安倍首相と岸氏の“兄弟質疑”に続いて“党首討論”が実現

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、安倍首相は4月7日午後5時半すぎ、7都府県を対象に緊急事態宣言を発令した。この宣言の5時間ほど前、国会では、衆参両院の議院運営委員会が開かれ、政府による宣言についての事前報告と質疑が行われた。

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衆院側では、安倍首相の報告に続いて、首相の弟である自民党の岸信夫国対筆頭副委員長が質問に立ち、異例の「兄弟質疑」が実現した。岸氏は緊急事態宣言に関し「どのような考えにより決断されたのか」と尋ね、安倍首相は都市部を中心とした累積感染者数の増加とスピード、医療体制逼迫、感染者の受け入れ体制などを総合的に勘案し判断に至ったと説明した。

これに続いて、立憲民主党の枝野代表と、国民民主党の玉木代表が安倍首相への質問に立ち、党首による討論が実現した。主に議会の運営などを扱う議院運営委員会で、党首同士の議論が行われるのは極めて異例のことだ。緊急事態宣言直前という重要なタイミングで、どのような議論が繰り広げられたのか。

政府側の答弁時間を含め、枝野代表は7分、玉木代表は6分という極短時間だったため両代表共にいくつかの論点を一度にまとめて質問し、安倍首相もまとめて答える形となったが、ここでは質疑の中身をわかりやすくするために、一問一答形式にして追っていく。

枝野氏が指摘した政府への苦言と一定の評価

枝野代表はまず、感染者へのお見舞いや、対策に従事する人々への謝意を表明し、続いて次のように述べた。

「この間の政府の対応は残念ながら後手に回ってきたと言わざるをえません。特に湖北省を除く中国からの入国制限が遅れたこと。専門家会議が2月16日まで開かれなかったことなどについて、いずれ厳しい検証が必要です。私たちは緊急事態宣言の制度を含む新型インフルエンザ等特措法の適用が可能だとして2月からその活用を提唱してきましたが総理がなぜか法改正にこだわり適用が遅れたことも大変残念であります」

このように政府への苦言を呈した枝野代表だったが、「今般、緊急事態を宣言し感染拡大防止策を強化しようとすることは遅きに失したとはいえ一定の評価をします。私たちは国家的危機にあたって引き続き協力できることは最大限協力してまいります。同時に政府の誤りや遅れについては、具体的提案と共に厳しく指摘し国会としての監視機能を果たしてまいります」と続け、質問に入った。

PCR検査の強化などの具体策は?

枝野氏
「1つは検査と治療の体制についてです。感染の疑いがあり医師が必要性を指摘した場合であっても重症化するまでPCR検査が受けられなかったという声がいまだに少なくありません。検査を受けられず隔離が遅れ、結果的に感染拡大したケースも少なくないと思われます。医療関係者はもちろん、相談している保健所職員も疲弊している。抜本的に対策強化すべきであります。早期発見こそが、感染拡大を防ぎ、医療崩壊を起こさず、感染者の命を救うために最も重要だと考えますがいかがでしょうか。検査体制強化の実現時期、検査機関や保健所の人員増強を含めた具体策とあわせてお答えください」

これに対し安倍首相は、次のように答弁した。

安倍首相
「PCR検査については4月6日時点で、全国で一日あたり約1万1000件の検査能力を確保しています。その上で、医師が必要と認めた場合にPCR検査を実施し、患者が確認された場合はすべて報告を求めると共に保健所等においてクラスター対策を進める中で把握された濃厚接触者に対してPCR検査を実施することで国内の感染状況を把握しており4月5日時点で3654名の国内感染者を確認しているところです。政府としては引き続き医師が必要と判断した患者が確実に検査を受けられるよう取り組むと共に、感染拡大の防止に向けて緊急経済対策でPCR検査体制の1日2万件への倍増や保健所等の体制整備によりクラスター対策を抜本的に強化していく考えです」

自粛や営業停止に対する保証や金銭支援のあり方は?

枝野代表の2つの目の質問は、自粛や営業停止への補償・金銭支援についてだった。

枝野氏
「すでに収入の道が閉ざされ明日のくらしにも困る人たちから悲鳴あがっています。多くの小規模・中小事業者が事態の終息までに倒産しかねない危機にある、時間との闘いです。個人に対する即時一律の給付、損失に対する補填、緊急事態宣言が出されればさらに強く営業停止や自粛が求められる中、対応は待ったなしです。自粛や営業停止は感染拡大を防ぐ公の目的のために一部の人々に大きな負担を強いています。しかもそのことによって明日の最低限の暮らしすら成り立たなくなっています。必要な現金給付や減収補填、経済的支援の性格は通常の景気経済対策とは全く異なります。憲法29条の財産権の保証や、健康で文化的な最低限度の生活を保証した憲法25条第1項の規定に基づく政府の責務と考えますが総理の認識はいかがでしょうか」

安倍首相
「自粛要請によって生じる個別の損失に対する補償については、直接の自粛要請の対象になっていない分野においても売り上げや発注の減によって甚大な影響が生じていることを勘案すると、政府として様々な事業活動の中で発生する民間事業者や個人の方々の個別の損失を直接補償することは現実的ではないと考えています。その上で多くの中小・小規模事業者が事業継続に大きな支障を生じていること、その中で歯を食いしばって頑張っている方々になんとしても事業を継続して頂く、あるいはその中小・小規模事業者のもとで働いている方々の雇用を守るため45兆円を超えるこれまでにない強力な資金繰り支援、本邦初となる税・社会保障料の大胆な猶予制度、さらに史上初めての事業者向けの現金給付など政策を総動員して事業の継続を後押しして雇用守り抜いていく所存です」

政府の最悪想定は?枝野氏が疑った政府の「正常性バイアス」に安倍首相の答弁

そして枝野氏の最後の質問は、収束の見通しと最悪の想定についてだった。

枝野代表
「過去に経験したことがない深刻な危機にあたっては常に最悪の事態を想定して対処することが求められます。人は危機に際して正常性バイアスに陥りがちでありますが、為政者にそれは許されません。ところが初動の遅れに始まり、感染がどこまで拡大するのか見通しが立たない現状で、収束後の振興策が華々しく打ち上げられるなど、事態を軽く見ているのではないかとそんな不安を抱かずにはいられません。想定している最悪の事態とはどのようなものなのか。緊急事態宣言の期間は、本当に1か月で収束に向かわせることが出来るのか、その根拠とあわせて総理の基本的認識をおうかがいする」

ここで出てきた「正常性バイアス」とは、社会心理学などで用いられる用語で、予期せぬ事態に対峙した際に、「最悪の事態はありえない」「正常だ」「大丈夫だ」などと思いたがる人間の心理傾向のことを指す。枝野代表にとっては、東日本大震災の際に官房長官として気をつけるべきと意識していた言葉なのだという。これに対し安倍首相は次のように答弁した。

安倍首相
「わが国は幸い今のところ諸外国のようないわゆる医療崩壊といった最悪の事態を生じていませんが今後ともこうした事態を回避するために、政府や国民が最善の努力を図っていくことが重要であります。なお緊急事態宣言の期間については外出自粛の徹底等の取り組みの効果を確認するためには、潜伏期間等も考慮すると1ヶ月程度必要であり専門家の意見も聞いて定めたものです。この1か月くらいの間では、できれば8割、最低でも7割は今までの行動においての人との接触を減らす努力をしていただきたいということです」

安倍首相の答弁に対し、枝野氏は「残念ながら必ずしも正面からお答えいただけなかったことを大変残念に思っています」と言い残し質問を終えた。

玉木氏は「緊急事態の解除条件」や「理髪店の営業可否」などを質問

続いて国民民主党の玉木代表が質問に立った。玉木氏は、ネットなどで寄せられた疑問・質問を踏まえ数点まとめて質問した。まずは、緊急事態宣言の解除条件についてだった。

玉木代表
「1ヶ月程度という期間ですが、解除するときはどういう条件が満たされたら解除するのか。延長がありうるのでしょうか」

安倍首相
「取り組みが奏功し、対象となる7都府県全体の1日あたりの新規感染者数がクラスター対策可能なレベルにまで低減できれば、感染者の爆発的増加の可能性は相当程度低下するものと考えられる。(緊急事態宣言)終了の判断も専門家の意見を聞き適切に判断する方針です」

玉木氏はさらに、理髪店やホームセンターの営業の可否について聞いたが、これについては安倍首相に代わって西村経済再生相が答弁し、「理美容、ホームセンター、いずれも私たちの国民生活の安定的な生活を営むのに必要な事業だと考えている。引き続き継続して事業できるように考えている。町の小規模で身近な理容室は利用制限の対象とすることは考えていない。美容室はそもそも対象に入っていない」と明言した。

安倍首相「鉄道の減便しない」「現金給付はスピーディーに」

玉木代表はさらに、鉄道の減便の可能性について尋ねた。

玉木代表
「JRとか地下鉄の減便が行われるのか行われないのか。行われたとしたら、かえって満員電車になってしまうので困ってしまうという声も聞いている。方針をお聞かせください」

安倍首相
「鉄道の減便要請ですが専門家の見解によれば東京や大阪での感染リスクは、現状でも不要不急の外出を自粛して普通の生活を送っている限り決して高くないというものです。今回の緊急事態宣言も海外で見られるような都市封鎖を行うものではなく、そのようなことをする必要はないというのが専門家の意見です。政府としては緊急事態を宣言しても社会経済機能への影響を最小限にとどめる方針で、我が国の国民生活や経済活動等を支える重要なインフラである鉄道についても事業者に減便を要請することは考えておりません」

また玉木氏は、大きく減収した世帯や事業者への現金給付などについて「具体的にどういう人にどういう額で支援するのか」と尋ねた。安倍首相は枝野氏への答弁をなぞりつつ、「事業を継続するために厳しい状況にある中小・小規模企業に200万円、個人事業主に100万円給付する。なるべくスピーディーに給付を行っていきたい」と答えた。

公明・共産・維新の各党の質問は…問われる国会のチェック機能

その後、公明党の佐藤議員は、都市部などで学校の休校が続く見通しの中で、子どもの学びをどう保証していくのか尋ねた。安倍首相は「子どもたちの学びに著しい遅れが生じないようにすることが重要」と指摘し、遠隔でのオンライン学習の支援などに取り組んでいることを強調した。

共産党の塩川議員は、「自粛要請に伴う個別の補償が困難だという理由がわからない」と首相に疑問を呈した。安倍首相は「例えば飲食店等について、飲食店そのものだけでなくそこに仕入れしている人も大きく影響受ける。要請した方々だけに全額補償することは、いわば他とのバランスにおいても現実的ではない」などと説明し、理解を求めた。

日本維新の会の遠藤国対委員長は、外出自粛などをめぐり「どこまでが不要不急なのか分からないという声が多く寄せられている。受け止め、線引きは人や業種で異なるが不要不急の意味を国民にわかりやすく説明していただきたい」と質した。これに対し安倍首相は「例えば仮に活動を今日やめたとしてもなんとか他にやり方があるかもしれないというものは、自粛していただきたいとなる」などと説明した。

トータルわずか33分間の質疑だったが、緊急事態宣言の発令に際して国会への原則事前報告を求めた衆参両院での付帯決議は一定の意味があったと言えそうだ。自らの経験も踏まえ最悪の事態を想定しての判断を求めた枝野代表の意見を安倍首相がどう受け止めたか。

対策が緩くても、逆に過剰でも批判を受けるという難しい立場の安倍首相だが、未曾有の状況をどのようにコントロールしていくか、まさに正念場を迎えている。

同時に国会は、国会自体の感染リスクも踏まえつつ、政府の足を引っ張るのではない適切なチェック機能をどのように果たしていくかが問われている。

(フジテレビ 政治部デスク 高田圭太)