世界の政治家やセレブ・要人のツイートをモーリー流に翻訳・解説する「Twittin’ English」。今回は11月23日、オーストラリアの歴史ある新聞社「The Sydney Morning Herald」のツイート。



モーリー:

Federal Treasurer Josh Frydenberg has described revelations of China's extensive foreign interference activities by a spy who defected as "very disturbing", but would not say whether the man would be granted asylum.

財務大臣のジョシュ・フライバーグは、「亡命申請したスパイから、“非常に不穏な”中国の広範囲にわたる外国への干渉についての暴露があった」と述べたが、その男性が亡命を許可されるかどうかについては言及しなかった。

interferenceは介入、間に入って邪魔するという意味。ツイートに添付されている写真の男性が、オーストラリアに亡命申請をしたという中国人スパイです。
男性は、オーストラリア政府に公からのプレッシャーをかけようとして、自らメディアに暴露しました。

しかし、顔写真を公表してしまったことで、本人もしくは家族に対して中国が報復する道筋をつけてしまったことにもなります。
スパイのターゲットだった国に対して、「私はスパイでした。自国を裏切り、秘密を売ります。亡命させてください」と駆け込むようなことをすれば、存在を消されてしまう可能性もあるでしょう。

ですから、現役のスパイが顔を晒すのは通常ではあり得ないこと。それだけ必死で体当たりの行動だということです。

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台湾総統選に関する工作活動に関与「中国に戻れば死刑」

The Sydney Morning Heraldによると、抗議活動が続く香港で、中国はデモに賛同する組織に工作員を派遣するなどして民主派の情報を収集しているといいます。

以前にもスパイ事件があったオーストラリアでは、中国を念頭に置いたスパイ防止法が2018年に可決されたばかり。今回の事態によって、両国の関係はさらに冷え込むことが予想されます。

台湾や香港でのスパイ活動に関する情報を提供する代わりに、オーストラリアへの亡命を求めたこの男性は、中国本土出身。

中国から送られた韓国の偽造パスポートを使って、台湾へ入るよう指令を受けていました。2020年1月に行われる台湾の総統選挙に向け、現政権の民主進歩党(民進党)を追い落とすように工作をしていたというのです。

男性は、台湾で韓国人になりきらなければなりません。それが嘘だとバレると、オーストラリアにいる妻子とは一生離ればなれになってしまうかもしれない。その恐怖と、本人の言によれば「中国のあり方に幻滅した」ことから、今回の行動に出たのでしょう。

また、「観光ビザでシドニーへ行きたい」と上司に申し出て許諾を得ていたということですから、その段階で亡命を考えていたのかもしれません。そして、オーストラリアで妻子と再会し、中国に戻れなくなるような選択をしました。男性は「中国に戻れば死刑になる」と訴えています。

一方、上海市公安局によると、この男性は26歳で前科があり、2016年に詐欺罪で有罪判決が下され、2019年4月にも詐欺容疑で捜査を受けた“無職の逃亡者”。中国側はこうした発表で、スパイ亡命報道の火消しにかかっています。

オーストラリア議会にもスパイを送り込もうと画策?

ここで、香港でのデモ活動を思い出してみてください。デモは、中国本土への容疑者移送を可能にする条例改正案に抗議するものです。

可能性は低いと思いますが、この男性がスパイではなく、中国側が説明するように詐欺罪から逃れた“逃亡者”なのだとしたら、香港で逃亡犯条例改正案が成立すると困るため、デモを応援して亡命申請をする。そして、亡命者として詐欺罪から逃れられる…という筋書きになりますが、それに対する副作用は甚大です。

自身や家族は中国で罰せられる可能性がありますし、オーストラリア内の中国人コミュニティから刺客を差し向けられるかもしれません。とても割に合わないので、男性が嘘をついているとは考えにくい。

中国政府は、国営メディアを通じてプロパガンダを流し、情報操作をしています。そして、特に中国人がいる世界中の都市にスパイを派遣し、露骨に諜報活動を行っていることが明るみになりつつあるのです。

中国系でオーストラリアの市民権や国籍を持つ人に対し、中国政府が資金を提供して連邦議会選に出馬させ、当選した場合は南シナ海問題などに関して議会内で親中国的な行動を起こし、やがてオーストラリア世論を動かすような政治家を育てようとしているのではないか。

欧州と関係が深く、軍事機密情報をアメリカと共有しているオーストラリアの国の中枢に、中国が人を送り込んできている。この実態が次第に明らかになってきています。

(BSスカパー「水曜日のニュース・ロバートソン」 11/27 OA モーリーの『Twittin’ English』より)

モーリー・ロバートソン
モーリー・ロバートソン

日米双方の教育を受けた後、1981年に東京大学とハーバード大学に現役合格。1988年ハーバード大学を卒業。タレント、ミュージシャンから国際ジャーナリストまで幅広く活躍中。