世界の政治家やセレブ・要人のツイートをモーリー流に翻訳・解説する「Twittin’ English」。今回は9月15日、アメリカのポンペオ国務長官のツイート。



モーリー:

Tehran is behind nearly 100 attacks on Saudi Arabia while Rouhani and Zarif pretend to engage in diplomacy. Amid all the calls for de-escalation, Iran has now launched an unprecedented attack on the world’s energy supply. There is no evidence the attacks came from Yemen.

イラン(テヘラン)は、サウジアラビアへの100回近い攻撃の背後にいるが、ロウハニ大統領とザリフ外相は、外交に取り組む姿勢を見せるふりをしている。緊張緩和を模索している中で、イランは世界のエネルギー供給に対して、前例のない攻撃を仕掛けた。イエメンからの攻撃だったという証拠はない。



政府機関が置かれる首都名によってその国を表しているのが、アメリカ式で面白いですね。最初の「Tehran(テヘラン)」はイランのことで、このツイートには出てきませんが、北朝鮮なら平壌、ロシアならモスクワとなります。

イランのロウハニ大統領やザリフ外相の名前を出して、強い口調で非難しているように見えますが、全体を読むと歯切れの悪いニュアンスが漂っています。ここから、トランプ大統領が逡巡していることが伝わってきます。

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「犯人を知っている」トランプ大統領の牽制にイラン外務省は…

まず、ツイートの背景を説明します。

9月14日の早朝、サウジアラビア東部のアブカイクなどにある国営の石油会社「サウジアラムコ」の石油施設2ヵ所が無人機の攻撃を受け、火災が発生しました。
サウジの南側には内乱状態のイエメンがありますが、イランが支援するイエメンの反政府武装組織フーシ派との関係は混乱を極めています。

この武装組織フーシは「無人機10機でサウジを攻撃した」とする犯行声明を出しましたが、真偽のほどは不明。イランがイエメンを迂回する形で攻撃したのではないか、とイランの関与が疑われています。

この状況に対して、ポンペオ国務長官は先ほどの強い口調のメッセージを投稿し、トランプ大統領も「我々は犯人を知っている。検証作業次第で、臨戦態勢に入る準備ができている」とツイートでイランを牽制しました。

これに、イラン外務省のアッバス・ムサビ報道官が反応し、「無意味で闇雲な批判には意味がなく、理解できない」と発言しました。アメリカの非難をばっさりと切り捨てています。

話は遡りますが、トランプ大統領は強硬派のボルトン大統領補佐官を9月10日に解任しました。

この措置は、金正恩委員長と握手するなど、北朝鮮に対するトランプ大統領の姿勢をボルトン氏が非難したことが原因だという説がある一方、イランとの対話に向けた人事との見方もあります。

トランプ大統領は現在、イランに対しての経済制裁を最大限に強化しています。それを取り引きによって緩和する可能性も探っていてたところに、ボルトン氏が反対したのではないかというのです。

9月下旬に開催される国連総会に合わせて、トランプ大統領はイランのロウハニ大統領との会談を模索しているとも言われていましたが、今回の攻撃によってイランと歩み寄る道が塞がれてしまいます。

石油施設が破壊されたことで不安が高まり、原油価格は急伸。過去最大の値上がりを見せ、ニューヨーク株式も一時、約140ドル安となりました。

サウジはアメリカ頼み トランプ大統領は“千鳥足状態”

ここで、アメリカはどう出るのか? トランプ大統領は、迷いを感じている状態だと思います。

トランプ大統領の支持層は、中東の戦争にアメリカが関わることに反対し、自国の国益を守ることを第一として、仲裁に無関心です。

2020年の大統領選に向けて支持率を下げたくないトランプ大統領は、こちらの方向を向いていますが、仮に今回の攻撃がイランによるものであれば、それに何の対処もしないとなると、イランが味をしめて再び攻撃を仕掛けてくる可能性も否定できません。
「殴っても殴り返してこないなら、もう一度やってみようか」という具合です。

トランプ大統領は、支持層に寄り添うこととイランへの対応の2つの立場で悩み、千鳥足の状態。あまりにもフラフラと逡巡しているため、政治的に敵対関係にある民主党のチャック・シューマー上院議員は、「トランプ大統領は下手をすると、このまま戦争へと歩み込んでしまう可能性がある」と警告しています。

そして、攻撃を受けた当事者であるサウジ政府がどう出るのかも気になるところです。攻撃がイランによる犯行だと特定できたら、すぐに反撃するべきなのでしょう。ところが、これには2つの問題があります。

1つは、世界中から武器を購入していて、ミサイル防衛システムを持っているはずのサウジが、まんまと防衛の目をかいくぐられてしまったこと。無人機がどこから飛んできたのか分からないというのですから、「お金は持っていても闘う能力はない」と、自らの無能さを証明してしまったことになります。

そして、「親分であるアメリカがイランを叩いてくれるのなら、その出撃拠点は提供しますよ」と呼びかけても、トランプ大統領は逡巡しています。サウジが単独でイランに反撃すれば、梯子を外されてしまうでしょう。丸裸で闘う能力も気合いもないのに、全力で向かってくるイランと事を構えることになってしまうのです。

アメリカが代わりに戦ってくれなければ、サウジは石油を保有していることを盾に大口をたたくだけ。たまたまアメリカにすり寄っていますが、経済制裁が解除されれば、石油大国である事はイランも同じです。

最終的には、オバマ政権時代のイランとの核合意で経済制裁を解除していくことでしか、イランを沈静化することはできません。しかし、トランプ大統領はこれを否定するでしょう。そして、また支持層のご機嫌取りをする…サウジはアメリカのご機嫌を伺い、トランプ大統領はサウジにも自らの有権者にもいい顔をするという、全員が逡巡する構図になっています。

この千鳥足状態がもつれて転び、最後には戦争に向かってしまうのではないかと懸念されています。

(BSスカパー「水曜日のニュース・ロバートソン」 9/18 OA モーリーの『Twittin’ English』より)

モーリー・ロバートソン
モーリー・ロバートソン

日米双方の教育を受けた後、1981年に東京大学とハーバード大学に現役合格。1988年ハーバード大学を卒業。タレント、ミュージシャンから国際ジャーナリストまで幅広く活躍中。