故人の遺骨を“ダイヤモンド”にして大切にする。そんな供養がTwitterで反響を呼んでいる。
漫画家・みっぽんぽんさん(@MitsuPongPong)が「うちに来るのを楽しみにしているよ!綺麗じゃん、父!」などのコメントと共に投稿したのは、光り輝くダイヤモンドの写真。実は2021年5月に亡くなった、父親の遺骨で作られたものだというのだ。

父親は「多系統萎縮症」という持病を抱え、体を動かせない症状と闘っていた。葬式やお墓には否定的で、生前は「外国に行って、風景を油絵で描いてみたい」と話していたという。
そんな父親の死後に知ったのが、スイスの企業「アルゴダンザ」の「メモリアル・ダイヤモンド」というサービス。遺骨などからダイヤを作り、家族に届けるというもので、写真のダイヤもこのようにして製作してもらった。大きさは0.3カラットで、費用は約80万円かかったという。

ダイヤは美しいブルーの色合いで、そしてきれいにカットが施されている。
この投稿を見たTwitterユーザーからも「すごい…遺骨がダイヤモンドになるなんて知らなかった!!」「素敵です」といった反応が数多く寄せられ、18万以上のいいねを集めている。(2月22日現在)
「私が死んだらダイヤと一緒に火葬を」
父親はお墓には否定的だったということだが、では、どのような経緯で“ダイヤモンド”にすることを選んだのだろうか?
製作依頼の理由やダイヤの扱いについて、まずは、みっぽんぽんさんに話を聞いた。
――なぜ、遺骨をダイヤにしようと思った?
手元供養(遺骨を身近に置く供養)を調べていた際に“ダイヤモンド葬”を知りました。アクセサリーとして身に着ければ、いつもそばにいてくれるように感じる。スイスで生成すると聞き(父親が)旅に出て、ふらりと帰ってくるイメージでいいなとも思いました。持病の悪化で体が動かせなかった分、羽を伸ばして気分転換しておいでという気持ちでした。
――父親はどのような人だった?
還暦を過ぎてから芸術に目覚め、美術大学に進学するパワフルな父でした。孫想いのおじいちゃんでもあり、持てる愛情をすべて3人の孫に注ぎ込むように過ごしていました。病気が発覚するまで元気いっぱいに過ごしておりました。持病が急激に悪化して入院し、最後はそばにいたい・最愛の孫と過ごせさてあげたいと思い、在宅医療・介護に切り替えて自宅で看取りました。

――ダイヤを見てどう思った?
おかえり!とうれしい気持ちになりました。孫を溺愛していたので、子どもたちの声が聞こえる場所に帰ってこれることを喜ぶだろうと思いました。ネックレスかリングに仕立てて、いつも身につけようと思います。子どもたちの誰かが身に着けたいと言わなければ、私が死んだら父のダイヤと一緒に火葬してもらうつもりです。負担でないのなら、自分自身も(ダイヤになることを)いいなと思っているので、死ぬまでに資金を溜めておこうと思います。
遺骨の「ホウ素」でダイヤは青色に
Twitterでは、遺骨からダイヤを作れることに驚く人もいたが、仕組みはどうなっているのか。アルゴダンザの日本法人「アルゴダンザ・ジャパン」の代表に、サービスの詳細を聞いた。
――遺骨がダイヤになる仕組みを教えて。
天然のダイヤモンドは、炭素が自然環境の中で高温高圧にさらされて生まれるものです。メモリアル・ダイヤモンドは火葬後もご遺骨中に含まれる炭素を取り出し、人工的に高温高圧にかけることで製造された合成ダイヤモンドです。硬度や輝きなどは天然ダイヤモンドと同じです。
アルゴダンザでは必要量さえあれば、ご遺骨の成分のみからの製作が可能ですが、ダイヤ一つにつき400グラム以上のご遺骨をお預かりしています。体格などの個人差にもよりますが、成人男性のご遺骨の1/4から1/3に相当します。※遺骨量が少ない場合、炭素成分の追加で製作可能。

――遺骨で作られたダイヤはどんなもの?
メモリアル・ダイヤモンドは合成ダイヤモンド(=人工的に製作された本物のダイヤモンド)で天然のダイヤモンドと物質的には全く一緒です。ただ、宝石の専門家が検査をすると「天然でない」ことはわかります。メモリアル・ダイヤモンドお届けの際には宝石鑑別書を添付して、間違いなく合成ダイヤモンドであることがわかるようにしています。
アルゴダンザのダイヤモンドは一般的にブルーの色がついています。天然でも青いダイヤモンドは存在しますが、非常に珍しいものです。このブルーはご遺骨中にある「ホウ素」で自然に着色されたものです。その人なりの美しさと言えると思います。

――どんな理由で製作を依頼する人が多いの?
年間で180~200件の依頼がありますが、若くして亡くなった方、急に亡くなった方のご家族からのご依頼が多いです。大切な人を亡くし、つらいお気持ちの中で、大切な人の体の一部を美しいカタチで手元に留めたい、身に着けたいという強い想いのある方と思います。
ここ数年は「ダイヤモンド葬」(遺骨全てを預かるケース)も多くなっています。少子化や生まれた土地を離れて生活する方が多くなるにつれ、お墓の将来的な管理に不安を持っている方が多いのは皆さんもご存知のことと思います。従来型のお墓は全く必要なく、製作後にお預かりしたご遺骨は全く残らず、法的な問題もありません。
一般的な料金は52万~272万円
――料金について教えて。一般の費用の目安はある?
一般的なダイヤだと0.2カラット~1カラットまで製作可能で、大きさで製作料金が違います。0.2カラットは結婚指輪くらいのサイズで、製作料金は52万8000円。1カラットは272万8000円です。依頼時に金額の半額をいただき、完成後にもう半額を払っていただく仕組みです。ジュエリーなどの加工は必須ではありませんが、ご希望の方は別途料金をいただいています。
――遺骨以外にもダイヤにはできる?
ダイヤは炭素があればできるので、人間の遺骨ではなく髪の毛からも生成することができます。
このほか、アルゴダンザはドイツにペットの遺骨からのメモリアル・ダイヤモンド専門の兄弟会社、センペル・フィデスを作っており、同じく弊社が日本の申込窓口をしています。

――ダイヤ以外の宝石には生成できるの?
ダイヤ以外の宝石には加工できません。しかし、ご遺骨の粉をほかの物質に混ぜて加工して、石のような置物などに加工するメモリアル的なサービスはほかにもあります。
なお、みっぽんぽんさんによると、生前の父親と「どう人生を終えたいのか」と具体的に話し合うことができなかったといい「おくる側・おくられる側ともに納得がいく供養ができることが一番望ましいと思います。どんな人生を送りたいか、どんな風に人生を終えたいかを家族やパートナーとざっくばらんに話し、共有してみてほしいと思います」とも述べている。
お墓を建てるのも遺骨をダイヤにするのも、大切な故人を思うという気持ちは同じはずだ。葬儀や死後の在り方として、一つの形なのかもしれない。
『墓は要らん!』と言っていた父。
— みっぽんぽん🖌漫画を描いています (@MitsuPongPong) February 16, 2022
遺骨をダイヤモンドにする為に昨年の夏からスイスに行っていましたが、最近帰って来たようです!
強迫性障害が酷く、旅をしたくても出られなかった父だけど。スイスの空気は旨かったか?飛行機楽しんだか?
うちに来るのを楽しみにしているよ!
綺麗じゃん、父! pic.twitter.com/viSmUUM5Uw