世界の政治家やセレブ・要人のツイートをモーリー流に翻訳・解説する「Twittin’ English」。今回は1月30日、ワシントンポストのツイート。
モーリー:
Jeff Bezos’s iPhone had Apple’s state of the art security and that may have helped its alleged hackers.
ジェフ・ベゾスのiPhoneには、Appleの最先端セキュリティーが備わっていたため、ハッキングされた疑いがあったのかもしれない。
アマゾンのCEOであるジェフ・ベゾス氏が、サウジアラビアのムハンマド皇太子にハッキングされていたというのです。ベゾス氏の恋人に関する情報が流出し、これがムハンマド皇太子が投資していたタブロイド媒体でスッパ抜かれたということで、皇太子への疑惑が高まっています。
ハッキングを報じるワシントンポストは、ベゾス氏がオーナーを務める新聞社で、このワシントンポストでサウジ王室の批判記事を書いていたのが、2018年に殺害されたサウジアラビア人記者のジャマル・カショギ氏。皇太子は、カショギ氏殺害事件についても関与した疑いが指摘されています。
さらに、批判記事を快く思わなかった皇太子はベゾス氏と親しい間柄になり、メールに添付したファイルにマルウェアのようなものを忍ばせ、ベゾス氏の個人情報を抜き取ったのではないかといわれているのです。
では、なぜベゾス氏を揺さぶったのか?ワシントンポストのオーナーであるベゾス氏は、複数の政治家たちと確執を抱えています。そして、言論の自由や人権擁護の観点からサウジ王室の人権抑圧を糾弾する記事を掲載している中、サウジの皇太子は今回のハッキングのような直接行動に出たと思われます。
トランプ大統領も度々、ツイッターでベゾス氏を攻撃しています。バイデン、バイデン、ベゾス、バイデン、バイデン、バイデン、ベゾス…といった具合に。
アマゾンCEOのベゾス氏はお金持ちで、ハッキングのし甲斐があるし、訴え甲斐もある。その結果、ベゾス氏の恋人の親族にあたる人が「名誉を毀損された」としてベゾス氏を訴えているという、非常にややこしい事態になっています。
インドのIT都市に投資 ベゾス氏の “アマゾン大国” 計画
モーリー:
私が注目したいのは、ベゾス氏がアメリカやサウジと騒動を起こしていることではなく、インドのハイデラバードという都市に注目していることです。
ベゾス氏は、このビジネスが盛んな都市に南アジア最大級の巨大なEコマースの拠点を作り、インドに10億ドル単位で投資をする計画を立てています。インド国内のEコマース産業は、まだマーケットが育っていませんが、急成長中。そこを牛耳ってしまえば、インドは「アマゾン大国」になるわけです。
政治学者・鈴木一人氏:
インドはIT技術者もたくさんいて、ハイデラバードはその中心ですよね。数学系に強い人材も多いので、そういった人たちをリクルートするのも目的としてあるのでしょう。
モーリー:
その通りです。国全体で見ると、10億以上の人口を抱えるインドの平均所得は貧しく、インフラも整備されていない。地元住民は日用品を零細商店で調達していますから、そこにアマゾンが入っていくと混乱が起きてしまう。
アマゾン本社側からすれば、インドの能力ある人材を現地で雇うことができます。また、雇用されるインドの人たちにとっても、欧米や日本に移住せず家族と一緒に暮らすことができ、地元で良い家を購入できる。
自国で最高級の待遇を受けられるとあっては、アマゾンを拒む理由はありません。そうして、ITにおける世界最高の頭脳がハイデラバードに結集する可能性もあります。
ハイデラバードを拠点にインドの潜在的な購買能力が刺激され、これまで地元の売店で済ませていた買い物を一挙にアマゾンが担うようになると、巨大なマーケットが育ち、労働者のグレードも世界最大級になります。
外資への反感根強く…
しかし差し当たっての問題は、インド政府が一筋縄ではいかないこと。インドでは、あらゆる場面に政治が関わってきて、GoogleもAppleも締め出されています。
政治学者・鈴木一人氏:
インドは元々、外資規制が非常に強い。長く社会主義政策をとっていて、外資に対してものすごく反感が強いので、難しいと思いますよ。
モーリー:
ベゾス氏はインドを訪問した際、「世界はこれからインドの世紀になる」とTEDトークで演説するかのように発言。これに対するインド政府の閣僚の反応は、「本当にそう思うのなら、ワシントンポストにそう書いて」というものでした。
人権侵害が問題視されているインドでは、国籍にあたる書類を揃えていないムスリム系住民に対し、書類を提供できない人を国民と認めないという、露骨なヒンドゥー優先主義とも言える動きも見られました。
ワシントンポストはこれを散々批判してきましたから、「インドを悪く言う新聞の持ち主にインドを略奪させない」と政治家はポピュリズムで言う。
一方、アマゾンの登場によって排除されると抗議している零細業者によるロビー活動も強力で、彼らはモディ首相の有権者の組織票基盤でもあります。彼らに良い顔をしたいモディ首相は、インドを訪問したベゾス氏と面会することはありませんでした。
ですからアマゾンは今後、インド政府と水面下でさまざまな取引を行い、かなり薄められた状態でなければインドに参入できないのではないかと見ています。
政治学者・鈴木一人氏:
恐らく、そうせざるを得ないだろうと思います。今のモディ首相が行っているナショナリズムというか、ヒンディーファーストは大変強烈ですし、「Make in India」というスローガンも掲げていて、とにかく何に対しても「インド化」を進めるようなところがあるので、外資はなかなか入りにくいでしょう。
モーリー:
例えばカンボジアでは、中国が入ってきてお金も還流していますが、インドはそれを許さない。それをやると「帝国主義」「東インド会社の再来」と国民のナショナリズムが高まり、新ヒンドゥー至上主義もそこに加わる…インドのポピュリズムは強烈なので、ベゾス氏はハッキングには勝ててもインドには勝てないかもしれません。
(BSスカパー「水曜日のニュース・ロバートソン」 2/5 OA モーリーの『Twittin’ English』より)