世界最大級の美術館として知られる、フランスのルーブル美術館。
このルーブル美術館の地下の会場で10月に開催されるアートフェアに、静岡・御前崎市の男性の作品が出品される。
夢中になれるものを探してたどりついた「絵画」の世界。男性が絵に込める思いを取材した。
絵で伝えたい「みんなありのままで素晴らしい」
アクリル絵の具で色彩豊かに描かれたこちらの作品。神秘的な場所に迷い込んだような、独特の世界感を感じさせる。

この絵を描いたのは、御前崎市在住の画家・Jiroこと、鈴木次朗さん(33)だ。
Jiroさんが描く作品のテーマは「自然の命」。ほとんどの作品には海と山、そして動物や植物が描かれている。

画家Jiro・鈴木次朗さん:
動物や植物はありのままで完成されていて素晴らしい、美しいと思うようになって。僕ら人間も同じ地球の一部の命、「みんなありのままで素晴らしいよね、この世界はすごいよね」という思いを込めている

夢中になれるもの探して6カ国の旅へ…
絵を描き始めたのは6年前だ。長野県で生まれ、北海道や沖縄県の石垣島で暮らした鈴木さん。その後、福岡県の工業大学に進学したが、将来の自分を想像し、「このままでは人生を楽しく歩めない」と思うようになった。
画家Jiro・鈴木次朗さん:
未来に対してワクワクしなかったし、なんとなく生きていくのかなと。自分の人生を生きないまま終わってしまうのではないかなと。それがすごく怖くなって
夢中になれるものを探して、大学卒業後はワーキングホリデイビザを利用してオーストラリアやカナダへ。さらに、ペルーやボリビアなど6カ国を旅した。

鈴木次朗さん:
やりたいことや求めていることに、すごく真剣に向き合って生きている人がいて、すごくかっこよかった。そういう人に出会えたことは本当に良かった
帰国後、北海道のホテルに住み込みで働いていた頃、仕事以外の時間に余裕があったため、絵でも描いてみようとスケッチブックにペンを走らせたのが、画家としての第一歩だった。

鈴木次朗さん:
絵を描くのがめちゃくちゃ楽しいなと思って、これだなと。自分の中にある思いを表現できるかもしれないと思って、それからどんどん形にしていった

生業は高所作業員 絵画教室の講師も
鈴木次朗さん 「おはようございます」
日の出前の午前4時半。まだ外が真っ暗なこの時間に、鈴木さんの制作活動は始まる。自宅横にある倉庫で毎朝1時間半から2時間、制作に没頭するのが日課だ。

鈴木次朗さん:
静かで集中しやすいし、朝の方が頭が冴えてくる
虫の声やお香の香りに包まれ、感性が研ぎ澄まされる。
新型コロナの影響で取材当時は中断していたが、市民講座で絵画教室の講師を務めたり、イベントでライブペイントを披露したりと、積極的に絵を描く楽しさを伝える活動をしている。

一方で、画家の活動を支えているのは会社員としての仕事。画家だけで暮らせるほどの収入はまだない。
鈴木さんの仕事は、送電線鉄塔の保守点検。この日は、高さ77mある鉄塔の塗装作業だ。安全に気を配りながらも慣れた様子でハシゴを登っていく。

危険が伴う高所での作業。安全第一で緊張感を保ちながらも、作品制作へのヒントを感じているようだ。
鈴木次朗さん:
海も見えるし、富士山や向こうの山も遠くまで見えて、そこから着想を得て絵を描いている。こうやって生活の基盤があって、やりたいこともやれているので感謝ですね
鈴木さんの長男:
これでいい
鈴木さん:
これどうするの
鈴木さんの長男:
これで、おえかきする

休日のこの日、自宅の庭には家族や近所の子供たちと一緒にお絵描きを楽しむ姿が。
鈴木さんは、奥さんの七奈絵さんと長女の朝陽ちゃん、長男の悠陽くんの4人で暮らしている。家族と過ごすかけがえのない時間は、何よりも大切だ。
鈴木次朗さん:
他とは比べられない時間ですよね。子供が一番楽しんでいるから、僕も楽しみたいと思うし。楽しんでいる姿を見せてあげられたらいいのかな
ルーブル美術のアートフェアに出品…世界の目利きの評価は?
本格的に絵を描き始めて6年。そんな鈴木さんに、いまチャンスが訪れている。
フランス・ルーブル美術館の地下会場で、10月22日から3日間開催されるアートフェア「サロン・アート・ショッピング・パリ」に、鈴木さんの作品が出品される。
世界各国から美術関係者やアートファンたちが訪れて鑑賞し、気に入った作品を購入する。

2020年2月にニューヨークの美術展に参加したことをSNSで発信したところ、主催者から出品の誘いがあったそうだ。
鈴木さんが出品する絵画は2点、
「Soon(もうすぐ)」と「Reconnection(再接続)」だ。


目の肥えた美術関係者に鈴木さんの作品は、どう評価されるのだろうか。
画家Jiro・鈴木次朗さん:
どこまでいけるかゴールは分からないけど、今に集中してやっていきたい。特に先のことは、いい方向にいくと信じているだけ

夢中になれるものを探して世界を旅し、絵を描くことにたどり着いた画家のJiroさん。
今度は自分が表現した絵で、世界の人たちに喜んでもらいたいと絵を描き続けている。
(テレビ静岡)