70年以上続く長野県佐久市の名物喫茶。3代目夫婦が守ってきたが夫が大病を患い、閉店寸前に陥った。窮地を救ったのは東京から戻った長男夫婦だ。
サラリーマンから調理を学び…地域に愛され70年以上
落ち着いた店内にコーヒーの香りが広がる。佐久市中込の「純喫茶 明正堂」。

建物は地域のシンボル「旧中込学校」を模していて、70年以上にわたって住民に親しまれてきた。

以前、取材した時は田中克さん(73)と美知子さん(72)の夫婦が切り盛りしていたが…。

今は長男の孝明さん(43)と妻の奈央子さんの夫婦が手伝っている。

田中克さん:
やっぱりうれしいですよ。お客さんも「明正堂がなくなると寂しい」って言いますからね

実は2021年、明正堂は閉店寸前まで追い込まれた。試練を乗り越えて今の活気がある。
明正堂は元々、美知子さんの祖父が大正時代に始めた和菓子店だった。2代目の美知子さんの父・頼太さんはハイカラ好きで、戦後まもない1948年に喫茶店に変えた。旧中込学校を模した建物にしたのも頼太さんのアイデアだ。

克さんは美知子さんと結婚するまでサラリーマンの経験しかなく、専門学校に通って調理を学び、先代の味を受け継いだ。
一番のこだわりはブレンドコーヒー。コロンビア産をメインに5種類の豆を使っている。70年変わらぬ味だ。

田中克さん:
これ、先代からのこだわりで私が継承していくだけ
2020年は新型コロナの影響で売り上げも減ったが…
田中克さん:
明正堂っていうのを皆さん知って楽しみに来ますから、自分ができるまで頑張って、恩返しじゃないけどやっていきたい
父の病気で店は休業 東京で暮らす息子が決断
美知子さんと一緒に店を守っていこうと考えていた克さん。しかし、思いがけない事態に見舞われる。
田中克さん:
自分が12月に重い病を患ったので、6月の半ばごろまで休ませていただきました

2020年12月に病気が発覚し、2021年1月から3月まで入院。闘病のため、店は長期の休業に入った。店をたたむことも考えたという。
田中克さん:
今まで一番長くても2日くらい、休んだのは。こんなに長く休むのはなかった。もうこれ(店に)立てないかと…

都内の音楽関係の会社に勤める長男・孝明さん。父と店のピンチを聞き、佐久に戻るべきだと考えた。
長男・孝明さん:
とにかくショックだった。明正堂っていう喫茶店は、高校卒業まで僕が育っているというのもあるけど、長野から離れて東京にいて、ここの大切さをすごく理解できましたし…。東京でこうやって仕事できているのも2人が頑張ってくれていたと考えると、やっぱり明正堂はなくしたくないなという、その一心

仕事はリモートワークで続ける目途が立ち、孝明さん一家は4月、佐久に移った。妻の奈央子さんの協力もあり、店は半年の休業を経て6月に復活した。
店の再開に常連客からもよろこびの声

田中克さん:
ものすごく言われる、オープンして良かったな
妻・美知子さん
本当うれしいです、私としては。どんどんお嫁さんが動いてくれるので私の場がなくなっちゃったら困るなんて思いながら
克さんは通院しながら時折、厨房に立っている。
田中克さん:
トントンっていかないね。筋肉落ちたわ、昔と比べりゃ全然
常連客:
少し休んだ時があった。その時は何となく心配しながらいましたけど、再開できてよかった。味も変わりません

再開を心待ちにしていた常連の一人が、元幕内力士・大鷲の伊藤平さん。克さんの実の兄だ。
伊藤平さん(田中克さんの兄):
やってないと寂しいからね。お互いに健康管理が一番だから

「父の味を守り、お客さんに愛される店に」
孝明さんはリモートワークのない休日、店に入る。全く経験がないため、今は味を受け継ぐ修行中だ。
田中克さん:
そーっと「の」の字を書いて待つ。これの繰り返し
長男・孝明さん:
なるほど
サラリーマンから喫茶店の主となった自分と、今の孝明さんが重なる。

田中克さん:
大丈夫だ、大丈夫。100点まではいかないけどそれに近い、大丈夫ですよ
長男・孝明さん:
なかなか父の味に近づけるのは難しいな。修行が必要ですね

窮地を脱した明正堂。長く愛されてきた味や香りは「4代目」へと受け継がれようとしている。
長男・孝明さん:
うちの父母の生きがいでもある場所だと思うので、なくしちゃいけない場所。明正堂の軸はぶらさずに本当にお客さんに愛してもらえるようなお店づくりをしていきたいですし、新しい発想も取り入れながら、若いお客さんにも楽しんでもらえるようなお店にしていきたい
田中克さん:
もう、うれしいだけ。あとは頼むねってだけ…。お客さんに愛される店、自分を愛すじゃなくてお客さんに愛される店をつくってもらいたい
(長野放送)