「いつかは親の介護が必要になるだろうな」とは思っていても、いつか来るXデーに備えられている人は少ない。多くの人はその日が来た時に慌てふためき、その時から情報収集を始めるようだ。「親の介護をどうやっていくか」という心構えを事前に持っておくだけで、いざその時が来ても落ち着いて対処できるはず。

今回、実際に自身の両親の介護をしながら、漫画家、そして介護福祉士として活躍している八万介助(はちまん・かいすけ)さんに話を聞いた。

とうとう“親の介護”がやって来た…

「漫画家、イラストレーターとして20年近く仕事をしてきたのですが、出版不況ということもあり、2010年に49歳でヘルパーとして介護の仕事を始めました。なんとか1年くらい経った頃、湘南に住んでいる当時80歳だった母親から『お前が歯ブラシとコップを盗んだんでしょう!?』と恐怖の電話がかかってきたんです」

介護の仕事をしていた八万さんは、その電話を受けてそれが認知症の代表的な初期症状である“物盗られ妄想”だとすぐに気づいたそう。しかも、母親だけではなく父親にも“物盗られ妄想”が発症していた。その頃の八万さんは千葉県で奥さんと二人暮らし。介護の仕事もそう簡単に休めないため、しばらくは電話でやりとりしながら様子を見て、休みの日に実家へ帰るという日が続いたという。

「まずは、実家近くの地域包括支援センターへ相談に行きました。そこで主任ケアマネジャーさんに相談し、要介護認定を受けたんです。要介護度は“1”でした」

両親の状態や性格、八万さんが遠隔地に住んでいるということも考えながら、主任ケアマネジャーが両親に最適なサービスを考えてくれたという。両親がデイサービスを受けるのを嫌がるため、週1〜2回、看護師さんの訪問介護サービスを受けるようになった。

「看護師さんが健康状態や生活状況について、電話で報告してくれる訪問介護サービスには、とても助けられました」

認知症の進行で、実家に帰ることに…

しかし、介護というものはずっと同じ状態が続くわけではない。2014年5月、八万さんのところに主任ケアマネからSOSの電話が入る。

『お父さんとお母さんから目が離せない、同居できませんか』と言われたんです。ちょうど介護福祉士の資格を取った頃でした。まあ、来る時が来たなと…。それで勤めていた介護老人保健施設を退職し、妻とともに秋頃に湘南へ引越ししました。妻も本心では嫌だったのかもしれませんが、妻の両親は亡くなっていたこともあり、黙ってついてきてくれましたね」

(C)八万介助/小学館
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現在、認知症の症状がひどくなったお父さんは特別養護老人ホーム(特養)に入居しており、お母さんは家で同居しているという。

「両親ともに施設に入ってもらうとなると資金面の負担が厳しいので、母親には実家で暮らしてもらい、土日も含めて毎日デイサービスに通ってもらっています。母親は17時まで施設にいて、夕食を食べてから帰ってきます。母は人工透析が必要なため食事制限が必要なんですが、そのあたりの管理もお願いできますから。

とはいえ、たまに夕食を食べたことを忘れて母親が台所で食べ物を探し回っていることもありますね。そうした場合は、本当はよくないのかもしれませんが、たまにアイスやスイカを食べさせて大人しくさせることもありますよ。一晩中騒いだり泣かれたりするよりは、少しスイカを与えて満足して機嫌よく寝てもらう方がいい。僕にも妻にも暮らしがありますから、それで家族全体のQOLを保つことも必要です」

介護福祉士の資格を持つ八万さんだけに、その言葉には説得力がある。

「でも、介護のプロとして他のお年寄りの世話をするのと家族の介護をするのでは、まったく違いますよ。仕事では何を言われてもニコニコ対応できるけど、両親に悪態をつかれたら本当にイライラして、たまに怒鳴ってしまったりしますからね。カッときたら6秒待つ、その場を離れるなど、まともに会話しないようにしています。

親の介護においては、100%原理原則を守ろうとすると疲れちゃうから、ゆるめるところはゆるめる。自分で全部背負いこまずにケアマネや看護師さん、介護福祉士に相談する。ノウハウを教えてもらって対応策を考えることで平穏な生活が送れるようになるんじゃないかな。介護でキレて事件なんかを起こさないように、介護している家族の生活のペースを守るようにしています」

気になる介護費用、誰が負担を?

実際に介護をしていくと、介護費用の問題も避けては通れない。八万さんの家庭ではどのように負担しているのだろうか?

「介護費用に関しては、基本的には両親の年金を使用しています。それと親が老後費用にと貯蓄していたお金があったので、それも利用していますね」

八万さんのご両親は、ともに現在86歳。夫婦二人で月々約20万の年金が入るという。介護当初は、要介護度1で1割負担だったため、訪問介護やデイサービスなども年金内で支払うことができた。しかし、現在では制度が変わったため2割負担が必要となり、特別養護老人ホームに入居しているということもあり、20万円内でのやりくりは厳しいそうだ。

「うちは親が蓄えてくれてたんで、まあなんとかやれてますよ。でも、親の年金や貯蓄がない人は難しいかもしれないですよね。でも、子どもには子どもの生活がありますから、基本的には親の介護費用は親の収入から出すべきだと思います。

ただ、うちはどこの火災保険に入っているかとか、墓地を買っているのかとか、投資信託をやっているのかとか、そのあたりのことが全然わからないんですよ。当面の介護に必要な金銭のことはわかっているんですけど、その辺りの詳しいことなんかを元気なうちにきちんと聞いておくべきでしたね。あと、できれば遺書も書いておいてもらえばよかったと思っています。僕が親より先に亡くなった場合、今の状態だと妻に遺産がいかなくなる可能性もありますからね」

介護福祉士として実際の介護現場に立っている八万さんでも、自分の家族の介護では想定外の事態に遭遇することも多いようだ。親が元気なうちにいろいろ話をしておくこと、経済面などについても確認しておくことは、何よりも必要といえるだろう。

■八万介助
長年、学年誌、コミック誌、情報誌、女性誌などで漫画家、イラストレーターとして活躍。雑誌の休刊などで漫画・イラストの仕事が減り、2010年から介護老人保健施設でパートとして働き始める。2014年、介護福祉士の資格取得。主な著書は『両親認知症 Uターン すっとこ介護はじめました!』『49歳 未経験 すっとこ介護はじめました!』(いずれも小学館)など。

取材・文=松村知恵美
イラスト=八万介助