見ていて胸が痛くなった。負けた選手は決して言い訳にはしないだろうが、「飛沫拡散の防止のため、選手や関係者であっても声を出さずに拍手での応援を」と東京大会で課されているルールの再考を、パラリンピックに向けても求めたいと強く思う光景が広がっていた。

無観客の客席からは大声援・・・ここは本当に日本なのか?

8月4日、両国国技館で行われたボクシング男子ライトヘビー級(75-81kg)の決勝戦でのことだ。イギリスのベンジャミン・ウィテカー選手とキューバのアルレン・ロペス選手との金メダルを賭けた一戦は、まるでキューバの会場で行われているのかと思うくらいにイギリスアウェーな様相を呈していた。

両国国技館の3階席の一角にはイギリス、キューバ両国の選手や関係者がそれぞれに集まり、自国の国旗を掲げてリング上の選手を応援していた。
しかし応援の方法は正反対だ。キューバ陣営は大声を出し、せり出した3階席の縁を叩いてリズムを刻みながら大声援を送っている。その一方でイギリス陣営は、いくらキューバ陣営が大声で声援を送ろうと、精一杯手を叩き、拍手による応援を最後まで続けていた。

試合はキューバのアルレン・ロペス選手が判定勝ちで金メダルを勝ち取った。大声援を背に、ラウンドを重ねるごとに勢いを増しているように見えた。判定が下されキューバ陣営からは大歓声が上がる一方、リングを先に降りたイギリスのベンジャミン・ウィテカー選手は会場のあらゆる場所からの温かい拍手で見送られていた。

死力を尽くして闘った両選手を称えたい。しかしながら、どちらかの選手が不利にならないような平等な環境を用意するのが、ホスト国である日本の務めではないのか。

守られないことが常態化したルールでは安心安全は保てない

運営スタッフに注意を促さないのかと尋ねたが「何度注意しても聞かないので困っている」とのことだった。
会場にはIOCのトーマス・バッハ会長の姿もあったが、大声援を気にする様子もなく、最後まで視線はリング上に向けられたままだった。あれほど安心安全な大会を担保すると繰り返していたのに、明らかなルール違反に見向きもしないのは如何なものか。

同様の事案は、8月1日に行われた男子バレーボールの日本対イラン戦でも見受けられた。
日本側を応援するボランティアや関係者は皆一様に拍手で応援している。一方でイランを応援する関係者は、大声で声援を送り、日本がサーブを打つ時は妨害するような奇声を上げていたのだ。

自国開催なのにまるでアウェーかのような会場。さすがにこれはひどいと日本人記者達が会場の担当者に注意をするよう伝えた。すると彼らは一瞬控えるもすぐに叫びだし、また注意されると少し黙るを繰り返す。飛沫が気になるのだろう、彼らの周りに居た他の人達は気づけば席を移動していた。30分ほど経過し、厳重な注意を受けた様でようやく彼らは静かになった。一方でそれに対抗すること無く、拍手と無音のジェスチャーで応援し続けた日本側を誇りに思う。

ホスト国としてしかるべき対応を パラリンピックにつなげるために

プレーブックでは、違反行為があった場合の参加資格剥奪や制裁も規定されてはいるが、その適用の基準は不透明だ。守られないことが常態化したルールは、実効性のあるルールとは言えない。ここにコロナの自粛要請と同じような光景を見た気がした。

大多数の参加者はルールを守り、もしかするとこれらの日に見た試合の光景が特異なだけだったのかもしれない。しかし、正直者が損をするようなことがあってはならないと思う。

24日からはパラリンピックが始まる。IPCや組織委員会などにはプレーブックで定められた応援方法の見直しか、ルール遵守の徹底のどちらかを強く求めたい。

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(フジテレビ五輪取材班 亀岡晃伸・谷リサ子)