川などの水面に向かって石を投げ、水の上で跳ねるのを楽しむ「水切り」。子どもの頃に、この跳ねる回数を友達と競った経験がある人もいることだろう。
上手に跳ねさせるには投げ方にコツがいるが、もっと重要なのは“石”だ。自分に合った石を川原で探したと思うが、今、この石を持ち運ぶための「水切り石専用バッグ」が登場した。
革製品のかばんや小物を製造販売する老舗「土屋鞄製造所」が、職人の高い技術力を生かし、本気の遊び心で作るかばんシリーズ「運ぶを楽しむ」の第4弾として制作したのだ。

2020年7月から始まった「運ぶを楽しむ」は、職人の本気の遊び心を通して「わくわく感」や「ときめき」を伝えたいという思いから誕生。これまでに「スイカ」や「雪だるま」、「ワイングラス」を運ぶバッグを制作し、話題となってきた。

今回の「水切り石専用バッグ」は、石1個が入るヌメ皮のポケットが5つ並んだベルトタイプで、腰につけたりすることができる。ポイントは、平面な革を立体に成型する“絞り加工”という技法で生まれた、丸い石が入るための最適な美しい曲線だという。

流れるような動作で石が投げられる設計
たしかにこのバッグがあれば、お気に入りの石を持って、水辺に行くのがさらに楽しくなるかもしれない。なお今回は非売品とのことで現在、10月31日までの期間限定で土屋鞄製造所渋谷店に展示されている。
欲しい人もいそうだが、発売する予定はないのだろうか? また水切り石はさまざまな大きさがあるが、サイズはどう決めたのか?
株式会社土屋鞄製造所の担当者に話を聞いた。
ーー「水切り石専用バッグ」を制作した経緯は?
「水切り石専用バッグ」は、川遊びやキャンプが楽しめる秋にぴったりな、水切り石を運ぶための革鞄です。日頃鞄づくりを担当している職人が、子どもの頃水切りに夢中になった懐かしい記憶を思い出して、とっておきの水切り石を運ぶことができたなら…という大人の遊び心から製作しました。

ーー誰が考えた?
デザイナーを中心に、それを伝えるスタッフなどチームみんなで議論して考えて行きました。(過去の「運ぶを楽しむ」シリーズも同様です。)

ーー提案したとき、社内の反応はどうだった?
驚き(まさか!本当に作るの?最高だね!等)とワクワク(どんな形になるんだろう?どんな反応があるんだろう?)の両方の反応が多かったように思います。
ーー「水切り石専用バッグ」について、詳しく教えて。
<実用的な機能性を備えたデザイン>
・片手で石の出し入れが可能。流れるような動作で石が投げられる設計など、水切り石好きの人が使うなら…と使う人の動きを意識して、イメージしながら職人が仕上げました。
・石を拾う・投げるの両方に適した、肩にかけることも腰に付けることもできる、便利な2way仕様のベルトタイプ。
・水切りがしやすい石に最適なサイズ感。
・外から石がちらりと覗き、「運ぶを楽しむ」というコンセプトを形にした遊び心を表現。職人によるフリーハンドで裁断された本体部分のアウトラインは、あえて不揃いにすることで1つとして同じものはない石をイメージ。

<素材>
滑らかな手触りのスムースレザー「イタリアンショルダーヌメ革」を使用し、つるっとした石に馴染む素材感を演出。上質な品のある仕上がりで、経年変化を楽しめます。同素材は土屋鞄のビジネスバッグシリーズにも使われており、頑強な革質です。内装には防水レザーを使用しているため、革の風合いと柔軟性を保ちながら水にも強く安心です

高度な技術が必要な職人技が光る作品
ーーこだわった部分はどこ?
<職人技が光るところ>
・絞り加工
・フリーハンドでデザインした一つひとつを美しく縫製し、コバ塗りして仕上げている点
・ベロの「たまべり」やベロ裏の菊寄せ
(※たまべり=鞄の角(へり)を革でくるむ技法)


ーー大変だったことは?
デザインについては一目で石を運ぶことがわかるようにしつつ、機能を成立させる点が難しかったです。また、通常は抜き型や型紙を使用して均一に裁断するところ、様々な形の石を想定し、職人の具合でフリーハンドで裁断する点が特に難しく、高い技術力が求められます。
上からかぶせて留める「ベロ」の部分には、「たまべり」という鞄の角(へり)を革でくるむ技法など、とても小さなパーツにも小物の技術が詰まっています。
特にフリーハンドのラインには、ベロをかぶせることで全体を引き締める役割のため、細かい作業の中での微調整、高度な技術が必要になり苦労しました。

ーー鞄に入れる石の大きさはどうやって決めた?
検索したり、実際に集めたりして、概ねのサイズ感を決めていきました。
ーー完成した時、どう思った?
サンプルが出来上がったとき、想像以上に完成度の高いものに仕上がったので、みなさんにお披露目できるのが楽しみになりました!

ーー社内の反応は?
「面白いね!最高だね!楽しみだね!」一方で、お客さまや一般にはどんな反応があるんだろう.....と少し不安もありました。
「絞り技法」で作るバッグは現ラインナップにはない
ーーちなみに、「絞り技法」で作るバッグは珍しいの?
あまり一般的な技法ではなく、弊社ラインナップでは過去に「OTONA RANDSEL」(大人向けランドセル)の初期モデル(現在は仕様変更のためなし)や、バレンタイン限定製品で発売したステーショナリー(現在は販売終了)などで用いた技法です。土屋鞄の現ラインナップの中には同様の技法で作られた製品はありません。
ーー「絞り技法」について教えて
「ヌメ革」に水分を含ませ、伸ばしながら立体的に成形する技法です。「ヌメ革」に水分を含ませると、可塑性(固体に力を加えて変形させた後、その力を取り除いても、形を保ち続ける性質)が高まるので、絞り加工がしやすくなります。

今回は、木型を使用して、そこに革をはめ込むようにして立体に成形しています。木型はオリジナルで制作し、革に傷が付かないようにやすりをかけました。

ーー「水切り専用バッグ」は販売する予定はないの?
今のところ予定はありませんが、ご要望が多い場合には販売も検討していけたらと思っています。
ーー話題になったけど、どう思う?
楽しんでいただけてとても嬉しいです。職人の技術に対するコメントもいただけて大変光栄です。ニュースやSNSを見た方から、欲しい、販売して欲しい、石好きなので待っていた、というお声もいただいております。渋谷店では実物展示と試着体験ができるので、目当てにお店に来てくださるお客さまもいらっしゃいます。

ーー第5弾の予定は?
未定ですが、楽しみにしていただいているお声もあり、前向きに検討して行きたいと思っています。
ちなみに「スイカ専用バッグ」(2020年7月に発表)はTwitterで話題になり、翌年7月に数量限定で販売したところ、約2週間で完売し好評だったという。

「水切り石専用バッグ」は、石だけではなく小物入れとしても活用できるかもしれない。ニーズ次第とのことだが、販売された際には“職人の遊び心”を感じてみてはいかがだろうか。