自分が親の介護をする立場になった時、何ができるのか…。どのような介護を行うかももちろんだが、最も知っておきたいのが介護にまつわる“お金”の話だ。施設に入居してもらうにせよ、デイサービスや訪問介護を利用するにせよ、いくらくらいお金が必要になるのだろうか。知っておきたい介護にまつわるお金ついて、20年以上にわたり、介護の現場を取材し続けている介護・暮らしジャーナリストでファイナンシャルプランナーの資格も持つ太田差惠子さんに話を聞いた。

介護費用に関する思い込みを捨てよう

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太田さんが受ける質問でとても多いのが、“親の介護にいくらかかるか”という質問だという。

「皆さん、親の介護にいくらかかるか、ということをよく気にしていらっしゃいますが、その考え方では“自滅”していくばかりです。状況によってかかるお金はまったく違いますから。いくらかかるかではなく、いくらかけるか、というふうに考えを変えてください」

40代の“これから介護者になる世代”によくあるのが、“介護費用は子どもが負担するもの”という思い込みだそう。しかし、今の40代というと年金がもらえるかどうかもあやしい世代。年金を潤沢にもらえている親世代のために、自分のお金を使うべきではないという。まずは、親の資産や年金額を確認し、年金+親の資産から介護に使用できる予算を策定する。そしてその予算内で何ができるかを考えて介護を実施していくのが重要だというのだ。

「親の介護に対する思い込みを捨ててください。介護にまつわるお金で重要なことは、もらっている年金額、貯蓄額、資産など、親の財政状況を把握しておくこと。キャッシュカードのありかと暗証番号も聞いておくと、なおいいでしょう。資産状況について細かい額まで聞くのが難しければ、どのお金を使えばいいかだけでも確認してください。そこで介護に使える予算がないということがわかった場合も、お金がないなかでどのような介護をしていくのか方針を立てることができますから。

ただし、普段からコミュニケーションがとれていないと、『財産、狙っているのか』と親の怒りを買うことに。日頃の関係性がものをいいます。言いたくないという親に、ムリに聞き出すことは虐待につながるケースも」

介護とは家族全体が関わる一大プロジェクト

子ども世代が抱いている介護に関する間違った思い込みはお金のことだけではないという。親の介護というと、食事・排泄などの世話など、日常生活の生活援助と身体介護のことを指すと考えがちだが、介護とはそんな細かいことだけではない。介護を次の4段階にわけて考えるべきだというのが、太田さんの持論だ。

(1)状況把握=親自身でどのようなことならできて、どこからできないのかを把握する
(2)人員配置=親の生活援助・身体介護を行える担当者(家族 or ヘルパーなど)を決定する
(3)意思決定・契約=どのような介護サービスを受けるかの決断・契約を行う
(4)資金計画=介護にかかる費用をどこから捻出するか、どのように支払うかをプランニングしておく

このように「介護=プロジェクトマネジメント」と考えると、理解しやすくなるのではないだろうか。自身が手を動かすだけでなく、介護にまつわる項目を一つひとつブレイクダウンし、その実行者や監督者を決定して運用していく全体のプロセスこそが介護なのだ。仕事のプロジェクトマネジメントと同様に考えることができれば、遠隔地に暮らしていても親の介護は可能だということがわかる。

地域包括支援センターなどに気軽に相談して情報収集を

高齢の親を支えるためのプロジェクトといえる“介護”だが、限られた予算内でより良い介護を行うには、情報収集が最も重要になるという。

「介護は“情報戦”です。いろいろな制度や施設に関する情報を自ら動いて集めて、申告していくことで支援制度を利用できたり控除を受けたりすることができます。でも、介護のスタート時はなんの準備もない場合が多いんですね。親が病気や怪我で入院されることから介護生活がスタートすることも多いのですが、退院後にどのような介護をしていけばいいのかわからない方も多いんです。そういった場合は、地域包括支援センターにまず相談することをお勧めします」

地域包括支援センターとは、社会福祉士、保健師、主任ケアマネジャーなどの有資格者が在籍する介護の総合相談センターのような施設。居住地ごとに管轄のセンターがあり、無料で相談に乗ってもらうことができる。介護保険の申請やその他のサービスの紹介、利用手続きの援助から、生活で困っていることまで、介護について知り尽くしたプロフェッシナルにさまざまな相談に乗ってもらえる。電話相談にも乗ってもらえるとのことなので、親の居住地の地域包括支援センターを調べ、ざっくばらんに相談をしてみるといいだろう。そうやって相談をして主体的に情報収集をしていくことで、より状況に適した介護が可能になるのだ。

「情報を収集せずに思い込みで介護をしていくと、結局は後で困った事態になります。私が以前に相談された方のケースを例にあげると、お父様が亡くなってお母様が一人で遺された際に、『母も弱っているし、そんなに長くないだろう。父の遺産もあるし、2年くらいであれば優雅に生活してもらえるだけの余裕はある』と有料老人ホームに入ってもらったそうなんですね。でもお母様がお元気になられて、想定されていた2年以上経ってしまって予算がなくなってしまったと…。

この場合、根拠のない思い込みで親の寿命を勝手に推測して、2年という数字を出されているわけです。介護を考える際は親御さんが105歳まで生きると想定するように提案しています。そうやって予算計画を立てていくことで、経済的な破綻も避けられますから。この方も思い込みで2年と算出されずに、プロに相談して情報を収集していればこのような勘違いも防げたのかもしれませんが…」

親の介護というのは、まさに長期プロジェクト。自分の思い込みで動くのではなく、常に最新の情報やプロの意見を収集しながら方針を決定し、長期にわたり運用していくことが必要なのだ。

■太田差惠子
介護・暮らしジャーナリスト、NPO法人パオッコ理事長、AFP(日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定)。
京都市生まれ。20年以上にわたる取材活動より得た豊富な事例を基に、「遠距離介護」「仕事と介護の両立」「介護とお金」等の視点で新聞、テレビなどのメディアを通して情報を発信する。
1996年、親世代と離れて暮らす子世代の情報交換の場として「離れて暮らす親のケアを考える会パオッコ」を立ち上げ、2005年5月法人化した。現理事長。
主な著書に『親の介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版社)『親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと』(翔泳社)など。

取材・文=松村 知恵美
写真=石川ヨシカズ