16日のニューヨーク株式市場は急落。ダウ平均の下げ幅は一時3000ドルを超え、2万ドルの大台割れも目前となってきた。FRBが緊急利下げを行っても、市場の新型コロナウイルス感染拡大への不安が止まらない。さらに欧米での入国制限の動きに、世界不況への懸念も強まっている。

日本では東京オリパラ中止への懸念も広がっている。今後の世界と日本の株式市場・経済の行方をマネックス証券チーフ・ストラテジスト広木隆氏に聞く(聞き手:解説委員鈴木款)

恐怖とパニックが市場を覆い尽くしている

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ーー昨日ダウ平均が一時3000ドル下げるなど、市場はパニック的な売りが続いています。

広木氏:
3万ドルを目前にしていたダウが、わずか1ヶ月で1万ドル吹き飛ばしました。この相場は理屈を超えたパニック売りで、市場参加者は真っ当な判断をしていません。リーマンショックと違い、ウイルスによる自粛や規制による需要の喪失なので、それが収まれば戻るというところまで判断していません。

ーーやはりパニック売りですか?

広木氏:
アメリカの株価はこれまで割高でした。指標的に言えば、PERは13倍、PBRは2倍以上とまだ調整の余地があるので、ここまで下げても株価の評価としては異常では無いといえます。ただ下げのスピードは常軌を逸しています。なぜなら取引の要因が恐怖だからです。つまり投資家が恐怖心、パニックに駆られて、真っ当な判断をしていません。株式市場の基本的な機能の一つに「価格発見機能」があります。高い企業を売って安い企業を買うということですが、いま投資家はとにかく資産を売っています。

ーー株式だけでなく金も原油も売られていますね。

広木氏:
安全資産と言われた金まで売られて急落していますね。この状況は「Cash is King」、常に現金にして手元におきたいという「換金売り」ですね。こういう行動が出るときは、当然価格が間違ってきます。

マネックス証券チーフ・ストラテジスト 広木隆氏
マネックス証券チーフ・ストラテジスト 広木隆氏

日本は東京オリパラ中止懸念が台頭

ーー日本の株式市場はいかがでしょうか?

広木氏:
日本株はアメリカのように下げないと思います。日本はそもそもの発射台が低いのに、今回アメリカに付き合って下げてきたので、株価が明らかに理屈に合わないところまできています。PBRがリーマンショック時の過去最低の0.8倍まできていますから。そうはいっても売られるでしょうけど、アメリカのようには売られないと言えます。節目が1万6千円でしょうか。

ーー日本の場合は東京オリパラという要因も株価に影響がありますね?

広木氏:
このままいってしまうとオリンピックが出来なくなるので、オリンピック需要が失われます。中止という発表と同時に延期があれば、需要の後ずれでなんとか対処できると思いますが、中止だけが先走って発表されると、やはり一時的なショックが大きいのではないかと思います。唯一、日本株の救いはドルがしっかりしていることですね。「有事のドル」が復活しています。企業業績という点では、これまでの「リスク回避の円高」みたいになるとまずいのですが、今の水準だと救われます。

16日の東京株式市場
16日の東京株式市場

「有事のドル」が復活した

ーー有事のドルですか。一方でドルの調達金利が上がっていますよね。

広木氏:
いま皆がドルに逃げ込んでいます。「Cash is King」と同じですね。いざとなれば食料品もトイレットペーパーも買えるドルと、金のどちらがいいですか?ということです。
ドルの調達コスト上がってきていますが、FRBはリーマンショックの時と同じように大量に資金供給をしています。ここが目詰まりすると金融の機能が壊れるのですが、これだけ大々的な政策が出ると戻り方は相当早いことが予想されるし、むしろバブル気味になることすら考えられます。

ーー市場では「金利下げを発表しても株価には効かない」と言う声も上がっていますが。

広木氏:
市場はいま、「いくら金融緩和をしてもコロナは退治できない」「ここまでやらなければいけないほど経済は悪いのか」といった誤解が広がり、疑心暗鬼になっています。しかし金融緩和はやらないよりやったほうがいいし、やり続けなければいけないと思います。

世界同時不況を織り込む株式市場

ーー市場は新型コロナウイルスによる世界不況を織り込み始めていますよね?

広木氏:
この先リセッション(=景気後退)に陥るのは、おそらくその通りです。企業の倒産も増えるだろうし、失業も増えるでしょう。経済に打撃があるのは避けられません。だからこの株価の下げは当然なのかというと、たぶんここが違って、戻りが早いんですよ、これは。

ーー株価は戻ると?

広木氏:
リーマンショックの時は信用バブルが破裂して、金融機関が破綻した世界金融危機でした。そうなるとさすがに戻らない。
今回は新型コロナウイルスによる世界的な自粛や規制によって需要が失われているので、収束すればこれまで抑えられてきた需要が、遅れはしますが戻ってくると思います。そこがリーマンの時と違うと思います。

ーー日本株の底値はどのくらいを見ていますか?

広木氏:
1万6千円を割れると割安すぎると思います。日本の上場企業がこれまで貯めてきた利益の3割が吹き飛ぶ評価となるので、さすがにそれは行き過ぎかと思います。ダウも2万ドルを割れたら、市場は冷静になるのではないでしょうか。

ーーありがとうございました。

【聞き手:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。