「事故物件」のガイドライン案を国交省が公表

国土交通省は5月20日、過去に人の死が生じた不動産、いわゆる「事故物件」について、不動産業者(貸主・売主)が売買・賃貸の契約者(借主・買主)に告知すべき対象などをまとめた、ガイドライン案を初めて公表した。

病死、老衰など、いわゆる自然死は、貸主・売主は借主・買主に対して「告知の必要はない」と明記。
一方、他殺や自殺、事故死は「告知する」と明記している。


また、賃貸借契約では、他殺や自殺、事故死発生からおおむね3年間は、貸主が借主に対して、これらを「告げるものとする」とし、告知の期限を示している。

このガイドライン案は、6月19日の午前0時まで一般から意見を募り、その上で決定する。

病死・老衰など、いわゆる自然死は「告知が不要」で、他殺や自殺・事故死は「告知が必要」なのはなぜなのか?
国土交通省の不動産・建設経済局不動産業課の担当者に話を聞いた。

これまでは適切な告知の判断基準がなかった

――このようなガイドライン案を公表した理由は?

不動産取引の際、その不動産で過去に生じた人の死に関する心理的瑕疵(=不動産物件の取引に当たって、借主・買主に心理的な抵抗が生じる恐れのある事柄)について、適切な告知や取り扱いに関する判断基準がありませんでした。

こういった状況では取引現場の判断が難しく、安心できる取引が阻害されているといった指摘があります。
判断をしやすくするため、ガイドライン案をとりまとめ、5月20日に示しました。
 

――病死、老衰など、いわゆる自然死は「告知が不要」。これはなぜ?

老衰、持病による病死など、いわゆる自然死については、そのような死が発生することは当然に予想されるものであり、統計においても、自宅における死因割合のうち、老衰や病死による死亡が9割を占める一般的なものです。

また、判例においても、自然死について、心理的瑕疵への該当を否定したものが存在することから、借主・買主の判断に重要な影響を及ぼす可能性は低いものと考えられ、過去に自然死が生じた場合には、原則として、これを告げる必要はないものとします。

このほか、事故死に相当するものであっても、自宅の階段からの転落や、入浴中の転倒事故、食事中の誤嚥など、日常生活の中で生じた不慮の事故による死については、そのような死が生ずることは当然に予想されるものであり、これが借主・買主の判断に重要な影響を及ぼす可能性は低いと考えられることから、自然死と同様に、原則として、これを告げる必要はないものとします。 
 

――他殺や自殺、事故死は「告知が必要」。これはなぜ?

不動産取引の際、その不動産において、過去に他殺、自殺、事故死が生じた場合には、買主が売主に対して説明義務違反などを理由とする、損害賠償責任を巡る多くの紛争がみられます。

このため、過去に他殺、自殺、事故死が生じた場合には、借主・買主が契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす可能性があるものと考えられるため、原則として、これを告げるものとします。
 

――賃貸借契約では、他殺や自殺、事故死は発生からおおむね3年間は、貸主が借主に対して、これらを「告げるものとする」とある。3年間と設定した理由は?

時間が経過すれば、意識は薄れると考えています。

過去の判例を基に、他殺や自殺、事故死を借主が懸念する期間を3年間と考えました。
ただし、借主が気にする場合は、3年間を越える範囲についても、貸主が調査を実施するとしています。

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ガイドラインに強制力はない

――このガイドライン案は6月19日の午前0時まで一般から意見を募る。意見を踏まえ、告知必要・不要の対象が変わることはある?

意見を踏まえて協議し、内容が変わる可能性はあります。
 

――決定したガイドラインに強制力はある?

強制力はありません。

過去に人の死が生じた不動産の取引に際し、宅地建物取引業者がガイドラインで示した対応を行わなかった場合、そのことだけをもって、直ちに宅地建物取引業法違反となるものではありません。
宅地建物取引業者の対応を巡ってトラブルとなった場合には、ガイドラインが考慮されることになります。 

また、ガイドラインは、宅地建物取引業者のみならず、取引当事者の判断においても参考にされ、トラブルの未然防止につながることが期待されます。

 

ガイドラインがないことで、貸主が単身高齢者の入居を敬遠する傾向があるとも言われている。国土交通省が今回示したガイドライン案は、トラブルの未然防止の観点から、現時点において妥当と考えられる一般的な基準をとりまとめたものだという。
一般からの意見も募集した上でどのようなものとなるのか、今後も注目したい。

プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。