誕生日が来るたびに増えていく…。お父さんが作った毎年恒例の“娘の成長記録”が話題になっている。
お誕生日にはまだ早いけど、毎年恒例の娘の木彫完成。干支を一周してしまった。 pic.twitter.com/SWMEttI0Yj
— 市川友章 (@1cyome) May 9, 2021
「お誕生日にはまだ早いけど、毎年恒例の娘の木彫完成。干支を一周してしまった」
とのコメントを投稿したのは、個展、グループ展などで怪人や動物をモチーフにした油彩画、木彫作品を発表し、怪談えほん「おろしてください」で絵を担当している市川友章(@1cyome)さん。
この”毎年恒例の作品”は、市川さんが木彫りで作った娘さんなのだ。
写真を見ると、1枚目には眼鏡を掛けた少女の木彫りが写っている。2枚目には、12体の木彫りが並び、幼かった顔付きが大人びた表情に変わっていき、本当に干支を一周する12年間作り続けていることがわかる。
写真や映像で子どもの成長を記録することはよくあると思うが、このような木彫りではあまりないのではないだろうか。
Twitterユーザーからも「これ凄いですね。娘さんの3D成長記録ですね」「これは写真や映像で残すのとは、また違った良さがあっていいですね」「今年から一気に大人びましたね」などのコメントが寄せられ、2万8000いいねが付いている。(5月25日時点)
全てが並んでいる様子は圧巻で、そして娘さんへの愛情を感じる作品だ。中にはアマビエが頭に乗っているものなど、ユーモアに溢れた作品もあるが、なぜこのようなことを始めたのだろうか。
父親である市川友章さんに話を伺った。
12年間、一体20~30時間かけて作成
ーー投稿した経緯を教えて
毎年娘の誕生日に木彫をプレゼントするのですが、2021年で12体集まり、ちょうど干支を一周したので、今まで制作した木彫を全て並べてみました。眺めていると一体一体では気づけない、全体を俯瞰することで見えてくるものがあったので投稿しました。
ーーなぜ木彫で娘さんを作り始めたの?
若い頃、僕は画家になりたくてひたすら絵を描いていたのですが、絵って頭だけがものすごく疲れるわりに体はあまり疲れなくて、なんだかバランスが悪いなと思っていました。
ある時、知り合いの木彫作家さんの作品を見て、ものすごくいいなと思い、自分でもやってみたいとホームセンターで手ごろな大きさの木材と彫刻刀を買って作り始めました。
キャンバスに絵具を塗るよりは体を使うので、空いた時間で木彫をすることでなんとなく頭と体のバランスが保てるのではないかと。その後、娘が生まれて、やっぱり人生の中での大きな事柄ですから、記念に何か形として残したいと思って娘をモデルに木彫をつくりました。
ーー毎年恒例ということは1年に1回だけ作るの?
娘の誕生日の1か月くらい前になると作り始めます。仕事の合間にこつこつ作業して、時間にしたら20~30時間くらいかけて完成させます。そんな感じでもう12年続いています。
ーーどうやって作っているの?
まずは木に線で下描きをしてノコギリや電動工具などを使って大まかに形を出します。その次に彫刻刀を使ってちまちまと彫っていきます。ある程度彫れてきたところで色つけをします。
すると荒削りな部分が浮かび上がってきて、その部分を彫ってはまた色をつけてというのを何回か繰り返して細部まで仕上げていきます。木の温もりみたいなものも残したいので、木肌をそのままで仕上げる部分もあります。
娘さんの反応は?
ーーこだわりの部分を教えて。
美大に入るまでに散々デッサンを叩き込まれたので、そこで身につけた形を観る目が木彫を作る時にも自然と出てしまっているのかもしれません。自分では本職の造形作家さんと比べるとまだまだ甘いなぁと毎回思ったりしますが…。
木を削ったままの状態と色をつけた状態ではだいぶ印象が変わってしまうので、塗っては彫るを繰り返してイメージに合うまで作業しています。木彫に関しては独学なので、出来る限り手を入れて、力尽きたところでやめています。
また、なるべく統一感が出るように手の平に収まるくらいの大きさに合わせて作っています。
ーー大変なことはある?
ノコギリや彫刻刀を扱うので、普段使わない筋肉を使って肉体的に大変な部分はあります。ちょっとノコギリ使うだけでも汗かいたりしますから。
あとは削ってしまったらその部分は元には戻らないので、その辺り神経も使います。たまにボーッとしながら作業していて、「あっ!まずい!」ということが何回かあります。
ーー頭に猫がいるのもあるけど、どうして?
気まぐれでなんとなく作るという場合が多いのですが、最近は『今年の木彫をどうするか?』という家族会議がありまして、色んな意見が出ます。
飼い猫がやってきた時は猫を頭に乗せたり、去年はアマビエを乗せたりと、家での出来事や時事ネタなどを取り入れたりしています。
最初は軽薄かなと思ったりしていましたが「あの時はこんなことがあったね」と思い出を振り返ることが出来て、今となっては良かったと思います。
ーー娘さんの反応はどう?
本人に面と向かって聞いたことはないので、正直彼女がどう思っているかはわかりません。生まれた時から自然とそばにあるものですから、当たり前のものとして捉えているのではないでしょうか。特別、喜ぶというわけでもないし、嫌な顔をするわけでもありません。
娘の木彫の他にも動物の木彫なども作っているのですが、それは彼女のオモチャにもなっていて、たまに欲しいと言う人がいて譲っていいか娘に聞くと、「それは〇〇役だからダメ」とか言われる。どうやらおままごとの配役が決まっているらしく、そう言うのを聞くと微笑ましくなります。
20歳まで毎年増やしていく
ーー今までで一番大変だった作品は?
やっぱり一番最初に作った木彫でしょうか。木彫を作ること自体あまり慣れていませんでしたし、勝手がわからず大変でした。
初めて作った1歳の時の木彫は知らない間になくなってしまって、今あるのはそのレプリカとして再制作したものです。
どうやら娘がゴミ箱に入れてしまって、それを気づかずに妻がゴミ出ししてしまったらしいのです。当時、家中探しても出てこなかったのでそういう結論になりました。1歳ですから娘にはゴミ箱が何か理解できていませんし、ちょっとお片付けをしたくらいのことだったのではないでしょうか。
ーーお気に入りはある?
今年(2021年)作ったものは自分で言うのはなんですが、本人にもよく似たし、真鍮線で作ったメガネもアクセントになって、作品としても非常に良いものになったなと思います。
ーー作品はいつもどこに置いているの?
寝室にしている部屋のちょっとした棚の上に飾っています。なかなか寝付けない時は手に持って眺めたりもします。手の平サイズなので握っているとなんだかホッとして、気づけば寝入っていることもあります。
ーー何歳まで作る予定なの?
当面の目標は娘が20歳になるまで作り続けることなので、これからも毎年一体ずつ増やしていくつもりです。それもあと8体かと思うと、子どもの成長はあっという間だなと感じています。
もうライフワークみたいなものですから、もしかしたらそのあともずっと作り続けるかもしれません。
ーー今回話題になったけど、どう思う?
とにかく通知が鳴り止まず、全然反応が出来なくて、ただ数字だけが増えていくと言う感じでした。ちょっと怖かったです。でも僕は売れない画家の生活がものすごく長かったので、どんなことであれ反響をいただけるというのは非常にありがたいなと思っています。
子どもが生まれた記念として始まった、1年に一度の木彫の制作。こうして並んだ作品を見ると、成長記録にもなっている。ちなみに、娘さんの誕生日は6月だそうで、来年はどんな少女に成長して木彫りに反映されるだろうか。
【関連記事】
「四季と娘の成長」5年がかりの“4枚の同ポジ写真”が尊い…思い出深い1枚を父親に聞いた
「猫とハイタッチしたい!」そんな願いを叶える彫刻が話題…作者に聞いてみた