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新型コロナウイルスが世界で猛威を振るう中、特にイタリアでは爆発的な感染拡大が続いている。死者数も増加の一途を辿り、致死率も他の国と比べて最も高い。G7のメンバーでもある先進国イタリアがここまでひどい状況に陥るのはなぜなのか。そして日本でも警戒されている「医療崩壊」が実際に起きているとも伝えられるイタリアの医療現場では今、具体的に何が起きていて、その原因は何なのか?
イタリアの生活、医療、経済に詳しい方々をゲストにお迎えし、イタリアの現状について幅広く伺った。

イタリアの現状「戦争が始まったような感じ」

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野美郷キャスター:
イタリアの人々の生活への影響・変化はどのようなものですか?

漫画家 随筆家 ヤマザキマリ氏:
戦争が始まったような感じ。毎日(イタリア人でイタリア在住の)家族から電話があるが、緊迫感が日本とまるで違う。その温度差で私が怒られるほど。ペストのような致死的な病気であるような認識がある。

三重大学医学部附属病院 中央検査部 助教 杉本匡史氏:
例えば、北部イタリアのベルガモという都市が危機にある。人口10万人ほどの都市だが、病院一つが全員コロナウイルス感染者で、スタッフ総出で治療しても追いつかない。そしてスタッフにも感染が広まり、物資も届かないという状況がこの一週間あった。

高齢化社会で中国との繋がりも強い

長野美郷キャスター:
イタリアでは3月に入って感染者が急増。なぜこのように増えたのでしょう?

漫画家 随筆家 ヤマザキマリ氏:
人口に占める高齢者の割合が28.5%という高齢化社会で、ほぼお年寄りの方たちが感染しているということが大きい。致命的となるリスクも高い。

三重大学医学部附属病院 中央検査部 助教 杉本匡史氏:
政府などから命令があっても、イタリアの人の反応は日本人と違う。自分なりの解釈をしてしまう部分がある。移動制限がかかるとなればその前に地域を出ていき、地元に帰って感染拡大させてしまうとか。死人が出ているとなって、やっと統制が取れる。

漫画家 随筆家 ヤマザキマリ氏:
2月9日に仕事でミラノを訪れ、ついでにイタリアの家に帰ろうと思ったら夫から「来ないほうがよい」と言われた。この時点ではアジアから来た人がリスクであるという観点。しかしその後日本に帰ってきたところで、イタリアで私が住んでいる州で死者が出た。直後に学校も街も封鎖され、軍隊の監視が始まり夫の家から40km離れた実家にも行けない。あっという間にその状況になった。
背景として、イタリアには本当に中国人が多く、中国との往来があったこと。ベネチアの観光業でもレストランやカフェなどのオーナーはほとんど中国人。

会話やスキンシップが多い文化

ヤマザキマリ氏
ヤマザキマリ氏

漫画家 随筆家 ヤマザキマリ氏:
政府の対応は早かった。また一般レベルでも、私の義理の母親などは感染症に敏感だが、こういう感覚の人は多い。
一方でものすごく喋る国民性で、男も女も黙っている人がおらず、家屋内の飛沫がすごい。それにもかかわらずマスクの習慣がない。日本からマスクを買ってきて子供につけさせたら、不吉だし顔が半分見えないのは治安の面でよくないからやめろ、と言われたほど。こうしたことが背景となり飛沫による拡大が進んでいったのでは。

反町理キャスター:
政府のシグナルに対する国民の信頼度は。強制力のない「要望」だけで人々が動く日本とは違う?

漫画家 随筆家 ヤマザキマリ氏:
イタリアは誰も政治家を信じていない国。正しいか判断するのは自分で、新聞もいろんな政党から出ているから自分たちで読み比べないといけない、という社会。最初は猜疑心を持って「政府がまた何か言っているな」という感じ。段階を重ねなければ信用に至らない。

反町理キャスター:
近代市民としては素晴らしいが……。

第一生命経済研究所 主席エコノミスト 田中理氏:
欧州委員会による調査統計がある。イタリア人の約6割が毎週どこかで家族や友人と会っており、他のヨーロッパ諸国に比べて圧倒的に多い。家族との触れ合いを重視していることが感染源になっているのでは。

漫画家 随筆家 ヤマザキマリ氏:
都市部では難しいが、イタリアでは日曜日は実家に行くのが普通で、近隣の人など含めて10人ほども集まり昼食を食べる。全員の飛沫がかかってくる、という状況が毎週ある。

第一生命経済研究所 田中理氏
第一生命経済研究所 田中理氏

第一生命経済研究所 主席エコノミスト 田中理氏:
私はビジネスで出張としてイタリアに行く機会があるが、1対3で面会して私と1人の人が喋っていると,残りの2人の間で別の話を始める。それぐらい話好きという印象。

三重大学医学部附属病院 中央検査部 助教 杉本匡史氏:
イタリアの方にはチークキス、ハグ、握手の習慣があり、非常によく喋る。一人でいるときも誰かと電話をしているし、バスでも電車でも食事のときも、トイレでさえ携帯電話で喋っている。

医療水準は高いが、財政再建で病床数減少

反町理キャスター:
医療崩壊の問題の背景には、医療資源の配分の失敗がある?

三重大学医学部附属病院 中央検査部 助教 杉本匡史氏:
予備資材・人材が豊富でなく、いつもギリギリの状態で医療を回している、これは経済状態と表裏一体。緊急時に予備的な機能が働かなくて、すぐに上限に達してしまった。

三重大学医学部附属病院 中央検査部 助教 杉本匡史氏:
病床数が少ない背景には、患者が家で過ごしたいと希望する傾向もあると思うが、国としてもベッドを減らして人件費を削減したいという意図がある。

第一生命経済研究所 主席エコノミスト 田中理氏:
イタリアの医療水準は高い。高齢化が進んでいるということは高齢者の治療ができているということ。高齢者の死亡率も日本ほどではないが、ドイツより低いほどの先進国水準にある。しかし病床数は、昔に比べても少なくなった。財政再建の政策に基づき、数十年前から医療予算を含めて削減されている。

反町理キャスター:
イタリア医療従事者向けガイドライン。どの患者を優先するかというかなり厳しいものと思うが、医師としての受け止めは。

三重大学医学部附属病院 中央検査部 助教 杉本匡史氏:
医療は本来、救急外来に来た順番に患者を助けていくのが原則。しかしそれを守れる状態になく、限られた資源で誰を助けるかという点で、学会として現場の判断を後押し・サポートするもの。
医療者が個人として良心の呵責に苛まれるので、医療資源が余っていて助けないということではない、どうしようもないという状況を理解している、という声明。

三重大学医学部附属病院 杉本匡史氏
三重大学医学部附属病院 杉本匡史氏

反町理キャスター:
新型コロナウイルスの問題は、イタリアの人たちにとって、病ということ以上に社会の価値観・生活習慣といった全てを壊しているといえるのでは。

漫画家 随筆家 ヤマザキマリ氏:
はい、戦争にも置き換えられないほど。自分たちが家族を愛し、密接に過ごすことに間違いがあったのかという根幹からの疑念がある。すぐに習慣を変えるわけにはいかないが、彼らにとっては余計な憶測とかではなく、とにかく団結してできるだけのことはしたいという状況。

対中関係は良好、むしろ反EUの動き

反町理キャスター:
イタリアの皆さんは、中国の支援に感謝している? ウイルスの発生地である中国に対して、イタリアやスペインでこれから反感が広がるという見方をする専門家もいるが。

漫画家 随筆家 ヤマザキマリ氏:
イタリア人は感謝している。日本人がアジア圏を見ているレイヤーはヨーロッパ人にはなくて、夫も中国から支援に来てくれたと嬉々として語っている。私はどこかで「もともとウイルスはそちらから来たのに」と思うけど。
義理の父親も疑念はゼロ。それぐらい切羽詰まっているから、邪な考え方をするゆとりもないともいえる。キューバからの支援にも期待しているようだが。

長野美郷キャスター:
収束してから改めて中国の責任を問いたいという気持ちも?

漫画家 随筆家 ヤマザキマリ氏:
古代ローマ2000年の歴史で、こうしたことは山のように繰り返されている、些末なとこに向かって責任を問うと言ったことはナンセンスというところがある。

第一生命経済研究所 主席エコノミスト 田中理氏:
懸念するのは、むしろ反EUへの動きです。

反町理キャスター:
EUから来たウイルスではないのに?

第一生命経済研究所 主席エコノミスト 田中理氏:
欧州各国がてんてこ舞いの状態で、EUの支援として医療スタッフなどの派遣がなされていない。もう一つは経済ダメージ。今回のことで大幅に予算拡充して財政拡張して、イタリアの金利が上がる。なんとか止めてくれとEUに頼んでいるが不可能。イタリア人の中には「EUが助けてくれない」と思う人が多いのでは。

(BSフジLIVE「プライムニュース」3月26日放送)