車いすで暮らしている愛媛県松山市の脳性まひの少年が、しまなみ海道でサイクリングに挑戦した。障がいを乗り越え、新たな一歩を踏み出した少年と家族の姿を追った。
ペダルを回せなかった自転車に乗って
松山市の中学3年生・久保大翔さん(14)は、脳性まひのため手足が思うように動かず、知的障がいもある。
この記事の画像(17枚)それでも明るく活発な大翔さんには、ある大きな夢があった。
久保大翔さん:
自転車で日本一周することです
父・隆史さん:
それデカすぎ、デカすぎ
母・美紀さん:
まさか、大翔の口から日本一周って出てくるなんて…。でも、それぐらい楽しくって、それぐらい自分に自信がついたんやないかな。できるっていう
小さいころから自転車に興味があった大翔さんは、これまで何度も挑戦してきたが、ペダルを回すことができなかった。そんな大翔さんに大きな夢を与えてくれたのが、2人乗りの「タンデム自転車」だった。
「パイロット」と呼ばれる前の人が操作を担当し、後ろの人と息を合わせて前へ進む。
装具をつけ…急成長に父親も練習
大翔さんは2020年9月、タンデム自転車の普及に取り組む松山市のNPO法人「NONちゃん倶楽部」のイベントに参加し、お父さんたっての希望で、親子でタンデム自転車に乗った。
大翔さんはお父さんの後ろに乗って会場を1周。ペダルを回すことはできなかったが、自転車に乗りたいという大翔さんの夢は、家族の大きな目標になった。
その夢をかなえようと、「NONちゃん倶楽部」もサポートにあたる。大翔さんは特に膝から下が自由に動かせず、自転車をこぐためには足をペダルに固定する必要がある。
そこで、一番踏み込める角度で足を固定できる装具をNONちゃん倶楽部のスタッフが開発し、左右の足でしっかりペダルを踏み込めるようになった。
その数日後の2020年11月、大翔さんはついにタンデム自転車に乗れるようになった。
急成長する息子の姿を見て、父・隆史さんは自転車を購入してトレーニングを始めた。
父・隆史さん:
大翔と一緒にタンデムに乗って、彼に負けないように、親子でいろいろと走りたいなと思って
坂道も力強く 応援を受け難所を突破
親子でしまなみを走りたい…。2021年11月、しまなみ海道で行われた障がい者のサイクリング大会に、大翔さんと両親の姿があった。
父・隆史さん:
もう念願やったですからね、その海をバックに走るっていうのが。それだけでも、きょうはすごく楽しみです
久保大翔さん:
自転車日和なので、うれしかったです。楽しみです
大翔さんが挑戦するのは、来島海峡大橋を渡り大島の観光スポットを巡る、往復20kmのコースだ。
来島海峡大橋を渡るには急な坂を上るため、この区間はベテランのサイクリスト・坂本大蔵さんが大翔さんのパイロットを務める。
ところが、初めての挑戦に大翔さんは体がこわばり、思うように足を動かせなかった。それでも、みんなに励まされながら少しずつ坂を上っていった。
大翔さんのパイロット・坂本大蔵さん:
スピードが上がってきた。大翔くん、上がってきたよ
久保大翔さん:
やった! ここまで上がったぞ!
久保大翔さん:
後ろのスピード上げます
大翔さんのパイロット・坂本大蔵さん:
普段、車いすの生活って、全然信じられないですよ。ものすごく力強いし、もっと行ってって言わんでも力が伝わってくるから。足で分かるんですよ。タンデムだから分かるんじゃないですか
大翔さんは、難関の橋を無事に渡り切った。
親子で4.6kmを走破 次なる目標へ
大島の海沿い4.6kmの区間のパイロットは、父親の隆史さんだ。しまなみ海道を一緒に走る…。家族の目標がひとつ達成された。
母・美紀さん:
2人で乗っているのが、すごい何かうれしくって。お父さんが頑張ってるのが、大翔も一生懸命になってるのもすごく伝わってきてるので、本当に良かったです
そして、親子で4.6kmを見事に走破した。
久保大翔さん:
よかったです。
――もっと走りたくなったんじゃない?
久保大翔さん:
お父さんが(タンデム自転車に)慣れてからですかね
母・美紀さん:
お父さん、どうでした?
久保大翔さん:
ダメです
父・隆史さん:
いいね、そのダメ出し
父・隆史さん:
家族3人できっちり完全走破する。人の手を借りないで、そこが最終的な目標なんですよ
父・隆史さん:
今は、いろいろな方に助けていただいて達成しているというところなので。だからもう一回、来年に再チャレンジしようと思っています
タンデム自転車に家族の夢を乗せて。応援し支えてくれる人たちへの感謝を胸に、親子の挑戦は続く。
(テレビ愛媛)