日銀が追加の金融緩和を決定

新型コロナウイルスの感染が拡大する中、日銀は、きょう、金融政策決定会合を初めて前倒しして開き、景気への悪影響を抑えるため追加の金融緩和に踏み出すことを決めた。ETF=上場投資信託の購入額などを一気に2倍に増やす。ETFは、特定の株価指数などに連動するよう、多くの株式を組み合わせた金融商品で、日銀による買い入れは、株価を下支えする役割を果たしている。

これまで、年6兆円の購入を目標にしていたが、当面の間12兆円に倍増させ、金融市場に大量の資金を供給する。また、企業が資金調達のため発行するCP=コマーシャルペーパーと社債の購入も、ことし9月末まで2兆円増やし、残高がCPは3.2兆円、社債は4.2兆円になるまで買い入れる。

追加の金融緩和策について会見する日銀の黒田総裁
追加の金融緩和策について会見する日銀の黒田総裁
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これに先だって、アメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会が、事実上のゼロ金利政策を導入することを決めていて、景気の悪化を食い止める姿勢で足並みをそろえた形だ。

冷え込んだ消費と停滞した企業活動

こうした中、政府与党は緊急経済対策の検討に入っている。外出の機会の激減による消費の落ち込みやサービス業全体の縮小、サプライチェーン(部品供給網)寸断に伴う製造業の混乱が続くなか、この対策は、景気を下支えするため、冷え込んだ消費と停滞した企業活動の双方を活性化させようというものだ。

このうち、消費喚起については、感染収束の度合いによって内容が大きく変わってくる可能性がある。イベント自粛が解除されて、外出が増えていくケースでは、移動の制限によって縮小した小売りや旅行・観光需要の回復を促す対策が柱になる。

ポイント還元率15%~20%へ引き上げ案も

検討されているのが、現在実施されているキャッシュレス決済でのポイント還元の拡充だ。中小店舗では5%の還元率だが、これを15~20%程度に引き上げる案が出ている。コンビニエンスストアなどでの2%の還元率については、外出控えのなかでも、自宅近くのコンビニなどで買い物を済ませる人は増えているとの指摘もあり、購買動向を分析のうえ、判断される見通しだ。ポイント還元の期限は6月末だが、キャッシュレス決済の事業者が、この期限を前提に熾烈なシェア争いを展開している現状などから、延長は難しいのではとの見方が出ている。

また、国内旅行や旅先での消費を促す手段として、旅行費を補助する仕組みが検討されていて、早期や遠距離の予約を対象に費用を割り引く案があがっている。

子育て世帯の支援策に現金給付案?

一方、子供の通う学校の臨時休校などに伴い、仕事を休まなくてはならなくなった人たちを念頭に、俎上にあがっているのが、子育て世帯への支援策だ。現金給付案も浮上していて、月1万円から1万5000円を支給している児童手当の加算も選択肢のひとつだ。
ただ、10日に政府が決定した緊急対応策第2弾では、すでに臨時休校で保護者が仕事を休んだ場合の支援を行っており、さらなる上積みでの対応となるうえに、「現金を配っても貯蓄に回ってしまうだけで、消費下支えの効果はない」との指摘は根強く、公平性や実効性を踏まえた判断が必要になる。

中小企業の資金繰り支援も

企業の資金繰り支援も充実させる方針だ。経営が悪化するなどした中止企業を対象に設備などにかかる固定資産税を軽減する案が検討されている。固定資産税は地方税だが、地方自治体の税収が減る分は国が補填することも視野に入れている。また、企業がサプライチェーンを中国に依存していた態勢を見直すことの後押しも検討する。

金融市場で株安の連鎖が続き、先が見えない不安心理が広がるなか、景気後退リスクが現実味を増している。経済活動の落ち込みを防ぐ対策に各国が苦慮するなか、日本でも迅速な財政出動が必要になってきた。政府は、緊急経済対策について、早ければ来月のとりまとめを目指すが、需要創出に即効性のある施策とは何か、精査が求められる。

(執筆:フジテレビ解説委員 智田裕一)

智田裕一
智田裕一

金融、予算、税制…さまざまな経済事象や政策について、できるだけコンパクトに
わかりやすく伝えられればと思っています。
暮らしにかかわる「お金」の動きや制度について、FPの視点を生かした「読み解き」が
できればと考えています。
フジテレビ解説副委員長。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了
フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、兜・日銀キャップ、財務省クラブ、財務金融キャップ、経済部長を経て、現職。
CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)1級ファイナンシャル・プランニング技能士
農水省政策評価第三者委員会委員