25年後に咲いてくれた「淡墨桜」

昼は青空と菜の花、夜はライトアップされ闇の中に美しく浮かびあがる一本の桜。
神奈川県秦野市蓑毛(みのげ)地区に住む猪股義晴さん(71)の畑にひっそりとたたずみ咲いてる。

 
 

昼と夜、二度楽しませてくれるこの桜は、日本三大桜の一つ、淡墨桜(うすずみざくら)の子孫だという。

 

蕾の間はピンク色、花が咲くと白、散りぎわには墨をボカしたような色合いを見せる事からその名がついた。

 
 

桜は、猪股さんが30年前に知人から譲り受けた苗木を畑の隅に植えたもので、何度春を迎えても花がまばらに咲くだけで、多くの花をつけることはなかった。

淡墨桜を植えた 猪股義晴さん

25年が過ぎても、木の幹だけが育つばかり。
あまり花をつけない桜だろうとあきらめ、伐採することも考えた翌年の春、奇跡のようなことが起きた。

桜は満開の花を咲かせ、蓑毛の春に彩りを添えたのだ。空に向かって伸びる枝一杯に花を咲かせている。

 

一本桜が映えるように、黄色い花の“相棒”も

25年間、咲かせる力を失っているように見えた桜が、その力を内に秘めていたことを目の当たりにし驚いたという。
猪股さんはひとりでも多くの人に見てもらいたいと、畑に人を入れて公開することを決めた。

 

咲き始めて2年目には、桜の下に菜の花の種を蒔いた。
黄色い絨毯を敷き詰めたいと考えた。 晴れた青い空に桜の白、菜の花の黄色が時を忘れさせる。

 

猪股さんが創り出した「春のコントラスト」、菜の花の開花にも苦労したという。

桜は一度咲き始めてからは手をかけなくても咲いてくれたが、桜の開花に菜の花の開花を揃えることに試行錯誤が必要だった。

 

菜の花の黄色い絨毯に映える一本桜が実現した。

「映え」を意識した数々の仕掛け

猪股さんは最近の写真映えブームも意識している。

 

菜の花畑の傍らに「ほうきをお使い下さい」との表示がある。
用意されているほうきにまたがって菜の花畑でジャンプすれば、誰もが「魔女」に変身できる。

 

「飛んでいるように見える?」
ぽかぽか陽気の中、菜の花畑は笑い声に包まれる。

 

桜の下には手作りの池もある。

水面に映る景色。
静寂の中、シャッター音が聞こえる。

 

この場を訪れる多くの人が、池の前で足を止め、幻想的な逆さまの世界に引き込まれる。
今年は、桜と同じ高さの丘に菜の花畑が作られ、桜と菜の花を一緒に写真に収めることができるようになった。

 

大人も子供も楽しめる仕掛けを増やし、蓑毛に賑わいをもたらしたいと語る猪股さん。

この桜をきっかけに少子高齢化が進むこの地域をより多くの人に知ってもらい、元気づけたいと願っている。

「日本三大桜」が並ぶ

咲き誇る淡墨桜を見下ろせる丘には、日本三大桜の残り2つ、滝桜と神代桜が植えられている。

日本三大桜(左から) 滝桜、淡墨桜、神代桜

2メートルほどの若木は“先輩桜”に負けまいと、空に向かって枝を伸ばし、滝桜は花を咲かせ始めている。

滝桜

三大桜全てを、この場所で見られるようになる日を楽しみにしている猪股さんは「こちらの桜は何年かかるだろうか」と微笑んだ。

神代桜

猪井さんは世の中が自粛ムードに包まれ、気持ちが沈んでいる今こそ、桜を見て元気を出してほしいと考えている。

 

しかし、新型コロナウイルス拡散防止のためには、一番見ごろに外出を控えなければならない。
25年で花をつけた里山の一本桜は、気持ちを察しているのか、「また来年おいで」と、満開の両手を優しく広げて語りかけている。

取材後記

私は事件や事故のニュースを伝える報道カメラマンだ。
連日新型コロナウイルス感染に関する報道取材をする中で、感染拡大防止のための外出自粛要請によって、直接桜を見に行く事ができない人の自宅に桜を届けたいと思った。

葦毛の淡墨桜は、暗い話であっても伝えなければいけないニュースと向き合う私の背中をそっと押してくれたような気がした。
放送を通して、葦毛の淡墨桜が視聴者に優しい気持ちを伝えてくれることを願っている。

取材者も”ほうき ジャンプ”

執筆・撮影:取材撮影部 カメラマン 増子駿一
技術担当:報道情報技術部 木藤崇

取材した淡墨桜の住所: 神奈川県秦野市蓑毛453