ツンツンと冷たい態度を取ったかと思ったら、ふとした時にデレデレと甘えた態度を取る“ツンデレ”。

この”ツンデレ”行動が「作業を続けるモチベーションにどんな効果を与えるのか?」について、奈良先端科学技術大学院大学の研究チームが調査し、研究の成果を発表した。

調査方法は、大阪日本橋にある「メイドカフェCCOちゃ」で働くスタッフが行ったツンデレの振る舞いを計測し、そのデータを基にAR(拡張現実感)アバターを設計。そのARアバターのツンデレ行動を被験者が体験し、作業意欲の影響をアンケートで聞いた。

ツンデレ振る舞いデータ計測の様子(画像提供:奈良先端科学技術大学院大学研究チーム)
ツンデレ振る舞いデータ計測の様子(画像提供:奈良先端科学技術大学院大学研究チーム)
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ARエージェントを用いたツンデレインタラクションシステム利用の様子(画像提供:奈良先端科学技術大学院大学研究チーム)
ARエージェントを用いたツンデレインタラクションシステム利用の様子(画像提供:奈良先端科学技術大学院大学研究チーム)

ARアバターを作成するにあたっては、メイド喫茶のスタッフに“ツンツン”“デレデレ”“ツンデレ”の3つのバージョンを演じてもらった。

ツンツンとは、叱るや注意するといった冷たい振る舞い。発話文の例としては「なにボサッとしてんのよ!ちゃんと仕事しなさいよ!」など。

デレデレとは、激励や応援、褒めるといった優しい振る舞い。発話文の例は「今日もお仕事ファイトっっ!フレーフレー!私はあなた専属の応援団だよ!」などとなる。

ツンデレは、冷たい振る舞いと優しい振る舞いが同時に入った振る舞い。叱る、注意するという振る舞いの中、最後に少し褒めるといった振る舞い。発話文の例は「だらだらしてるんじゃなくてさっさとやりなよ(冷たい振る舞い)。本気出せば一瞬でできるくらい、優秀なんだから(優しい振る舞い)」だ。

これをメイド喫茶で働くスタッフが演じ、音声データと関節位置データを計測。このデータを取得し、ARアバターを作成。ARアバターがツンデレインタラクション(TDI)、優しい振る舞いのみを行うデレデレインタラクション(DDI)、振る舞いを行わない(NOI)の3つの条件を被験者に与えるというものだ。被験者には100マス計算をしてもらい、作業前、作業から5分後、作業後にARアバターがアクションした。

その後、モチベーション向上の要因となる「達成感」「承認」「興味」「成長」「責任感」「作業継続意欲(モチベーション)」「つまらなさ」の7項目について、「あまり感じなかった」から「とても感じた」までの7段階でアンケートを取って比較した。なお、被験者は22歳~31歳までの男性6人で行った。

7段階評価におけるアンケート結果(画像提供:奈良先端科学技術大学院大学研究チーム)
7段階評価におけるアンケート結果(画像提供:奈良先端科学技術大学院大学研究チーム)

その結果、こんなことがわかった。

・ツンデレインタラクション(TDI)とデレデレインタラクション(DDI)の評価点数は、振る舞いを行わない(NOI)よりも高い。
・被験者から「タスクの合間に声を掛けられることがやる気につながる」といった感想が得られた。
・作業の合間に行われる振る舞いが、作業継続意欲に対して良い影響を与えている傾向が確認できた。
・ツンデレインタラクション(TDI)は、極端なツンツンデレデレではなく、その強弱を利用者の性格などの特性、そして作業中の利用者の精神状態に応じた振る舞いを行うことで、特にやる気が出にくい作業に対する継続意欲向上に効果があることが期待される。

このように、ツンデレはモチベーション向上に良い影響を与えているようだ。では、ツンデレは具体的にどんな効果があるのか?そして、この研究は世の中にどう役立つのか?

奈良先端科学技術大学院大学でツンデレインタラクションに関する研究のプロジェクトリーダーを務める、田井中渓志さんに詳しく話を聞いてみた。

きっかけはコロナで研究意欲が低下

――なぜこの研究を始めた?

この研究プロジェクトが始まった頃、緊急事態宣言下で外出ができず、研究も在宅ワークを強いられることが度々ありました。その度に、研究環境が家であることから、自己管理が難しくなり研究のモチベーション低下を強く感じていました。

そんな時、研究室のリソースである、拡張現実感(AR)技術とロボットが人に触れて快適性を向上させる研究を組み合わせて、私がはまっていたアニメ「かぐや様は告らせたい」の主人公・四宮かぐやの自作3Dキャラクターをロボットアームの上に重ねて、好みのキャラクターに物理的に撫でてもらえたら癒しになるのでは?というアイデアから始まりました。

そして、更にこのキャラクターに何をさせたら、自分の作業のモチベーション向上が可能かを考えていく中、行動変容でよく用いられている飴と鞭や、罰と報酬といったオペラント条件付け理論に注目し、当キャラクターの特徴の1つであるツンデレという特性を組み合わせることで、効果的に人の行動変容を促せるのではないかと考え、今のプロジェクトの主である、ツンデレを用いた対話(ツンデレインタラクション)という方向性に至りました。

※オペラント条件付け理論とは、対象の行動結果に対して罰(鞭)もしくは報酬(飴)を与えることで、対象の自発的な行動を促進させること。


――本物のメイドでなく、ARアバターにした理由は?

本物のメイドさん(ツンデレを職業的に使用している方々)に協力してもらうことが理想でした。しかし実験当時は、実際に協力していただくことが時間的に困難であったために、以前ツンデレの振る舞いを調査した際に取得した振る舞いデータをARアバターに利用し、代わりに実験を行いました。また、ARアバターを利用することで、今後一般的にARが普及した際のバーチャルエージェントとの最適な対話(インタラクション)に貢献できると考えています。


――研究前はどんな結果になると予想していた?

他の研究でも、ネガティブな印象を最初に与えてから、その後ポジティブな印象を与えると、ポジティブな印象がより強く感じられるといった効果(ゲインロス効果)が報告されていました。これもあり、最初は冷たいツンツンとした振る舞いから優しいデレデレとした振る舞いに遷移する提案手法(ツンデレインタラクション)の方が、最初から最後まで優しい振る舞い(デレデレインタラクション)よりも、作業モチベーションが向上するという仮説を立てていました。

ずっと褒められるより“冷たい&優しい”が重要

――研究結果からどんなことがわかった?

実験後の被験者からのコメントより3つのことが分かりました。1つ目に、ずっと褒められることよりも、自身の心情や環境、作業の進捗に合わせて冷たい振る舞いと優しい振る舞いの組み合わせが必要であること。2つ目に、厳しすぎるセリフを含む冷たい振る舞いは、被験者のやる気を喪失させてしまう可能性があること。3つ目に、被験者の特性や個性、作業に対する初期モチベーションが重要であることが分かりました。

今回は、より大規模な本実験を行う前段階として、提案手法の効果が一体どの程度のものなのかを予備的に検証したく実験を行いました。人数が少ないことで有意な結果を示すことはできないが、何かしらの傾向がみえるのではないかと考えていました。その中で、提案手法では、ツンツンとした振る舞いが厳しすぎると指摘はありながらも、半数の被験者に対して提案手法の方が効果があったことは、次の大規模実験にて、被験者を集め、提案手法の検証を行う際の自信につながりました。

また、被験者の個性や作業に対する初期のモチベーションといった考慮すべき新しいパラメータの発見は、今後の検証実験をより良いものにするためのヒントになると感じています。
 

――TDI(ツンデレインタラクション)とDDI(デレデレインタラクション)の違いは見られなかった?

被験者数が少なく統計的に有意な差を示すことは困難でした。ただし、被験者からのコメントから提案手法のツンデレインタラクションは一定の効果があったものの、ツンツンした振る舞いに含まれているセリフが厳しすぎるセリフであったことより、被験者のやる気を喪失させてしまったことが大きく関係していると考えています。
 

――たしかに被験者6人は、少ない気もするが…

今回は、予備的な実験として6人の被験者に対して検証実験を行い、ツンデレの効果を調査しました。この実験で得られた知見を基に、現在では30名ほどの被験者数に対して、ツンデレインタラクションの効果を検証する新たな実験を行っております。


――被験者の感想で印象に残っているものは?

やる気を持って作業に取り込もうとしている時に、厳しくされるとやる気が削がれたという感想が印象に残っています。この実験を通して、提案手法において、状況に応じて冷たい振る舞いから始めるか、優しい振る舞いから始めるかの調整が重要であることがわかりました。

システム利用の様子(画像提供:奈良先端科学技術大学院大学研究チーム)
システム利用の様子(画像提供:奈良先端科学技術大学院大学研究チーム)

介護やリハビリ支援のロボットに

――ツンデレはどのような場面で効果がありそう?

ある作業に対して自分ではやらなければならないと理解しているにもかかわらず、なかなか行動に至らない、誰かからあと一押しが欲しい時にツンデレのインタラクションが効果的だと考えています。

バーチャルエージェント(CGによって生成された仮想キャラクター)が作業のはじめに喝(ツンツンとした振る舞い)を入れてくれ、集中力が切れたタイミングや休憩のタイミングでツンデレを、そして最後作業を終えた時に、褒めてくれる(デレデレとした振る舞い)。

この一連のインタラクションによって、利用者が快適に作業を完遂することができるだけでなく、作業に対する達成感や成功体験、成長を利用者に与えることができ、その後の作業意欲の継続につながると考えています。


――研究結果を世の中にどう役立てる?

今回の研究結果により被験者がもともと持つ個性と、その人が作業に臨む際のやる気がツンデレの効果に影響を与えることが示唆されました。これは、行動変容を必要とする場面、例えば、介護やリハビリ支援において導入されているロボットやバーチャルエージェントが、飴と鞭を用いて利用者の行動変容を快適に促す際のヒントになるのではないかと考えています。


――今後も研究は進めていくの?

はい。バーチャルエージェントとロボットを組み合わせることにより、快適に行動変容を促すツンデレインタラクションによって、視覚・聴覚・触覚と複合的なインタラクションシステムの構築とそのシステムの実応用に向けたサービス開発をしていき、最終的には、「かぐや様に触れられたい」を実現したいと考えております。

また、現在は、規模を大きくして、20代から60代の、女性も含めた被験者実験を実施しています。メイドさんの見た目だけでなく、執事やペットなど、見た目の違いが与える影響について調査を行っていく予定です。今後にご期待ください。


将来的にツンデレで介護やリハビリの支援も考えているというのは驚きだ。今後も研究を続け、世の中の役に立つものを生み出していってほしい。