自己効力感の国アメリカが震えた日

アメリカ人は「大丈夫、きっとできる」という自己効力感が非常に高い国です。一体どこにそんな根拠があるのかと思うような時でも、心配より自信が先に来ます。私が移住して以来そんな国が震えるのを見たのは9.11以来今回のコロナで2度目です。「なんとかなる」の明るさが国民性のアメリカ人が、外出にはゴム手袋をし、社会的距離を置き、見えない敵に震えています。

いつもなら桜が咲き華やかなワシントンが・・・
いつもなら桜が咲き華やかなワシントンが・・・
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通常なら3月は首都ワシントンDCが一年で一番華やかな時期。ホワイトハウス近くのタイダルベイシンという池では3000本の桜が咲き乱れ、毎年150万人以上が桜と日本文化を祝う「チェリーブラッサムフェスティバル」を訪れます。一国を祝うお祝いとしては全米で最大規模のイベントで、町中のレストランが桜をテーマとしたメニューを提供し、ホテルもピンクに染まります。日本を遠く離れた日本人にとって誇りを感じる時期でもあるのです。

人影のないジョージタウンの街中
人影のないジョージタウンの街中

でも今のワシントンDCはまるでゴーストタウン。3月13日に非常事態宣言が出て以来全ての文化的イベントはキャンセルとなり、3月16日以降は10人以上の集まりは禁止、レストランやカフェはテイクアウェイのみ。映画館・ジム・劇場は閉まり、スーパーや薬局以外のお店はほとんど閉まっています。町の中心部にある3つの大学は休講で学生はすでに寮を出ていて閑散としています。2週間前とは大違いです。

スーパーの棚からは完全に食品が消えた
スーパーの棚からは完全に食品が消えた

天と地の差の2週間

学生が消えたキャンパス
学生が消えたキャンパス

それまでは死者が出たとはいえコロナはまだ「アジアの問題」という感がありました。手洗いやマスクをするよういち早く周知を徹底した日本とは違い、全くのんびりしていたのです。中国・韓国・イタリア・イランで感染が拡大する中、教会では普通に礼拝が行われ、同じカップから100名を超える人がキリストの血であるワインを口にし、神父様の素手からキリストの肉であるウェハースを舌の上に載せてもらっていました。後でわかったことですがその神父様は感染者でした。窓一つない狭い部屋で30人が汗だくになるようなジムも通常通り賑わい、ハイタッチ、ハグもキスもくしゃみも普段通り。サラダバーではみんな談笑しながらトングを使いまわしていました。

ですがアメリカで最初のクラスターとなったワシントン州以外でも感染が確認されるに従い、コロナは徐々にアメリカでも人の話題に上るようになっていきます。そして最初にCDC(アメリカ疾病予防管理センター)が作ったコロナ検査薬が機能せず 検査して欲しくても検査薬がないという状態に陥り人々が慌て始めたのです。CDCのサイトには「症状があったらかかりつけの病院に電話して」とありますが、たったそれだけです。そこに追い打ちをかけるように感染が爆発的に拡大し非常事態宣言に至ります。のんびりした日常からたった2週間の出来事でした。2月末のスーパーではアルコール消毒剤がBuy one get one freeでひとつ買ったらもうひとつおまけについてくる、というくらい危機感がなかったのに。

愛する人を守るために

1日で1200人以上の感染者が出るアメリカで、人々はパニックに陥ってこの国は機能しなくなってしまうのではないか?多くのアメリカ人がそんな不安を抱えていることと思います。ですがそんな時、「そうそう!これがアメリカよ」という声を聞くことができました。

アメリカでも最も感染が拡大している州の一つニューヨークのアンドリュー・クオモ知事(民主党)の言葉は3月17日に中継されて以来繰り返し放送されています。「今は共和党だの民主党だの言っている場合ではない。我々はひとつだ!助け合わなければ解決できない!」は感動的でした。最初のイージーな対応を批判されているトランプ大統領だけど、今は真剣に取り組んでいるからその下に集結しよう。メッセージはとてもクリアで人々の心に刺さったと思います。

ニューヨーク州のクオモ知事
ニューヨーク州のクオモ知事

トランプ政権以来分断の国となったアメリカで、久しぶりに国がひとつになった感があります。なぜなら私たちの思いは同じだから。今大切なのは「愛する人を守ること」。それは家族であり、自分であり、友人であり、コミュニティーであり、世界。

今はブルブル震えているアメリカだけど、強いリーダーシップと一人一人の愛する気持ちが一緒になって、きっとコロナに打ち勝つ!そう思わせる何かがこの国にはあるのです。やっぱり自己効力感の国だからかな。それとも「最後に愛は勝つ」だからかも。「きっと大丈夫」そんな希望の光を心に灯し続けることができれば本当にきっと大丈夫な日が来る。その時まで何よりも自由を愛するアメリカ人はきっと文句を言わずにShelter in Place(不要不急の外出を避ける)に従うでしょう。だってそれが愛する人を守るためだから。

【執筆:ICF会員 ライフコーチ ボーク重子】

ボーク重子
ボーク重子

Shigeko Bork BYBS Coaching LLC代表。ICF(国際コーチング連盟)会員ライフコーチ。アートコンサルタント。
福島県生まれ。30歳目前に単独渡英し、美術系の大学院サザビーズ・インスティテュート・オブ・アートに入学、現代美術史の修士号を取得する。1998年に渡米、結婚し娘を出産する。非認知能力育児に出会い、研究・調査・実践を重ね、自身の育児に活用。娘・スカイが18歳のときに「全米最優秀女子高生」に選ばれる。子育てと同時に自身のライフワークであるアート業界のキャリアも構築、2004年にはアジア現代アートギャラリーをオープン。2006年、アートを通じての社会貢献を評価され「ワシントンの美しい25人」に選ばれた。
現在は、「非認知能力育成のパイオニア」として知られ、140名のBYBS非認知能力育児コーチを抱えるコーチング会社の代表を務め、全米・日本各地で子育てや自分育てに関するコーチングを展開中。大人向けの非認知能力の講座が予約待ち6ヶ月となるなど、好評を博している。著書は『世界最高の子育て』(ダイヤモンド社)、『「非認知能力」の育て方』(小学館)など多数。