TikTokでシンデレラボーイ物語
この物語の主人公は自称「なにやってもうまくいかない」平凡な三十路男。
そんな男が、ある日、自作の曲をTikTokにアップすると…
ある人気アニメーターは、PVを作り…
また、あるインフルエンサーは振り付けをアップし…
ついにレコード会社からも声がかかりメジャーデビューを決めてしまうという、まるで現代のおとぎ話に聞こえるかもしれないが…
実は、決して他人事ではない。誰にでも、起こりうる話なのだ。
これは、すべてが平均点のまま、ただ子供のように夢だけを見ていた男が、はじめて大人になった物語である。
好きなことだけして生きていく人生
一体、なぜ“誰にでも起こりうる”のか…
本人のインタビューを聞けば、あなたも思い当たる節があるはずだ。
番組スタッフ:
どんな学生だったんですか?
meiyo:
いやーもう、なんというか、人畜無害というか、何もしない人、何もしてない…。
明るくもなければ、暗くもなくて。真ん中の人というかなんというか、そんな感じでしたね。

目立ちもしなければ陰キャでもない…
彼こそが後にメジャーデビューを果たす事になるmeiyo(めいよー)という。
高校を卒業したての彼は、まだ“大人”には、ほど遠かった。
meiyo:
人の下で動くみたいなのの想像を全くしてなくて、当時…ちょうどバンドを始めたんですよ。オリジナル曲を演奏するバンドを始めて…
進学もせず、就職もせず、まさに「好きなことだけして生きていく」人生を歩んでいた。もちろん、それだけで食べていけないのは世の理。
meiyo:
ずっと近所のスーパーの野菜コーナーで働いてました。10年ぐらいですかね。
でも真面目にやって、バイト先では、人生初めてのスカウトもされた。
meiyo:
スーパーの野菜売り場から、その店長が別のとこでまた、野菜売り場を始めて、そっちに移ったりとかもしたんですけど…
番組スタッフ:
そういう移籍があるんですね。
meiyo:
引き抜きされました。初めて…
もちろん、片手間ではバンドが売れるはずもなく、24歳で解散。これでやっと就職活動かと思いきや、今度はソロで活動し始めたmeiyoだったが…
meiyo:
本気で前のめりにガツガツ活動するみたいなことに対して、ちょっと訝しげな目線で見ていたので、諦めは強かったですね…でも諦めてないっていう一番ダサいというか…
25、26、27……どんどん三十路が近づいても、相変わらず好きな音楽と、バイトしかしないmeiyo。
“バズったもの勝ち“TikTokで訪れた人生の転機
ところが、人生、捨てる神あれば、拾う神あり…
ポツリポツリとネットに上げ始めたオリジナル曲に、ある音楽関係者がこんなアドバイスをくれた。
meiyo:
その方が「今はTikTokだよ…」っていうことを教えてくれたんですよね。
なるほど、TikTokか…と目覚めたmeiyo。遅まきながら今年3月に、“TikTokデビュー”すると…
meiyo:
どんな曲が今、若者の間で流行ってるのかみたいなのをもの凄く研究して…
自分より遙かに年下が作った動画まで研究し、はじめて投稿したのが、この「うろちょろ」という曲。

いかにも“イマドキ”を狙った感が漂うが…
meiyo:
いきなりそれが…
他は200再生とかなのに、それだけ20万再生っていう状況になって…
そう、“バズったもの勝ち”が、TikTokの世界!
なんと、これをキッカケにユニバーサルというメジャーレーベルから声がかかったのだ!
meiyo:
嘘でしょって、嘘はやめなよって思いました。これまでメジャーレーベルはおろか、レーベルというもの自体と契約みたいなことを全くしたことが無かったので、ついにいけるかもしれないと上向きな気持ちになりました。
諦めないでよかった…続けて来てよかった…
音楽を始め12年…はじめて達成感を嚙みしめたmeiyoだったが…なんと、皮肉なことにこのメジャーとの出会いが、彼を追い詰めることに…
もがいた末に浮かんだフレーズが…
担当者との打ち合わせでは、
担当者:
meiyoさんの楽曲は、やっぱりTikTokとの相性がいいと思うんで、これからは、短くてもワンフレーズ出来たら投稿していく形にしようとおもうんですよ。
それはまさに、SNS時代ならではの戦略だった。
meiyo:
まだ全編完成してない曲を小出しに発表していくのはどうだろうっていう案が出て、Aメロだけ、サビだけ…とか、とりあえず完成したところから公開していくっていうやり方に変わりましたね。
しかも、この方法なら…
担当者:
2日に1回くらいは投稿できるでしょ、meiyoさん!
そう、ひたすら投稿し続ける事ができる。はじめて声をかけてくれたレーベルのため、meiyoは…
meiyo:
本当にいろんなジャンルの曲を作って…バンドっぽい曲も作ったし、打ち込みっぽい曲も作ったし、あとボーカロイドに歌わせるっていう曲も作ったし、めちゃくちゃの僕の持っている全てを吐き出したんですよ…
自らが12年間で培ってきたもの全てを注ぎ込む、まさに総力戦だった。しかし…
meiyo:
全然ダメで。せっかくユニバーサルから声をかけてもらって、一緒にやってるのに、なんだこれはって言う。僕が僕自身にかなり失望したんですよね…もう僕の出せる球、全部出して、全部ダメだったっていうところですね…
ダメだった…
せっかく憧れていた音楽業界から声がかかったのに、全く期待に応えられなかった…
結局、自分に才能などないのだ…やっぱり自分は、超平均的でどこにでもいる、平凡なヤツなのだ。
そう思った時、浮かんだのが、このフレーズ…
“なにやってもうまくいかない”

meiyoさんに共感の連鎖…総再生回数1億回!
それは、狙いも、戦略もなんにもない、ただ、
平凡な男が吐き出した、嘆きだった。
meiyo:
これはそのまま言っちゃおうと思って…。
これまで作ってきた曲もダメだし、動画投稿してももうダメだし、うまくいかないやっていうことをそのまま言っちゃおうって思ったんですよね…
もう、アーティストの美学も、哲学も関係ない。そんな思いで、TikTokに投下したmeiyoの本音爆弾は、ついに、みんなの心の中で炸裂する…
オタ芸バージョンに…
木魚をたたくアニメバージョン…
プロによる、本気のピアノバージョンなど…
様々な人の手で、カバーの嵐となり…
meiyo:
ついにはアニメーション、トキチアキっていう感じだったはずなんですけど…
「トキチアキ」とは、TikTok界では知らぬ者がいない伝説のアニメーターのこと。そんな人が、まさか自分の曲にアニメーションをつけてくれるとは…

トキチアキさん:
ご依頼頂いて作るんじゃなくて、自分が自発的に作りたいなって思ったのが初めてだったので、この衝動と衝撃は忘れちゃダメだし、これは“作るためにあるな”というのがあったので。一日ぐらいで仕上げて作って、(TikTokを)あげたんです。
さらに、魂の連鎖は止まらない…
meiyo:
本当に“いきなり600万再生”みたいなぐらいの伸び方をしたんですよ。一番どでかくこの曲を広めてくれたのは、“なえなのさん”っていうインフルエンサーの方なんですけど…

SNSの総フォロワー数600万人超え。いま最も注目される20歳のインフルエンサー、「なえなの」さんがなんと、自作の振付けを踊ってくれたのだ!
なえなのさん:
TikTokでこう曲を出している方ってたくさんいるんですけど、“なにやってもうまくいかない”って、まず何か、いい感じではないじゃないですか。テンション感的に…
本音だからこそ、インフルエンサーの心にもストレートに届き…
なえなの:
これはもっと広まるべきだな、というか。私が出来ることがあればしてみたいなって…
“思わず肩入れしたくなる曲”は、なんと、総再生回数1億回を超えてしまった…!!
不思議なものだ…
自由にやっていた頃はまったく誰の目にもとまらなかった作品が、誰かの期待に応えようとした途端、パワーを持ち始める。
meiyo:
好きなことだけやってた12年間の末に、本当にこんなに一瞬、19秒だけの動画で、しかも僕の知らない人達がその曲を使って、投稿してくれた動画をきっかけにメジャーデビューっていうのは、本当に人生の変わり方がすごいなって思いますね。

好きなことだけをして生きてゆくのは、とても素晴らしいに違いない。
けれど、誰かの期待に応えるため必死になる瞬間があったって、それは決して、悪くない人生だ。
(「Mr.サンデー」9月26日放送分より)