ロシアを中心に15の共和国で構成されたソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)が崩壊して25日でちょうど30年。最初で最後のソ連大統領としてその解体を宣言したミハイル・ゴルバチョフ氏(90)が、FNNなど日本の一部メディアの書面によるインタビューに応じた。アメリカと共に東西冷戦に終止符を打ったゴルバチョフ氏は「冷戦以降、最悪」とされる現在の米ロ関係を、どう見ているのか。書面インタビューの全文を掲載する。

書面インタビューのゴルバチョフ氏の回答原本
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ペレストロイカは人道的プロジェクト

ーーソ連崩壊30年の節目に、あなたが支援に携わったロシアの独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」がノーベル平和賞に選ばれたことの意味をどうとらえているか。ロシアでは、独立系メディアの活動制限など、あなたが進めたペレストロイカ(政治体制や社会体制など国家の立て直し)やグラスノチ(情報公開)に逆行するかのような動きが目立っている。コロナ禍が強権的な政治に拍車をかけたとも指摘される。これからのロシアに“真の民主主義”が根付くためには何が必要なのか。

ゴルバチョフ氏:
これは非常に重要な決定だ。ノーベル委員会はこの決定で、現代国際社会におけるメディアの重要性を強調した。私は(ノーバヤ・ガゼータ編集長の)ドミトリー・ムラトフ氏を非常に長い間(30年以上)知っている。私たちは友人だ。彼は真実と正義を真摯に貫いていて、正直で、勇気や責任感もあり、さらに思いやりもある。さらに、彼は真のジャーナリストだ。この決定によってノーベル委員会は、ジャーナリストが持つべき資質を示した。

20世紀の80年代半ば、私は(ムラトフ氏と)同じ信念に基づいて、ペレストロイカとグラスノスチの政策につながるプロセスを開始した。残念ながら30年前、皆さんがご存じの出来事(1991年の保守派によるクーデターなど)があり、ペレストロイカは中断された。

家族と暮らす病院の 1 棟貸住宅内で雑談するゴルバチョフ氏
(2021年9月。モスクワ。ゴルバチョフ財団提供)

国民に自由と権利を与えたかった

ゴルバチョフ氏:
しかし、ペレストロイカは、その時(中断された時)までに調査、構想、見直し、実現といったさまざまな段階を経た。もし、今もう1回、ペレストロイカをやり直す機会があるならば、かなり違ったやり方になる。しかし、私はペレストロイカの歴史的な正しさを確信している。ペレストロイカは必要だった。私たちは正しい方向に進んでいた。

ペレストロイカには柱となる思想があった。この思想が全てを実行するため、決定するための”赤い糸(支柱)”だった。ペレストロイカは国民のためのものだった。国民一人ひとりが自分自身のことを決められる国民主権の社会にし、国民の意識の中に、自由と権利を与えるものだった。

したがって、ペレストロイカは大規模な人道的プロジェクトだったと言える。ペレストロイカは過去との決別であり、国民が(帝国時代の)独裁国家、そして(ソ連時代の)全体主義国家に何世紀にもわたって従属していた時代の中では、未来に向けた突破口だった。ペレストロイカは現代においても適切な政策だ。なぜなら、ペレストロイカではない戦略的選択は国を行き詰まらせるからだ。

回答の原本に書かれたゴルバチョフ氏の直筆サイン

グラスノスチは国民の知る権利そのもの

ゴルバチョフ氏:
グラスノスチは国民を巻き込んで変化を起こす最も重要な方法だった。この言葉がペレストロイカという言葉と一緒に言及されているのは偶然ではない。

グラスノスチは古いロシア語だ。それは多くの意味を含んでいた。社会の開放、言論の自由、そして国民に対する当局の説明責任などが当てはまる。だから、他の言語に翻訳できないことは偶然ではない。私はグラスノスチを(ペレストロイカを支える)重要な両輪の一つと考えていた。今も私の考えは変わっていないが、グラスノスチを批判する人は今も昔もたくさんいる。ただ、私の目的は母国と世界の状態について、真実を国民に伝えることだった。グラスノスチは、国家にとって不都合なことを含め、自分の考えを言う機会を得た国民からのフィードバックだ。グラスノスチは国民が真実を知る権利そのものだ。

ムラトフ氏と私は11月18日、ノーベル平和賞受賞者として初めて「メモリアル(政治抑圧に反対するロシアの組織)」を解散させる試みに反対する共同声明を発表した。「メモリアル」は常に、(体制の)抑圧につぶされた何十万人もの人々の歴史的記憶の回復、並びに(体制の抑圧が)現在も将来も起こることを防ぐことを目的に活動してきた。「メモリアル」はロシアの社会と国家に利益をもたらしている。

ソ連を崩壊させたのはペレストロイカではない

ゴルバチョフ氏:
当時の時代の本質を理解していない人は、ペレストロイカがソ連を崩壊させたと話しているが、私は絶対にそう思わない。もちろん、我々にも間違っていた部分はあった。しかし、冷戦の終結、前例のない核軍縮条約、言論・集会・宗教・出国の自由と権利の獲得、選択肢のある選挙や複数政党制の実現など、ここにペレストロイカの本当の成果が示されている。そして最も重要なことは(ペレストロイカが)後戻りできないところまで進んでいたことだ。

今日、変革の最初の段階で設定された目標―権力の定期的な変化、国民の決定が実際の政策に影響を与えることを可能にする、信頼できるメカニズムの作成―の実現には、まだ遠い。私は長年、時々厳しく批判的に、そしてしばしば前向きに(ロシアで)何が起こっているかを評価して、ペレストロイカの理想と価値観の継続するよう声を上げてきた。(ペレストロイカの思想と価値観を持ち続けなければ)迷いが生じることになる。

ソ連大統領辞任の演説をするゴルバチョフ氏(1991年12月25日)

ロシアの将来をつくるのは“民主主義”

ゴルバチョフ氏:
「では、ロシアはどこに進むのだろうか?」。私はよくこの質問をされる。しばしば、真の民主主義にたどり着くロシアの可能性について疑いを持った上で、だ。この質問をする人は、ときどき、新たにできた法律の数とロシア当局の行動が民主主義と相反していることを私に直接尋ねる。私はいつも、こう答える。「ロシア国民はあなたが思っているよりも民主的だ。しかし、ロシアには我慢し続けてきた複雑な歴史がある。250年に及ぶモンゴルの弾圧、農奴制、スターリンによる抑圧など人々は奴隷のように扱われた。そしてそれが終わった90年代、国民は目の前に現れた(間違った形の)民主主義のカオスと横暴に耐えなければならなかった」と。ロシア国民は、何を受け入れるべきで、何を受け入れないべきかを過去から学ぶ必要がある。これは時間がかかる。しかし、ロシアの将来をつくるのは1つしかない。それは民主主義だ。

ロシアに全責任を負わせる交渉は無意味

ーー現在のロシアとアメリカ・ヨーロッパの関係は「冷戦以降、最悪」とも言われるが、かつて「冷戦の終結」を宣言した立場として、どのような思いで見ているのか。また、これからの国際社会でロシアのあるべき立ち位置をどう考えるのか。

ゴルバチョフ氏:
装飾することなく正直に言うと、今日の世界は、世界の主要な大国が深刻かつ実質的に制御されていない軍事政治的対立に直面している。以前作られたすべてのフレームは壊れているか、はたまた緩んでいるか、いずれにしても脅威にさらされている。これが続くと災害(戦争、内戦、経済危機、政治危機)につながる可能性がある。

私は、こう確信している。世界はいつか冷静さを取り戻すだろう。遅くなるか、早くなるかは分からない。そして、どのような代償が生じるかも分からない。

最近(ロシアと西側の)軍用機や軍艦が接近したという話をよく耳にする。この問題をめぐって政治と軍のトップが(解決策を)考え始めるために、衝突を起こす必要があるか?(いや、ない)。彼らは、もはや止めることができない「連鎖反応」が生じる可能性について懸念を持っていないのか?(いや、持っている)。

ゴルバチョフ氏を題材にした演劇観賞後、談笑するゴルバチョフ氏。右はゴルバチョフ役の俳優
(2020年10月。モスクワ 。ゴルバチョフ財団提供)

挑発や反発から誠実な対話へ移行せよ

現在の状況から抜け出す方法はあるのか?もちろん、ある。唯一の合理的な方法は対話だ。相互の反発的な発言、挑戦的な表現、武器を溜め込むような行動などから、誠実で責任ある対話への移行ができるだけ早く行われるようにしなければならなない。

世界の政治において、ロシアと西側が信頼を回復することほど重要で困難な課題はない。ロシアなしでは深刻な国際問題を解決することは不可能であるため、西側はこれが必要だと認識している。しかし、西側はロシアに現在の状況に対するすべての責任を負わせている。そして西側は、ロシアがすべての物議を醸す問題について合意するだろうと期待し、ロシアに要求している。

このようにロシアと交渉することは不可能であると理解すべき時が来た。必要以上にロシアを孤立させようとしたり、ロシアと他国との関係を台無しにしようとしたりしない方がいい。

必要なのは時間・忍耐・常識・交渉技術

ロシアは外交舞台での豊富な経験がある。それは過去、数世紀に及ぶ行動に裏付けられている。特に、建設的な相互作用をもたらす対話をするという優れた意識を与えたペレストロイカ時代の成果によって、さらに豊かになっている。冷戦から抜け出した目的は、ドラムビート(冷戦の足音)をもう一度聞くことではなかったはずだ。

近年起こった信頼の崩壊は致命的ではないし、不可逆的でもないと思う。私は信頼が崩壊している現在の状態は世界の倒壊、失敗であり、誤っていると考える。ただ修正可能だ。この間違いを正すには、時間・忍耐・常識・交渉の技術などが必要だ。しかし、重要なことは、私たちが同じ惑星に住んでいること、将来世代のために、この壊れやすい惑星の運命に責任があることを理解する必要があるということだ。

家族と暮らす病院の1棟貸し住宅内にある執務室でのゴルバチョフ氏。右はゴルバチョフ財団職員
(2020年12月。モスクワ。ゴルバチョフ財団提供)

“強く民主的なロシア”が役割を果たす

ロシアの将来を救うのは民主主義だけだ。そして、これ(民主主義)は私たちが(ペレストロイカで)成功した、効果的な外交のために必要なものだ。強く民主的なロシア。これが私の深い信念だ。そして、私はロシアが21世紀にふさわしい新しい世界政治を構築する上で、建設的な役割を果たす運命にあると強く確信している。

対話を恐れるな

ーーあなたは日ロの間に領土問題が存在することを公式に認めたが、いまのプーチン政権は領土問題の存在を否定する強硬姿勢に戻っている。いまだに日ロ間に平和条約が結ばれていない中、日ロ両国はどのような関係を築くべきだと考えるか。

ゴルバチョフ氏:
私がソ連大統領として公式訪日してから30年以上が経過した。私はこの旅を「新しい考え方に基づく二国間関係の新たな重要な段階の始まり」とみていた。(冷戦終結に伴う)世界の新しい政治のおかげで、卓越した結果が達成された。冷戦が終わり、ドイツ統一が起こり、国際紛争や戦争が終わり、(ヨーロッパの対立と分断の時代の終結と民主主義・平和・統合の新時代というヨーロッパ秩序の指針を示した)パリ憲章が署名され、集団安全保障の考えが議論された。

したがって、私の立場は、協力関係を築き、互いの先入観がもたらす雰囲気や地域的及び国際的な状況を変え、問題を解決するための最適なアプローチを探し出し、日本との関係を新しいレベルに引き上げることだった。

第3回日ソ首脳会談 会談を前に海部首相と握手を交わすゴルバチョフ大統領(1991年4月17日)

最も困難な問題こそ議論のテーブルに乗せよ

ゴルバチョフ氏:
海部(俊樹)元首相と私は、特定の分野での共同声明と15の文書に署名することができた。しかし、ペレストロイカは中断され、残念ながら、私たちの関係の発展は行き詰まった。(後年、ロシアの)政治家は、私とは異なる概念に基づいて権力を使った。

しかし、素晴らしい成果を上げるためには、あらゆる分野で協力し、首脳・閣僚・専門家レベルでの協議が必要だと私は確信している。これが相互の信頼を生み出す唯一の方法であり、それなしでは複雑な問題の解決に向けた話し合いを開始することは不可能だ。

議題は拡大する必要がある。(互いが)困難な状況でも、対話を中断することはできない。対話を恐れる必要はない。最も難しい問題こそ議論のテーブル乗せなければならない。

海部首相×ソ連大統領会談(港区元赤坂 迎賓館)

道は歩くことで作られる

ゴルバチョフ氏:
道は歩くことで作られる-。古代インドの(バラモン教とヒンドゥー教の聖典である)ヴェーダに書かれているこの言葉が、ラテン語、聖書、世界の古典の作品で見つけられるように、世界の人々の言語に盛り込まれていることは偶然ではない。

【インタビュー:FNNモスクワ支局長 関根弘貴】

【表紙画像提供:ゴルバチョフ財団】

関根弘貴
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