終戦の日に「日本が再び戦争をしないよう」願う日本人は少なくないだろう。しかし、日本は知らず知らずのうちに再び戦禍に巻き込まれる道を歩んでいる恐れはないのか。

戦後76年を経て日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増す一方だ。8月15日放送のフジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」では、冷戦に突入したと指摘される米国と中国、その二大大国それぞれと深い関係を持つ日本の立ち位置を考えた。

アメリカ軍幹部が、台湾有事は「あるかどうかではなく、何時起きるかという問題だ」との認識を示したことについて、国家基本問題研究所理事長の櫻井よしこ氏は、「その通りだ」と強調した。

河野克俊・前統合幕僚長は、台湾有事のシナリオについて、中国がまず台湾本島ではなく、離島を奪取する可能性に言及した。その場合、アメリカ軍が動かない可能性があることや、中国に対抗措置を取るかどうかで台湾世論が二分する可能性があることを指摘、その事態を「考えておかなければいけない」と強調した。

自民党の新藤義孝政調会長代理は、「中国がアメリカをしのぐ圧倒的な力を持ったときに台湾有事は必ず起きる」と指摘。そういう事態を招かぬよう、クワッド(日米豪印)など民主主義国を中心とした大きなネットワークで中国に対する優位性を保ち、中国が間違った考えを持たないようにすることが重要だ、と述べた。

中国が核弾頭搭載可能な中距離ミサイルを多数保持していることに関し、櫻井氏は「日本は非核三原則から『持ち込ませず』を外して非核二原則に戻る」ことを主張した。河野氏は、アメリカのバイデン政権が地上配備型中距離ミサイルを日本に「配備させてほしい」ではなく、「同盟国として持ってほしい」と言ってくるかもしれないとの認識を示した。

これに関し、レギュラーコメンテーターの橋下徹氏(元大阪市長・弁護士)は、「自国を守るために中距離ミサイルの日本配備は絶対に必要だ」と強調。「同盟国アメリカとのミサイルシェアリング」の必要性にも触れた。

以下、番組内での主なやりとり。

梅津弥栄子キャスター(フジテレビアナウンサー):
戦後76年、変わりゆく世界情勢の中、今後日本はどう立ち振る舞っていくべきなのか。バイデン政権の対中基本戦略についてアメリカの政治・外交が専門の前嶋和弘教授(上智大学)は「強硬姿勢を維持しながら国際社会に従わせることを目指している」との認識を示した。

松山俊行キャスター(フジテレビ政治部長・解説委員):
アメリカはオバマ政権までは中国への関与政策で民主化させることを考えていたが、事実上無理だと判断し、トランプ政権以降かなり強硬策に転じている。中国を国際社会のルールに従わせる、とのバイデン政権の政策は機能すると考えるか。

河野克俊前統幕長:
いまの中国の体制ではなかなか難しいと思う。海洋進出に際し、海洋での国際ルールを中国は守っていない。やはり守らせる必要がある。そのため、クワッドにヨーロッパ諸国が加わってきている。

松山キャスター:
日米豪印。

河野氏:
そうだ。それに加えてヨーロッパ。この枠組みによって(中国の行動を)変えさせるというよりも、国際法無視の行動をできるだけ抑制する、この政策を推進すべきだ。中国は、ASEAN(東南アジア諸国連合)に対しても各個撃破だ。ここは多国間で中国に対応することが一番得策だ。

松山キャスター:
海洋進出の勢いを強めている中国について、一番焦点なのは、台湾をめぐる情勢だと思う。アメリカ海軍の幹部は「台湾有事は何時かの問題であって、あるかないかの問題ではない」と、時期の問題だけなのだと、言っている。

櫻井よしこ氏(国家基本問題研究所理事長):
私もその通りだと思う。習近平体制にとって、習近平国家主席が政権を守るため、自身が第二の毛沢東になるため、台湾はどうしても統合しなければいけない。その準備ができたとき、そして政治的に決断をするときが、まもなく来るのだろうと思う。こちら側も抑止するのに十分な力を持たなければいけない。中国はいま非常に早いペースで核戦力を拡大している。中国とロシアとの合同軍事演習をみても、容易ならざる決意をもってやっていると。

松山キャスター:
台湾については、なぜ中国がそこまでこだわるのかというのをみていきたい。

梅津キャスター:
中国を中心にして地図を逆さにしたものだ。中国が海洋進出しようとすると、奄美、沖縄、石垣、そして尖閣諸島や台湾などがふさぐような形になっているのが分かる。ちょうどこれが第一列島線と重なる。いかに中国にとって台湾を抑えることが重要かが分かる。そこで河野前統合幕僚長がもっとも可能性が高いと考える台湾侵攻のシナリオが台湾の離島奪取だ。

松山キャスター:
台湾の本島ではなく離島を奪取するというシナリオが考えられるとのことだが、どういう意味か。

河野氏:
中国は経済発展とともにいま海洋進出している。これは理解できる。ただ、問題は国際ルールに中国が従っていないということ。彼らの考え方は、第一列島線の内側は自分たちで排他的にコントロールするというのが彼らの海軍戦略になっている。いま一番自分たちでコントロールできていないのが台湾と尖閣だ。香港もそうだったのだが、もう抑え込んだ。毛沢東や鄧小平の時代であれば、海洋進出をそれほどしていなかったので、台湾をこのままに置いておいても、まあ、いいかなという時代があった。しかし、いまはそういう時代を通り過ぎて、海洋進出のために台湾は絶対不可欠になってきた。この台湾問題というのは毛沢東、鄧小平時代よりも解決しなければならない緊急性が中国にとっては高まっているということが言える。離島については、例えば、東沙島という中国側に近い島がある。実質的に主権を持っている。守備隊が250人ほどいるが、民間人はいない。例えば、この島を中国が占領するとなると、台湾にとっては完全なる主権侵害だから、台湾政府としては絶対反応せざるを得ない。しかし、離島(占領)でアメリカが出てくるかとなると、なかなか判断が分かれるところ。そうなった時、台湾内で、政府を支持して奪還だという勢力もあるだろうが、こんなことで大陸中国と本当に戦争するのか、という人たちも出てくる。こうなると国論が二分し、臨時革命政府のようなものが出てくるなど、さまざまなシナリオが考えられる。可能性としては離島奪還というのは考えておかなければいけない。

松山キャスター:
台湾の中の世論も二分して、反撃に出るべきかどうかで混乱が生じる可能性があるということか。

河野氏:
そうだ。

新藤義孝・自民党政調会長代理:
大事なことは、台湾有事がいつ起きるかというと、それは、中国がアメリカをしのぐ圧倒的な力を持ったときに必ず起きてしまう。だから、そうさせないことが重要。中国は一帯一路の世界戦略を組んでいるが、すべてバイ(個別)だ。中国と相手の国との2国間を強めようとしているだけだ。私たちはそうではなく、クワッドも含め、もっと大きなネットワークをつくり世界の秩序をつくろうとしている。そこに私たちに優位性がある。中国に自分たちにはそういった力があるのだと、間違った考えを持たせないことが重要だ。
中国が国際社会のルールに従うのではなく、国際社会のルールは皆で作るのだと。なぜ台湾問題にあれほど固執するか、尖閣を狙っているかというと、国は海を使わないと経済を維持できない。中国が太平洋に出て行こうと思うと、現実に自由に動けるところは、沖縄と宮古の間しかない。あとは日本列島と台湾がかぶさっている。南シナ海も同じ。なぜ中国は自分のものにして我が物顔でそこを使おうとするのか、皆の海なのだから、ルールを守りながらお互いに使えばいいではないかと。できるのだということを彼らに思わせなければいけないのだが、彼らは自分たちでまず手に入れてからと思い込んでいる節がある。そんなに心配しなくても皆でルールを作ろうよと。あなたに従わせるのではなく、皆で一緒に平和をつくっていくのだと言い続けるしかない。

レギュラーコメンテーター・橋下徹氏(元大阪市長・弁護士):
言い続けて中国は従うのか。

新藤氏:
従うと思う。

櫻井氏:
従わせるためにはこちら側の力を強くしなければいけない。力のない発言はダメだ。現実に中国はものすごい核の数を増やしている。ミサイルの数も増やしている。そのことにアメリカは強い危機感を感じている。中国がそのつもりであるならば、日本も、例えば、アメリカの中距離弾道ミサイルを日本に配備しますと。いま非核三原則で「作らず、持たず、持ち込ませず」だが、「持ち込ませず」を外して二原則に戻ることをきちんと言うなど、こちらにも戦う意思はあるということをこの場面でしっかりと見せることが大事だ。

松山キャスター:
トランプ政権時代にボルトン元補佐官らが日本への中距離ミサイル配備について言及していた。

河野氏:
中距離ミサイルには核弾頭と通常弾と両方ある。中国はおそらく1,250発以上持っていると言われている。アメリカは地上発射の中距離ミサイルはゼロだ。このギャップを埋めるためにアメリカは絶対に手を打ってくる。「日本に配備させてほしい」とのことがあると思うが、日本に「持ってくれ」と言ってくると思う。バイデン大統領は同盟国と「一緒にやろう」と言っているからだ。日本もアメリカに言われてからではなく、抑止力として中距離ミサイルを日本が自主的に持つことの議論を始めるべきだ。そうなった時に必ず専守防衛の議論が出てくる。この際、専守防衛とはどういう意味なのか、盾と矛の関係も本当にこのままでいいのかということも含めて、正面から国民に議論を提起すべきだ。

櫻井氏:
良いチャンスだ。

橋下氏:
僕は中距離ミサイルの日本配備は絶対に必要だと思う。自分の国を守るという意味でもアメリカ同盟国とのミサイルのシェアリングは必要だ。それをどう管理するかという議論はあるが、ぜひ国会で議論してほしい。地元では大反発くらうと思うが、これこそが国会議員の役割だと思う。

日曜報道THE PRIME
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