家族でホールケーキを食べる際、特に5人、7人といった奇数だと均等に切り分けるのが難しい。中には、4分割や8分割にして、余ったケーキが“争奪戦”となるケースもあるかもしれない。
こうした問題が起きないよう、均等に切れるユニークな装置を大分県の高校生が発明した。
その名も「仲良く分けるんです」。ケーキやピザを食べる人数に合わせて均等に分ける装置だ。開発したのは、大分県の県立国東高の「工業技術部」の財前光美さん(3年)、小野田渉さん(2年)、木村凜人さん(2年)の3人。
使い方は、ケーキやピザをターンテーブル上に置き、レーザーマーカーのスイッチを入れる。すると、固定側(0度)と稼働側のレーザーが照射される。
次に、稼働側のレーザー(矢印の下に見えるレーザー)を切り分けたい個数の角度に合わせる。例えば、7等分の場合なら51.4度にレーザーを合わせればOKだ。
ちなみに、4等分=90度、5等分=72度、6等分=60度、8等分=45度、9等分=40度、10等分=36度に合わせることとなる。
そして、レーザーに合わせて0度と51.4度の場所を包丁でカット。
続けて、ターンテーブルを回し、カットした場所を0度の位置に合わせ、さらに51.4度の場所をカットする。
これを繰り返していくと、見事に7等分ができるというわけだ。
この装置が生まれたきっかけは、小野田さんの実体験から。
小野田さんは7人家族で、ケーキを切り分ける際は切り分けづらい人数。いつも8等分に分けて、残った一切れは、姉2人とじゃんけんをし、勝った人が食べられるというルールだったという。小野田さんは、何とか均等に切る方法はないかという発想からこの装置を考案した。
ちなみに、名前の「仲良く分けるんです」は、木村さんが家族や親せき等で食べる際に「仲良く分けて欲しい」との思いからつけた。
なおこの装置は2021年の「大分県発明くふう展」に応募し、最高賞の県知事賞を受賞したそうだ。では、ケーキを均等に切る装置「仲良く分けるんです」はどのように製作されたのか?商品化は考えているのか?
発明した国東高の「工業技術部」3人に詳しく話を聞いてみた。
うれしさより驚きが大きい
――県知事賞を受賞したこと、どう思う?
財前さん:
三年間発明くふう展の活動に取り組んだ結果だと思うので嬉しかったです。
木村さん:
とても嬉しかったのですが、驚きのほうが大きかったです。
小野田さん:
まさか県知事賞をいただけるとは思っていませんでした。やはり嬉しさよりも驚きのほうが大きかったです。今でもあまり実感はないのですがこのような賞を受賞できたことはとても嬉しく思います。
――3人はどのように作業分担した?
財前さん:
工作機械の取り扱いや作品のアイデアに関して口頭でアドバイスはしましたが、大学の受験勉強と重なり製作活動はあまり携わることができませんでした。よって小野田君、木村君には製作をしてもらい、私は装置のPR動画に関することを担当しました。
――財前さんは、2人にどんなアドバイスをした?
【今回の製作に関して】
「シンプルイズベスト!」。装置を見る人や使う人が簡単にわかりやすく使用できることを最優先に設計・製作しようとアドバイスしました。(過去2年間:大分県発明くふう展の入賞経験から)
【日常の取り組みに関して】
顧問からの教えを再度自分で体験し繰り返し技術を磨くことが大事です。多くの知識を自分だけで保有するのではなく、お互いに教えあい部員全員が成長できるよう取り組もうと呼びかけています。
――装置を作る上で、苦労した点は?
木村さん:
市販品を応用するのではなく、全て自分たちのオリジナルで製作することにしたところです。その中でアイデアを実際の形に仕上げていくプロセスが大変でした。イメージを描くことはできてもそれを製品に仕上げていくことは至難の業でした。
イメージを図面化し、一つひとつの部品を工作機械で加工し仕上げていくにはさらに勉強することも多かったです。先生方からお力をお借りすることもありましたがそのなかで新しい発見や新たな技術の取得もできました。
ケーキを部員で7等分にして食べた
――小野田さんは実際、家でこのケーキを切る装置を使った?
残念ながら自宅では使用できておりません。ただ部活動の際、顧問から差し入れでいただいたケーキを切ることができました。現在2年生2名、1年生5名の計7名で活動していますので、けんかをすることなく等分に切ることができました。普段ケーキを切ることの少ない私でも綺麗に切り分けることができ、他の部員からの評判も良かったです。
――この装置の研究は今後、どうなっていく?
小野田さん:
現時点ではこの装置は完成形と考えています。毎日の部活動の中で設計や製作に関する知識、たくさんの工作機械の技術、CAD・CAMやプログラミングの応用などさらに極めていきたいと思っています。
※CAD…コンピューターで支援して設計すること
※CAM…CADで作成されたデータをコンピューターで支援して、製品を工作機械で製造するためにプログラムすること
――商品化の依頼はあった?
小野田さん:
現在までに、商品化の依頼はありません。発明くふう展の参加も勉強の一つと考えていますので商品化については一切考えておりません。
この装置を作るきっかけとなった小野田さんの家では、まだこの装置は使われていないとのことだ。しかし、”仲良く分けたい”という発想を大事にして、今後もみんなが幸せになれる発明品を作っていってほしい。