山菜採りの名人と経営学修士(MBA)の取得者がタッグ。
新潟・村上市で、年齢差30歳の2人が協力して地域の魅力を発信する姿を取材した。

山菜採り名人の協力者は…

村上市佐々木。金子貞子さん(69)は、柔らかな緑が広がり始めた里山で、何かを探すように歩いていた。トゲがある木をつかむと、体重を使って先端を引き寄せる。

山菜採りの名人・金子貞子さん(69)
この記事の画像(15枚)

金子貞子さん:
これはタラの芽。天ぷらやクルミあえがおいしい

タラの芽

金子さんは私有地の山で、山菜として知られる“タラの芽”を次々に採っていく。

金子貞子さん:
(山菜を)10年間、東京に売りに行っていた。われわれは、しょっちゅう食べているけど、都会の人にとっては珍しい

2020年までの10年間、山菜の時期になると、東京へ車を運転して自然の恵みを手売りしていた金子さん。

金子貞子さん:
夫に「10年は東京に行かせて」と約束していた。(東京での山菜売りを)やめる時が、ちょうど新型コロナと重なった

この日、タラの芽を運んだのは、集落にある宿泊施設「いろむすびの宿」だった。
金子さんがタラの芽を手渡したのは、宿の主人・古林拓也さん(39)。実は、古林さんの妻の叔母が金子さんで、2人は親戚だ。

金子さんと親戚の古林拓也さん(39)

古林拓也さん:
(このタラの芽は)プリプリの一番芽で、絶対天ぷらにしたらおいしい

39歳の古林さんと69歳の金子さん。年齢差30歳の2人が協力して、2019年に営業を始めたのが「いろむすびの宿」だ。
古林さんは、宿の主人になる前まで、東京のIT企業で働いていた。

古林拓也さん:
東京では、生活のいろいろな部分が切り捨てられて、その犠牲の上に仕事が成り立っていたという状況もあって

金子貞子さん:
(田舎の生活に)興味を持っていたので、「おいで」と…

東京での山菜売りをやめようと考えていた金子さんにとって、田舎暮らしに憧れていた古林さんは、格好の人物だった。

経営学の知識で"地域の財産”を発信

東京のIT企業で働いていた古林さんは、経営学修士(MBA)を取得していて、"集落の恵”山菜の付加価値を金子さんと検討した結果、農業などを体験できる宿泊施設の運営を行うことにした。

古林拓也さん:
経営学を学んで、知識やスキルなど自分の学んできたものと結び合わせて、地域にある財の価値を届けられれば

その宿の一番の売りにしたのが、金子さんや集落の女性による地元産の山菜や野菜などを、地域で普通に食べられている調理方法で、季節に合わせて提供することだった。

金子貞子さん:
採ってきた山菜を、みんなに喜んで食べてもらえるのは、すごくありがたい

できないことを補い合って…

首都圏や海外からの利用客が増え始めた矢先、経営を学んだ古林さんにも予想できなかったのが、新型コロナウイルスの影響だった。

古林拓也さん:
2020年の春からは、臨時休業期間をしばらく取ったし、お客さまの予約もだいぶ減った

古林さんも予想外だった新型コロナの影響

新型コロナウイルスによる宿の危機を救ったのは、金子さんの前向きな気持ちと行動力だった。

金子貞子さん:
お客さんが来ないので、1週間のうち5日くらいは山に行けて、すごく楽しかった

そんな金子さんが休耕田で採っていたのはセリ。それを古林さんが洗って…

古林拓也さん:
このセリは、東京都内の高級そば店や料亭に卸している

古林さんは、ITの知識を使って、山菜のネット通販を事業化した。

金子貞子さん:
インターネットでの(山菜)販売は、私には考えられない。(古林さんとは)できないことを補い合う

さらに2020年、村上市の坂町駅近くで店舗を開いた。

いろむすびの宿 古林拓也さん:
山で採れた山菜や山菜の加工品を、ここで販売している

山菜や、金子さんなどが調理した加工品を販売する店「いろむすび山菜屋」。接客を担当するのは、古林さんの妻・紗代さんだ。

この店で人気なのが、“かかさの手仕事弁当”だ。

人気の「かかさの手仕事弁当(税込み645円)」

経営を学んだ古林さんと山菜採り名人の金子さん。30歳離れたコンビは、この弁当の値段で衝突した。

古林拓也さん:
(弁当の金額を)アンケートをとって、中央値だった700円を提案したところ…

金子貞子さん:
高い! ワンコイン(500円)の方がいいんじゃないかと

古林拓也さん:
一生懸命、山に入って採ってきていただいている。手間と労力がかかっているので

金子貞子さん:
山から採ってきたのでお金は…。じゃあ、真ん中をとってということで

金額は、2人の間を取って税込み645円に。

古林拓也さん:
宿の売り上げ単体だと、なかなか会社を維持していくのは難しい状況だった。だけど、「いろむすび山菜屋」をオープンすることで、地元のお客さまに山菜を買っていただいたり、遠方のお客さまにもインターネット通販で商品をお届けすることができて、会社を維持することができた

都会にはない魅力を届ける

東京のIT企業から、新潟へ移住した古林さん。

古林拓也さん:
(東京で働いていた時より)収入はぐっと下がったけど、それでも替えがたい家族の絆や自然とのふれあいを含めると、幸福度は増した

移住で得た家族の幸せ

古林さんの妻・紗代さん:
生活の質は上がったと思う

新型コロナウイルスにより、苦戦が続く古林さんの宿泊業だが、山菜の季節に期待を寄せている。

古林拓也さん:
これからの時期は、ワラビ・山ウド・コゴミがおいしくなる

自然の恵みを地域の魅力として発信する、30歳離れたコンビ。

古林拓也さん:
山で、いいものをたくさん採ってきてくれるので、それをオンラインで販売したり、お客さまに召し上がっていただいて、喜んでいただいて、その循環がめぐっていくようなことが続けられたらいいなというふうに思ってます

都会にはない魅力を都会に届けて…
山の幸が運ぶ、家族の幸せだ。

(NST新潟総合テレビ)