SIMカード1枚 200ドル
数年前まではスマートフォン持ち込み禁止だった北朝鮮。当時は空港で預けるよう要求されたりもしたが、今はそんなことはなくなった。ただし、空港に到着すると、税関でスマホ、パソコンの中身をチェックされ、最高指導者を冒涜するような写真などが見つかると大変なことになる。携帯電話のローミングはないため、外国から持ち込んだ携帯電話をそのまま使うことはできないが、空港でSIMカードを買って、持ち込んだ携帯に差せば使えるようになる。
最近はどの国でも空港などに短期滞在者向けのプリペイドSIMカード売り場があり、1枚1000~3000円程度で売られていることが多いが、北朝鮮では1枚200米ドル(約21700円)とケタ違いに高い上、データ通信はまだ平壌市内でも3Gだ。制裁の対象外でもある観光業に力を入れており、外国人を呼び込むためもあって、ホテルなどWIFIが使えるところも徐々に増えてきたが、高額な利用料を取られるなど、ネットインフラに関しては、率直に言って遅れている。
中国よりも“自由”なネット環境
北朝鮮では、GoogleやLineもアクセス可能で、北朝鮮に関する日本のニュースも問題なく見られた。筆者は北京を拠点にしているが、中国ではGoogleやYouTubeなどの使用が制限されているのに比べ、北朝鮮のネット環境は外国人にとってある意味中国よりも自由だ。一方で、一般市民が使っているスマホやパソコンは北朝鮮仕様で、基本的にインターネットからは隔離された「北朝鮮イントラネット」のようなネットワークにしかアクセスできない。こうして外国の“有害”情報に市民が接しないようになっているのだ。 ちなみに北朝鮮内であっても、市民の使う北朝鮮仕様の携帯と外国人向けの携帯では通話ができない。
青瓦台はアクセスNG、ホワイトハウスはOK
滞在中に色々試したところ、外国人用のネット環境であってもどうやら一定の規制があることがわかった。例えば北朝鮮から韓国大統領府、青瓦台のHPはアクセス不能。韓国の代表的な通信社、聯合ニュースのアプリも画面が止まってしまった。一方で、アメリカのホワイトハウスはアクセス可能。アメリカを代表する報道機関CNNも問題なく開けた。
また通信アプリで言うと、前述の通りLineは問題なし。その他、中国のWeChat、欧米などで人気のあるWhatsAppも使え、秘匿性が高いとされ香港デモで使われているTelegramも問題なく使えた。ただし、韓国の国民的アプリ、カカオトークだけは何度やってもメッセージが送れなかった。どうやら“韓国モノ”に対しては、厳しい扱いになっているようだ。以前、試しに北朝鮮から韓国に電話をしてみたという人によると、電話の呼び出し音すら鳴らず、突然電話が切られたという。
最近北朝鮮在住の外国人がよくTwitterやFacebookに写真を上げたりもしているが、今回モバイルデータ通信で試したところ上手くアクセスできなかった。規制があるのか、たまたま調子が悪かっただけなのか、よくわからなかったが、一方で中国版Twitterといわれるウェイボは問題なかった。
歩きスマホはほぼいない
最近は平壌ではかなりの人がスマホを持っている。しかし、基本は“北朝鮮イントラネット”にしかアクセス出来ない独自仕様のスマホだ。「平壌」「アリラン」などのブランドがあり、OSはアンドロイドベースで、独自のアプリが入っている。街中で歩きスマホをしている人はほぼおらず、地下鉄やバスでもスマホを見続けている人はとても少ない。
北朝鮮の人々のマナーが良いからなのか、画面に集中して見るほどのコンテンツがあまりないためなのか。ニュースといえば官製報道ばかりで、インターネットにもつながらず、3G環境であることなどを考えると後者なのかもしれない。ただゲームは人気のようで、地下鉄車内や、エリート大学の金日成総合大学などで、ゲームで遊んでいる人を見かけた。
滞在中、金正恩委員長も視察に訪れたという眼科医に案内されたが、北朝鮮でも近年電子機器の普及によって、近視が低年齢化しているという。鎖国状態のネット環境ではあるが、どの国でも起きているような問題が起きていた。
避けられぬ情報流入
北朝鮮仕様スマホはひとたび海外に出れば役に立たない。このため北京の北朝鮮大使館員らは中国仕様スマホを使っており、北朝鮮内では厳しく規制されている韓国発のニュースなども見ているようだ。中国でもネット規制はあるものの、基本的に規制されているのは中国共産党や中国当局にとって都合の悪い情報であり、北朝鮮にとって都合の悪い情報はある意味“野放し”となっている。中朝境界の街を行き来する多くの北朝鮮ビジネスマンらも中国仕様スマホを使っており、北朝鮮にこうした情報がある程度流入するのは避けられなくなってきている。
北朝鮮では我々外国メディアには常に当局者が同伴し、自由な行動は許されない。これも情報統制の一環なのだろうが、外国人観光客も増えてきている中、北朝鮮にとってかつてのような“情報鎖国”状態を保ち続けるのは徐々に難しくなってきている。