2020年2月3日、横浜港に到着したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」。乗客が新型コロナウイルスに感染していたことを受け、乗客・乗員が船内で待機することとなり、3月1日にようやく全員の下船が完了した。

クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」
クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」
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現在はまだ多くの国や地域で入国制限されているが、日本国内を巡るクルーズ船は運航を再開している。クルーズ船への不安を払拭できていない人も多いであろう今、どのような対策を取っているのだろうか。

クルーズ専門の旅行代理店クルーズプラネットの代表・小林敦さんに、コロナ禍における業界の現状と、クルーズ船の未来について聞いた。

再開後の国内クルーズは「PCR検査必須」「船医が常駐」

国内を巡るクルーズ船「飛鳥II」が11月2日に運航再開。12月5日には「ぱしふぃっく びいなす」も再開した。これらのクルーズ船では、どのような感染防止対策を取っているのだろうか。

「各社独自の安全基準を設け、日本海事協会の認証を受けたうえで、運航を再開しています。私も再開前のトライアルクルーズに参加したのですが、安全基準はとても厳しく、乗船前のPCR検査は必須。乗船時やレストラン利用時の検温も徹底されていますし、シアターも座席の間隔が空けられています」(クルーズプラネット代表・小林さん)

PCR検査の費用はクルーズ料金に含まれており、一般的には出発の1週間前に検査を行う。「高リスク」「再検査」という結果が出た場合は、同行者も乗船不可となる。この場合のクルーズ代の返金等の対応は会社ごとに異なるため、確認する必要がある。また、航行中に感染者が出た場合に備え、船内に隔離できる部屋を設け、船医や検査技師も乗船しているとのこと。

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「『ダイヤモンド・プリンセス』の教訓は生きていると思います。クルーズ業界の間では、『すべての乗客・乗員がPCR検査を受けるクルーズは、ほかの宿泊施設や乗り物と比べても安全性が高いのではないか』という話も出てきています」

感染防止対策は細かく行っているものの、まだ国内クルーズが再開し始めた段階。コロナ前のように海外旅行ができるようになり、海外クルーズが再開するまでは、本格的な回復とはいえない。また、「クルーズのイメージを改善する必要もある」と小林さんは話す。

「リピーターの方は運航再開を熱望してくれている一方、クルーズ経験のない方には、『ダイヤモンド・プリンセス』の一件で、クルーズに悪いイメージがついてしまったと感じています。いかに信頼していただくかが、市場回復のカギです」

利用者の不安を払拭するには、現在の感染防止対策の情報を発信し、認知を広げていくことが重要となる。国内クルーズの再開は、その第一歩といえるかもしれない。

半年間停止していたものの、2021年以降の予約は好調

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徐々に再開していったクルーズだが、コロナ禍においては苦境に立たされていたという。

「2020年3月下旬から、全世界のクルーズ船が運航を取りやめていき、そこから半年近くはすべてストップしている状況でした。私達はクルーズをメインに扱っているので、春から夏にかけてはキャンセルの嵐でした」

小林さん曰く、「コロナ禍になる直前までは、世界的なクルーズブームだった」とのこと。業界が盛り上がりを見せていたところで、新型コロナウイルスが蔓延してしまったのだ。

「各国のクルーズ会社が新しい船を作り、2020年から2021年にかけて、お披露目する予定がたくさんありました。また、2019年の日本人のクルーズ人口(外航クルーズと国内クルーズの合計)は、約35万7000人と過去最高をマークしたのです。東京オリンピックでのクルーズ船活用(ホテルシップ)も話題になっていたので、新型コロナウイルスによる打撃は甚大でした」

クルーズプラネットでは、2020年内の海外クルーズの需要回復は困難だろうと判断し、春から夏にかけて、クルーズ会社と協力して予定より早く2021年のツアーを販売し始めた。その判断が功を奏し、予想以上に反響があったという。

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「2021年のクルーズに対する反応はかなりいいもので、予約してくれた方の多くはリピーターでした。もともと初めてクルーズに乗船した人の7割程度は再び乗船するほどクルーズのリピート率は高く、コロナ禍においてもリピーターの方からは、『また早く乗りたい』『いつ再開するのか』という声を多くいただいていました」

「ダイヤモンド・プリンセス」の一件を経てなお、リピーターの多くはクルーズ船への思いを募らせていたようだ。「2020年は乗れなさそうだから、2021年に予約する」という人も多かったという。

「現在は再び感染者が増えてきているので、2021年の春頃の予約は減ってきていますが、2021年秋以降から2022年にかけての予約が伸びてきています。クルーズ会社と一体となり、お客様の期待に応えたいです」

今後の課題は「感染防止対策」と「クルーズの醍醐味」の両立

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「現在は、感染防止対策を厳しく行うべきです。そして、今後感染者が減った際には、対策とクルーズの楽しみのバランスを取ることが重要になると考えています。というのも、クルーズの旅を楽しもうとすると、“3密”になりかねないからです」

クルーズの醍醐味といえば、船内での出会い。長い間、同じ船内で過ごす旅行者が知り合い、食事をしたり、ダンスをしたり。そんなコミュニケーションを取れるような工夫も、考えていく必要があるのだ。

「現在の対策を知り、『それなら安心』と予約してくださるお客様がいる一方で、『そこまで厳しいとクルーズが楽しくなくなる』と考え直すお客様もいます。対策を取ったうえでどう元の形に戻していくか、これからクルーズ業界全体で考えていかなければいけないところです」

段階を踏みながら、回復への道を進み始めているクルーズ業界。Withコロナの時代に快適な船の旅を提供するためには、感染対策をしながら一歩、一歩前に進んでいくしかない。

取材・文=有竹亮介(verb)

クルーズプラネット:https://www.cruiseplanet.co.jp/

プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。