新型コロナウイルスの感染拡大はいまだに終息の兆しが見えない。
シリーズ「名医のいる相談室」では、各分野の専門医が病気の予防法や対処法など健康に関する悩みをわかりやすく解説。
今回は、福岡県飯塚市にある、飯塚病院感染症科部長の的野多加志先生に、3種類の新型コロナウイルスワクチンの違いについて話を聞いた。
この記事の画像(12枚)デルタ株に効果的なワクチンは?
飯塚病院感染症科部長・的野多加志先生:
新型コロナウイルスに対するワクチンは、1年ぐらいの開発期間で、実際に投与し始めてまだ1年も経っていないワクチンになります。
新しいというのは間違いないですし、大切なのは、どのようなリスクがどれ程の頻度でどういった方々に起こりやすいのか、正しい情報を取って頂くことです。
モデルナとファイザーは、mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンという種類は似たようなもので、デルタ株に対する効果は報告によって差はありますが、6割~8割くらい予防効果があると考えられています。
今までのデータだと、モデルナとファイザーの違いはそれほど大きくないと考えられていましたが、最近はもしかしたらモデルナの方がデルタ株に対して効果が高いのではないかという研究結果が出ています。
まだ、データが数本ぐらいしか世界で発表されていませんので、果たしてその差が今後も本当に有意な差なのかどうかは検証していく必要があると思います。
もう少しデータの蓄積を待つ必要があると思います。
モデルナとファイザーの違いは?
ワクチン自体のいわゆる作用機序はあまり変わらない。
mRNAという脆弱な情報伝達物質をカプセルのようなもので守っています。これは添加物と言われていますが、そういったものの成分が少し違う。
多少、副反応の違いも報告されています。
例えば、倦怠感や発熱、いわゆる全身の副反応に関しては、ファイザーよりもモデルナの方が少し多い。約10~20%ほど多くなると言われています。
また、1つ特徴的な副反応としては、日本では「モデルナアーム」という俗称が言われていますが、世界では「コビッドアーム」と言われていまして、打った腕が赤くなってくる、かゆくなってくるという副作用があります。
モデルナの方がかなり頻度が高く、接種した後、遅れて7日目ぐらいで出てきて、4日間ぐらいで自然と良くなっていくような反応になります。
そういった反応がモデルナとファイザーでは頻度が違うと言われています。
アストラゼネカ製ワクチンとは?
アストラゼネカワクチンは、「ウイルスベクターワクチン」というワクチンで、mRNAワクチンとは少し違ったものになります。
「ベクター」というのは、「運び屋」という日本語が付いていますが、人体に悪影響のないウイルスの中に遺伝子情報を入れて体の中に運ぶ、といったワクチンの種類になります。
2019年から欧米諸国では、エボラウイルス病に対するワクチンとして承認されている技術のワクチンで、すでに新型コロナ以外ではヒトに投与が始まっているワクチンになります。
接種間隔は、ファイザーは基本原則3週間おき。モデルナは4週間おきに打っていますが、アストラゼネカは4~12週空けて2回打つということで、接種間隔の推奨が少し異なります。
2回打つというのは同じです。
アストラゼネカの副反応は?
アストラゼネカ製のワクチンは、血栓、つまり血液の中に血が固まったもので詰まってしまう副反応が、稀ですが報告されています。
その頻度は、10万人あたり1~2人程度と言われていますが、この血栓が起こりやすいのは50代未満のある程度若い方、かつ女性にやや多いと言われています。
そういったごくごく稀で、かつ医療機関で治療できる副反応ではあるのですが、頻度がある程度年齢によって違うというのがわかっているので、各国いろいろな年齢制限を作っていて、日本は40歳以上をまず対象にすると決めています。
アストラゼネカのメリットは?
ウイルスベクターワクチンのメリットは、mRNAワクチンに含まれているポリエチレングリコールという成分などにアレルギーがある人に対しても打つことができるワクチンですし、日本国内で生産できるので、流通の問題がある程度解決できます。
もう1つは、冷凍ではなく、冷蔵保存が可能なので、これもまた流通の問題を少し改善できる可能性があります。
この2点の特徴があります。
アストラゼネカの予防効果は?
発症の予防効果という点では、変異のない野生型では約7割、デルタ株では約6割と言われています。
mRNAワクチンと横並びに比較すると、ほんの少し発症予防効果が落ちているように見えますが、毎年打たれているインフルエンザワクチンの発症予防効果は約4~6割と言われています。
WHO(世界保健機関)がワクチンとして承認するのは、「発症予防効果50%以上」とされているので、ワクチンとしては世界的に十分認められている発症予防効果になります。
感染者が急激に増えている現状では、選り好みをするのではなく、早く手に入ったワクチンの種類を打つのが、世界的に基本的な考え方となっています。