疑いがあるのではないかという声も聞かれました。

地元当局は当初、「これは人身売買ではない」と否定しました。夫と合法的に結婚し、もともと路上生活者だった女性は夫の父親に拾われ一緒に生活し、8人の子供が夫婦の子供であることは間違いないと説明しました。

そして、女性が鎖につながれていたことに対しては「精神疾患があり老人と子供を殴ることがあった」と説明したのですが、鎖でつながれたという行為を正当化することに対してネット上ではさらに批判の声が大きくなりました。

これを受けて政府が介入し再調査をしたところ、一転して「人身売買」と断定されます。夫は不法監禁の疑いで身柄を拘束されるに至ったのです。

そして、再調査で明らかになった事実というのは非常に驚くべきものでした。
まず、女性は1回ではなく、3回売られていました。1回目は約9万円で売られましたが、失踪し、その後路上である夫婦に発見されました。そして、この夫婦は警察に届けることなく、別の工場で働く2人の男たちのもとに売りました。そしてこの男たちが、事件が発覚した村に売ることになりました。

人身売買の背景に「一人っ子政策」

FNN北京支局・河村忠徳記者:
中国では、こうした女性や子供の誘拐や人身売買の事件が1980年から90年代にかけて多発しています。そして、今もなくなっていません。

加藤綾子キャスター:
信じられないですよね。本当に驚いてしまいますけど、なぜこのようなことが起きてしまうのですか?

FNN北京支局・河村忠徳記者:
その一番の理由は需要があるからなんです。先ほどの女性の夫が以前答えていたインタビュー映像があります。

――子供は何人いるの?

身柄を拘束された女性の夫:
8人です

――なぜ8人も子どもを持ったの?

身柄を拘束された女性の夫:
33歳になっても結婚していなかったのをみんなにバカにされたから

FNN北京支局・河村忠徳記者:
夫が妻に対して愛情を注いでいるということは一切感じず、自分のコンプレックス解消の道具であったり、子供を授かるための手段としか思っていなかったのではないかと感じてしまいます。許しがたいこの考え方なのですが、妻を道具のように扱う背景には、実は中国が過去に行った一人っ子政策が関係しているんです。

農村では跡継ぎに男児が求められるんですが、男の子が生まれない場合、どこからか男児を連れてきてしまうということが行われます。また、男の子が生まれても、その結婚相手がいない場合、お金を払って女性を買い連れてくるということが一般的に行われていました。

そこで、このような中国の状況について、実際に中国に住む女性や子供を持つ母親がどう思うのかインタビュー取材しました。

女性A:
誘拐ということに対する量刑が軽すぎて、誘拐犯にとって法律的な脅威がないと思う

女性B:
女性を助けて苦境から抜け出すためにいくつかの法律の支援が必要です

人身売買に対して法律が甘い中国

FNN北京支局・河村忠徳記者:
取材に応じてくれた女性が語ったのは、人身売買に対する中国の法律の甘さでした。
実際に法律を見てみますと、女性や児童を誘拐し売った場合は懲役5年以上10年以下、そして3人以上になった場合は10年以上の懲役と、悪質だと死刑もあります。そして、誘拐された子供だとわかっていて買った場合は、3年以下の懲役・禁錮などとなっています。これは驚くことに、希少動物の売買は懲役5年以下、希少植物の売買は懲役7年以下と、子供や人間を買った方が軽い刑ということが挙げられるんです。

中国当局はこうした人身売買や誘拐を防ぐために、未解決の誘拐事件の再捜査、行方不明になっている子供の情報をインターネットで公開、血縁関係者捜索のためDNA検査場を全国に展開するなど、多くの取り組みを行っています。その結果、2021年1年間で1万932人が発見されました。

今回の女性の動画は、経済大国になったにも関わらず人権の軽視がたびたび問題となっている中国のゆがみが表面化したものと言えます。3月5日に始まった中国の国会に当たる全人代では、中国共産党No.2の李克強首相が人身売買事件の厳罰化の必要性を強調するなど、新たな動きも出てきています。
今後、中国が大国として振る舞うのであれば、今回の件もきっかけに人権や自由の意識を高めていってほしいと私は思います。

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹・宮家邦彦氏:
僕も20年前に北京にいましたが、やっぱりそういう噂はありました。中国では「家族」ってものすごく大事なんだけれども、やはり一人っ子政策の歪み、男女の比が崩れちゃうわけだから。もう一つはやっぱり文化大革命で、家族の倫理というものが壊れてしまったと思います。その意味では厳罰化するのはいいけれど、そうなれば抜け道を考えるわけだから、もっともっともっと根の深い問題だなというふうに思います。

(「イット!」3月29日放送分より)

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