岩盤支持層の文離れ?レームダックの前兆か

文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領の支持率が最近急落している。12月3日発表の韓国リアルメーターの調査では過去最低の37.4%(前週比-6.4ポイント)となり、40%といわれる文大統領の「岩盤支持層」の離脱が浮き彫りになった。リアルメーターの調査で支持率が40%を割ったのは初めてだ。

韓国リアルメーターHPより 青が支持、赤が不支持(9月5週~12月1週目までの集計)
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韓国ギャラップの調査(4日)でも、支持39%(前週比-1ポイント)となり、チョ・グク氏が法相を辞任した2019年10月や不動産政策への批判が高まった2020年8月に続き、3度目の40%割れとなった。「岩盤支持層」の離脱により、残り任期1年半の文政権が求心力を失いつつある。

支持率低下の最大の原因は、法務省と検察の対立激化だ。秋美愛(チュ・ミエ)法相は11月24日、尹錫悦(ユン・ソクヨル)検事総長に対し、憲政史上初めて「職務停止」を命じ、懲戒処分を請求した。

秋美愛(チュ・ミエ)法相

秋法相は「深刻で重大な不正を多数発見した」として、6つの懲戒事由を挙げた。

①報道機関社主との不適切な接触による検事倫理綱領違反

②チョ・グク前法相事件など主要事件で判事に不法査察

③2つの事件で監察妨害と捜査妨害

④マスコミへの情報漏洩

⑤検事総長の政治的中立を毀損

⑥監察対象として協力義務違反と監察妨害

法相の発表に対し、尹氏は「違法で不当な処分に最後まで法的に対応する」と法廷闘争も辞さない構えを示し、検察庁を後にした。突然の職務停止は尹氏解任の布石を意味する。法相と検察トップのどちらも絶対に譲れない、職を賭しての壮絶な対決が始まった。

職務停止命令は韓国社会に大きな波紋を投げかけた。秋法相が挙げた6つの事由に対し、検察内部からは処分撤回を求める声が相次いだ。尹氏を懲戒処分にするための法的根拠が乏しいうえ、監察手続きに違法性が疑われるなど、むしろ秋法相の強引な手法が際立っている。

尹氏処分に注目が集まる中、法務省の外部委員で構成する監察委員会は「職務停止の手続きに重大な欠陥がある」として、満場一致で「職務停止は不当」と結論づけ、法相に勧告した。また、ソウルの行政裁判所も「処分は不当」とする尹氏の訴えを認め、「効力停止」を命じた。この命令は30日間有効で、尹氏は直ちに職場復帰した。

尹錫悦(ユン・ソクヨル)検事総長

法相が職務停止“ゴリ押し”…文大統領は「公正な手続き」要求

世論の批判にさらされる形となった秋氏だが、尹氏解任に向けた動きを止めたわけではない。監察委勧告や裁判所の命令がありながらも、別途、尹氏解任の手続きを進めることができるためだ。

尹氏の処分を審議・決定する場は、法務省の懲戒委員会だ。7人の懲戒委員の主な人選は法相が主導するため、法相に近い人物で構成される可能性が高い。懲戒委で停職、懲戒、解任などの重い処分が出た場合は、検事懲戒法23条により、法相が文大統領の裁可を仰ぐ形になる。

文大統領は尹氏の職務停止が発表された11月24日以降、この問題に対してダンマリを決め込んできた。検事総長の職務停止はもちろん、大統領に事前報告がされている。このため、文大統領も事実上、尹氏“排除”を黙認した形となっていた。

しかし、世論調査で支持率が過去最低になると、文大統領は初めて「事案の重大性に照らし、懲戒委はより一層、手続きの正当性と公正性を担保しなければならない」と声を上げた。この発言を受けて、法務省は12月4日に予定されていた懲戒委の開催を10日に延期した。

大統領府は懲戒委の決定について「大統領が懲戒のレベルを変えたり、拒否したりすることはできない」との立場だ。大統領が予め、懲戒委の人選や決定に関与しないと強調し、大統領に政治的責任が及ばないようにしようとの思惑が伺える。検事懲戒法には「大統領が裁可する」との記述しかないため、大統領が懲戒委の決定を覆すことはできないとの解釈が成り立つ。一方で、大統領の任命責任を問う声もあり、文大統領の政治決断が問われている。

文在寅大統領

文政権の疑惑隠し批判も…歴代政権の“悪夢”再び?

検事総長の任命権は大統領にある。尹氏は朴槿恵前大統領の疑惑捜査などを陣頭指揮してきたことなどが評価され、文大統領が検事総長に登用した。任命にあたり文大統領は尹氏に「大統領府であれ政府・与党であれ、万一、権力型の不正があれば厳正な姿勢で対処して欲しい」と要請した。

尹氏はこれまでも「人(権力)に忠誠を尽くさない」と明言し、時の権力に切り込んできた。文政権の下でも自らの信条に従い、チョ・グク氏の不正や蔚山市長選挙への大統領府の介入疑惑を追及してきた。

それに待ったをかけたのが秋法相だ。チョ氏の後任として法相に就任した秋氏は、文大統領が悲願とする「検察改革」の実現に向け、組織改革を断行。大統領府関連の疑惑を捜査していた検察幹部を大挙異動させるなど、なりふり構わぬ手法で検察の捜査権限を縮小してきた。

秋美愛(チュ・ミエ)法相と尹錫悦(ユン・ソクヨル)検事総長

尹氏はこれに抵抗し、職務停止の直前には文政権が原発の廃炉を決める過程で評価が改ざんされた疑惑の捜査に着手。政府・与党に対する抵抗のシンボルとして尹氏の人気が高まり、次期大統領の有力候補として世論調査で上位を占めるまでになった。実際に尹氏が大統領候補となるかは未知数だが、野党に有力候補がいないため、保守層の支持が集まっている。

事態は法相と検察の対立から、次第に与野党の代理戦争の様相を呈しつつある。尹氏と法相は法廷でも熾烈な争いを繰り広げる見通しで、そこに文大統領も巻き込まれる可能性が高い。

韓国では大統領のほとんどが任期後半に支持率が落ちる傾向にあり、任期4年目がレームダック化への分岐点になるという。大統領の側近や家族などにスキャンダルが発覚したり失政が契機になることも多い。このため、韓国では歴代大統領が逮捕・収監されたり、自殺、暗殺など悲惨な末路を辿るケースが後を絶たない。

文大統領が師と仰ぐ盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領も検察の聴取後に自殺している。文大統領が検察改革を政権の最優先課題に掲げたのも、その無念を晴らしたいとの思いがあるからだ。

文大統領が師と仰ぐ盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領(右)検察の聴取後に自殺

だからといって法的手続きや公正性を無視して強引に検察改革を推し進めれば、世論の反発を招くのは当然だ。このまま「岩盤支持層」が離れ、次の大統領選挙で政権交代に追い込まれた場合、政治的報復のブーメランはそのまま文大統領に返ってくることになる。韓国の歴代大統領に繰り返されてきた負の連鎖を断ち切ることができるのか。文政権は重大な岐路に立たされている。

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【執筆:フジテレビ 国際取材担当 鴨下ひろみ】