紙から切り抜いたアート作品“切り絵”といえば、一般的に思い浮かぶのは台紙などに貼った平面の作品。そんな“切り絵”を、立体にした作品が「素敵!」と話題になっている。
まずは作品を見てほしい。
指の上に乗るのは青と白の色合いが美しい鳥(コルリ)の姿。切り抜かれた模様はいくつもの花びらが重なっているような細やかさで、鳥の繊細な羽が幻想的に表現されている。
鳥の輪郭を形作る立体の中は空洞で、後ろから当たる光が模様の隙間に入り込み、まるで内側からも輝いているようだ。
また、2羽の鶴をモチーフにしている別の作品では、鶴の躍動感が表現されている。
もちろんこちらも、上を向くくちばしから細くしなやかな首、そして流れるような胴体と軽く広げた羽などには、紙から切り抜かれた繊細な模様が刻まれている。
この2つの作品は、立体切り絵アーティストのともだあやのさん(@unico0c_0)が「#無言で切り絵作品のせたら何RTくるのか」とのコメントと共にTwitterに投稿したもの。
#無言で切り絵作品のせたら何RTくるのか pic.twitter.com/FaZsIxHJG2
— ともだあやの (@unico0c_0) June 23, 2021
投稿には「言葉が出てこなくて…惹きつけられるように見とれていました」「切り絵ってなんだったか1度考えた…」といった称賛のコメントが多く寄せられている。
平面の作品が多い切り絵のイメージを覆すような、立体的な切り絵は、紙で作られたとは思えない見応えがある。
実際どのようにして立体の切り絵が作られているのだろうか? 制作者のともださんにお話を聞いた。
平面の切り絵を組み立てて制作
ーーどのような経緯で立体的な切り絵を作り始めたの?
始めたのは高校3年生の夏で、大学入試のためです。女子美術大学のAO入試の際に手のひらサイズの立体作品という課題を出され、当時は全然違う作品を提出する予定だったのですが、私が切り絵をよく作っているのを知っていた高校の恩師に、「自己推薦の制度を利用するなら長所を活かして自分らしく試験に臨むように」と言われ、切り絵を立体にしようと思い至りました。
ーーどうやって作っているの?
クロッキーや写真を元に曲線ごとにパターンを作り、平面の紙に切り絵を施していきます。それをビーズやつまようじを使って丸めていき、組み立てをしていきます。
道具はオルファのデザインカッターと、バンコのカッティングマット、トーヨーの折り紙タント、遠野和紙、楮、コニシの木工ボンドを主に使用してます。
ーー1つの作品に紙はどれくらい使っているの?
小さい作品だと折り紙一枚分くらいです。トーヨーの折り紙タントと自ら漉いた和紙と遠野和紙を主に使いますが、薄くて切りやすいものであればその他のファインペーパーを使う事もあります。
ーー作品の完成にはどれくらいかかる?
基本的には1〜3カ月ほどです。大きい作品になると半年から一年かかることもあります。
自由な立体感を出すという点はまだ研究中
ーー作品のアイデアはどのような時に思いつく?
オーダーをいただいて指定のモチーフを作ることもありますし、自然に触れた際に感動して作ったり、感情を元にモチーフを選定したり、制作に至る過程は様々です。
共通しているのは、モチーフが固まった後に生体や骨格などについて調べるのですが、その時にどういう場所に主に生息しているかなどの知識を元に、色味や細部までこだわる点と切り絵の柄の大小を決めていく事です。
ーー制作でこだわっている部分、苦労している部分を教えて。
こだわりは、生命感のある内側から張り出すような曲線の切り絵を施した紙でいかに再現するかという点です。もともと平面のものを組み上げるので、自由な立体感を出すという点についてはまだまだ研究中で、苦労している部分でもあります。
今後は「社会に目を向けた制作もしていきたい」
ーー今までの作品の中で印象に残っている作品は?
カラスの作品です。私はいじめを苦に新卒で入った会社を退職したのですが、原因は私の作家活動が思いのほか伸びていた事に対する妬みで、収益の1割を会社に入れるよう契約させようとするなど悪質なものでした。その中で制作する事になったのがそのカラスの作品です。
中に「不屈の精神」を花言葉に持つと聞いた紅梅を咲かせ、例え忌み嫌われたとしても自分は自分らしく生きようという決意のこもった作品になっています。
ーーでは、一番難産だったという作品は?
うさぎの作品です。初めてデフォルメを加えた作品だったのですが、元の動物の良さを生かすか殺すはデフォルメ次第なので、オフィス街の展示ということもあり、ウサギ独特の癒される雰囲気や丸み、柔らかさをどこまで切り絵に最大限活かせるかが難しかったです。
ーー今後どういった作品を作っていきたい?
今までは、自分自身に湧いた感情や感動を形にすることが多かったのですが、今後はより社会に目を向けた制作もしていきたいと思います。
“立体切り絵”は、切り絵を組み立てるという工夫を凝らすことで生まれたものだった。
立体感に関しては「まだまだ研究中」と話すともださん。今後生み出される切り絵には、どういった命が吹き込まれながら組み立てられていくのか。これからも見惚れるような繊細な作品を生み出していってくれることだろう。
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