追加緩和は空回り

アメリカのFRB=連邦準備制度理事会と日銀が相次いで追加の金融緩和を打ち出したが、市場の反応は冷やかだ。

FRBは、一気に1%利下げすることを決めて、事実上のゼロ金利政策に踏み出し、日銀もETF=上場投資信託の買い入れ枠を年間約12兆円に倍増させるなどしてサプライズをねらったが、結果は空回りに近い。

FRBのパウエル議長

投資家がリスク資産を手じまいする局面は続き、18日は、日経平均株価の終値が3年4か月ぶりに1万7000円を下回り、ニューヨーク市場でもダウ平均が2万ドルを割り込んで取引を終了した。

ECB=ヨーロッパ中央銀行も、18日、国債などを購入し市場に資金を供給する枠を新たに7500億ユーロ(約88兆円)分設けたが、市場の不安心理は払拭されていない。

金融政策で感染率は下げられない

お金のめぐりをよくすることで、危機を封じ込めようとあの手この手で緩和策を繰り出した結果、各国の中央銀行の「弾薬」はほぼ尽きた状態になった。

リーマンショックの際は、欧米が協調して利下げし、景気回復を図ったが、これまでの金融政策のやり方では、コロナショックへの効果に限界があることを、市場は見透かしている。FRBのパウエル議長が3日に「利下げで感染率は下げられない」と認めていたとおり、「金融政策で感染率は下げられない」のだ。

出番がまわってきた財政政策

中央銀行ができることに手詰まり感が色濃くなるなか、景気下支えの主軸として、出番がまわってきたのが、財政政策だ。

G7=主要7カ国は、16日の首脳による電話会議後、「金融・財政政策を含めあらゆる手段を動員する」との声明を発表した。

アメリカのトランプ政権は、17日、1兆ドル、日本円で100兆円を超える規模の経済対策を検討していると表明し、家計への現金給付や経営が悪化している産業への資金支援を打ち出したほか、イタリア、スペイン、フランスなどでも、企業支援や雇用維持などの対応策が相次いでいる。

G7首脳テレビ電話会議 (官邸インスタグラムより)

アメリカ同様、日本でも「現金給付」を検討

日本でも、政府与党が緊急経済対策の検討に入っていて、冷え込んだ消費と停滞した企業活動の双方を活性化させることが主眼となる。

浮上しているのが、「現金給付」だ。対象を「国民全員」とするほか、「子育て世帯」に絞る選択肢もあがり、いまの児童手当に上乗せする案もある。リーマンショック後の2009年には、景気刺激策として、1人あたり1万2000円を「定額給付金」として支給したケースがあり、こうした事例を参考に検討が行われている。

キャッシュレス決済でのポイント還元率引き上げのほか、商品券やクーポンの配布、国内旅行や旅先での消費を促す手段として、旅行費を割り引く仕組みも検討中だ。

消費減税を求める声も

自民党内などからは消費税の一時的な減税に踏み込むよう求める声もでている。安倍首相は、16日の参院予算委員会で消費税率引き下げを含む追加対策の必要性について問われたのに対し、「いままでの発想にとらわれない対策をとっていく」と述べ、否定しなかった。

さまざまな案があがっているが、大切なのは、実効性の精査だ。

消費や移動を後押しして、小売や旅行、観光需要を回復させる施策は、イベント自粛が減って、外出が増えていくケースでのみ、効果を発揮するから、今後の感染収束の動向がカギを握る。

現金給付は、平常時でも貯蓄にまわってしまうとの指摘が強く、人々が巣ごもり状態にあるなかでは、消費を刺激する効能はなおさら乏しくなる可能性がある。

消費税率を下げる場合は、小売店の事務負担が相当なものになるほか、将来再度引き上げる際の心理的抵抗が大きいことが予想される。税率が下がっている間、税収をあてようとしていた社会保障や幼保無償化の財源をどうするかも問題だ。

財政出動は決定打になるのか

リーマンショック後、日本では、3度にわたり、国費であわせて25兆円を超える経済対策が打たれたが、金融発の衝撃が企業資金のひっ迫を生んだ当時と、感染の広がりが経済活動の収縮をもたらしている今回とでは、危機のメカニズムが異なり、同列には比べられない。

経済の混乱を止める最も有効な手立ては感染拡大そのもののストップであり、財政による景気刺激は、医療が追い付かないなかでの、いわば次善の策に過ぎない。

規模ありきの議論は無意味だ。

感染症と財政悪化の爪痕だけが残されたということのないよう、効果の見込まれる予算措置を吟味し、的を絞って実行に移すことが求められる。

【執筆:フジテレビ 解説委員 智田裕一】