「安定」選んだ韓国国民…与党が圧勝

開票速報に見入る与党「共に民主党」の幹部ら
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韓国の総選挙は革新系与党「共に民主党」が180議席を獲得し、圧勝した。「共に民主党」は小選挙区で163議席、比例代表の「共に市民党」17議席と合わせ180議席となり、国会(300議席)の5分の3を占める“スーパー与党”が誕生した。単一政党が議席の5分の3以上を占めるのは、1987年の韓国民主化以降初めてのことだ。

これに対し、最大野党の「未来統合党」は比例を合わせて103議席にとどまり、歴史的な惨敗を喫した。

今後与党は議席の3分の2以上が必要な憲法改正以外のほとんどの法案を単独で処理できることになり、与党が政局の主導権を握ることになった。残り任期2年となる文在寅政権もレームダックを免れ、安定した国政運営が可能になる。

今回の選挙は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の中で実施された異例の選挙だった。投票所でもビニール手袋やマスクの着用など厳重な感染防止対策が取られた。

投票所では厳重な感染防止策がとられた

文政権は南部・大邱での感染拡大を招くなど初動の対応では批判を浴びた。しかし、選挙期間中は新規の感染者が30人前後に下がり、支持率も55%台に上昇した。政府の新型コロナウイルス対策が肯定的に評価されたことが追い風となり、与党に圧勝をもたらしたと言える。こうしたことから、文大統領は任期後半に入っても求心力を維持し、与党に対しても強い影響力を行使する見通しだ。

開票の様子

韓国では選挙後すぐに国会が始まる。新型コロナウイルスに対する緊急災難支援金の支給規模や財源調達をめぐって早速論戦が開始される見通しだ。選挙前は少数与党だったため、左派系野党や中道勢力との連携が不可避だったが、今後は野党に配慮する必要がなくなった。法案だけでなく、首相と最高裁判事など国会承認が必要な人事についても、野党の反対を気にせず、単独での承認可決が可能になる。

文政権下ではチョ・グク前法相への捜査や、検察改革などで与野党が激突し、国論を二分してきた。国会で与党を牽制する勢力がなくなることで、権力の暴走や独断専行はないのか、懸念される。

“コロナブラックホール”で保守惨敗

新型コロナウイルス

韓国メディアは今回の選挙を「コロナブラックホール」と呼ぶ。あらゆる争点を新型コロナウイルスというブラックホールが飲み込んでしまったためだ。

国家的な難局では国民の危機感が現職大統領に有利に働くとも言われる。

最大野党の未来統合党は「政権審判」「経済失政」などを訴えたが、「安定」を望む民意をつかむことはできなかった。未来統合党はソウルなど首都圏で軒並み破れ、主要選挙で4連敗という前例のない最悪の事態に陥った。

与党「共に民主党」の李洛淵前首相(左)と未来統合党の代表・黄教安氏(右)

次期大統領候補の明暗も別れた。未来統合党の代表・黄教安(ファン・ギョアン)氏と与党「共に民主党」の李洛淵(イ・ナギョン)前首相が激突したソウルの鐘路選挙区では、李洛淵氏が圧勝した。李氏は選挙期間中、与党候補の応援に全国を飛び回り党の「顔」として活躍。次期大統領候補として大きな実績を残した。

一方、黄氏は選挙直前に保守統合を成し遂げたものの、公認候補をめぐるゴタゴタや、失言騒動などが相次ぎ、有権者の離反が加速した。黄氏だけでなく、日本で“氷姫”と称される羅卿瑗(ナ・ギョンウォン)議員、呉世勲(オ・セフン)元ソウル市長ら、野党の有力な次期大統領候補が軒並み落選している。黄氏は惨敗の責任を取り党代表を辞任したが、党再建の道筋は五里霧中で混乱が続きそうだ。

経済・日韓関係は“お先真っ暗”…笑えない文大統領

文大統領は韓国経済をどう立て直すのか

与党の歴史的な圧勝により、政権基盤を強化した文大統領だが、喜んでばかりもいられない。新型コロナウイルスは韓国経済にも深刻な打撃をもたらすことが予想されるからだ。

野村證券は3月末に出した主要国の経済見通しで、2020年の韓国の経済成長率について、「最悪のシナリオでマイナス12.2%、最良ではマイナス5.5%、基本はマイナス6.7%」と予想した。基本はアメリカと欧州の「ソーシャル・ディスタンス」措置が4月末以降、緩和されることを想定している。

韓国の年間経済成長率はアジア経済危機があった1998年にマイナス5.1%、リーマンショックがあった2009年は0.8%だったから、衝撃的な数字だ。

一方、IMF(国際通貨基金)の予測では韓国の2020年の経済成長率をマイナス1.2%に引き下げた。IMFは世界経済全体の成長率をマイナス3.0%、世界大恐慌以来の景気後退に陥るとしており、韓国はOECD加盟国の中で、成長率の見通しが最も高くなった。

それでも楽観はできない。実は新型コロナウイルスの感染拡大が始まる前から、韓国は景気後退の局面に入っていた。航空・流通・旅行業に加え、自動車、エネルギー、重工業でも希望退職が相次いでいる。

景気回復の兆しも全く見えない状況で、中小零細企業のみならず、大企業が大規模リストラに着手し始めているのだ。韓国のエコノミストはアジア通貨危機以来の大量解雇が起きると警鐘を鳴らしている。韓国政府は様々な経済対策を打ち出し、この危機を乗り切ろうと必死だ。しかし、景気低迷が長期化すれば、国民の不満は文政権を直撃する。

与党は今回の総選挙を内部資料で「韓日戦」と規定し、野党攻撃に反日感情を利用した。

「総選挙は韓日戦だ」のスローガン(現地SNSより)

その効果もあって、元徴用工裁判で三菱重工業に対し1人当たり9000万ウォンの賠償金を命じたソウル中央地裁の元判事や、比例代表で出馬した元慰安婦支援団体の代表も当選している。文政権の「親日清算」の旗振り役だった元大統領府秘書官も与党とは別の比例政党で当選を決めた。

国会議員の反日濃度が高まれば、文政権の対日政策は自ずと手足を縛られることになる。日本に対して融和的政策を取れば、身内から批判を浴びかねないからだ。一方で経済的な苦境が深刻化すれば、日本に協力を求めざるを得ない場面が出てくる可能性もある。北朝鮮との関係は冷却化し、日米との間もギクシャクし外交的な孤立が続く。

圧勝したとはいえ、文大統領の前途には暗雲が立ちこめている。笑ってはいられないのだ。

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【執筆:フジテレビ 国際取材部長兼解説委員 鴨下ひろみ】