夕方から授業が始まる夜間中学。かつて戦後の混乱などで学校に通えなかった人に教育の機会を提供するために設置された。今では外国にルーツをもつ生徒をはじめ、様々な背景を持つ人たちが学びの機会を求めて通っている。現代の夜間中学が担う役割とは。

静岡県内唯一の公立の夜間中学 生徒の多くは外国にルーツ
午後5時、生徒たちが登校してきたのは、静岡県磐田市にある県立ふじのくに中学校。静岡県内唯一の公立の夜間中学だ。
夜間中学は、戦後の混乱などで義務教育を十分に受けられなかった人たちの「学び直しの場」として設置された。しかし、英語の授業の音読で、教室から聞こえてきたのは、流ちょうな発音だった。県立ふじのくに中学校磐田本校の生徒のうち、日本国籍の生徒は7人、外国にルーツのある生徒が28人となっている。以前と比べ、夜間中学での学びは大きく変わってきている。
13歳でブラジルから来日 公立中学校になじめず
ブラジル出身の日系3世、西村唯一さん17歳。2025年4月、ここふじのくに中学校に入学した。昼間はファストフード店でアルバイトをしている。磐田市内で両親と姉と家族4人で暮らして、来日したのは13歳の時だった。

来日前、父・シンタロウさんはブラジルでレストランを経営していた。しかし、新型コロナウイルスの影響で客がいなくなって廃業に追い込まれた。以前、日本で暮らしていたシンタロウさんは家族を連れてまた日本で暮らす決断をした。しかし、最も心配していたことが、子供たちの学校での生活だった。
3年前、唯一さんは家族で磐田市に移り住み、市内の公立中学校に入学した。しかし、父親の心配のとおり、唯一さんは日本語が十分に話せず、学校になじめなかった。唯一さんは「一番大変だったのは、友達を作ることだった」と振り返る。そして、中学校では、日本語を十分に身につけられなかった。
同じ境遇の友達が多い夜間中学
しかし、夜間中学は同じ境遇の友達が多い。唯一さんは、友達とともに日本語や学びきれなかった教科の学び直しに前向きに取り組んでいる。
教える側の苦悩 日本語指導が専門ではない
一方、日本語が苦手な生徒が増える中で、教える側は頭を悩ませていた。義務教育の学び直しの場を提供する夜間中学。現在、全国で夜間中学に通う生徒のうち、およそ6割が外国にルーツを持つ。

この日、磐田市の夜間中学で日本語の授業をおこなっていたのは、社会科の教師でした。日本語教育が専門ではない。どのように日本語の指導をすればいいのか、教育現場では手探りの状態が続いている。
日本語だけ学べばいいわけではない。将来、高校に進学するためには、理科など他の教科の知識も必要になる。どのようなバランスで指導すべきなのか、悩んでいる教師もいた。
文部科学省はガイドラインを公表

こうした中、文部科学省は2026年5月、夜間中学における日本語指導のガイドラインを初めて公表した。ふじのくに中学校でも、ガイドラインを参考に、友達と相談したり、考えたりするときは母国語を使い、思いや考えを発信するときには、日本語で発言するよう呼びかけている。
外国にルーツを持つ子供たちの学習について研究し、静岡市で夜間教室の運営に携わっている静岡県立大学の角替弘規教授は、ガイドラインを「最初の一歩」と評価した上で、「これだけでよいのではなく、どうすれば勉強をさせられるか、どうすれば社会で前向きに生きていけるのかという希望を持たせることが課題」だと説明した。

日本では、社会で自立して生きる土台を育てるために全ての子供たちが義務教育を平等に受けられると保障されている。角替教授は、今後日本の社会に出ることになる外国ルーツの子供たちも義務教育を受ける大切さを強調しているものの、批判的な考えを持つ人がいるのも事実だ。
批判的な考えを持つ人も

SNSでは「日本語学校でいいじゃん」「強制送還で追い出せばいい」「移民に頼る国は崩壊する」などと批判的な考えもみられる。
角替教授は、「みんなと仲良く暴力に寄らずに自分の意見を主張する、人の話を聞くことも、学校を通して学ぶことであり、その関係をちゃんと作っていくことによって結果的に社会的な秩序の安定を図る」と説明している。
夢は「日本で高級ブランドを作ること」

日系3世の唯一さんはいま、夜間中学で学び直しをしながら、海外留学も視野に、自分の未来を思い描いている。夢は服を作ること。「日本で高級なブランドを作りたい」と夢を語った。
生徒の夢を応援 セーフティーネットの役割
県立ふじのくに中学校磐田本校の上原弘樹校長はこうした生徒たちの夢を応援している。生徒たちは「日本でこれから頑張って生活していく」という強い思いを持っているという。「人材不足が叫ばれている中、これから静岡県の経済を支えていく、優秀な労働者として十分な素養を備えている」と話す。

その上で、「本校の果たす役割は大きい」と力強く語った。その上で、「国籍やルーツにかかわらず、学びの機会から取り残されたセーフティーネットとしての役割を果たさなければならない。そのために学校のことを県民に広く知ってもらいたい」と語った。
義務教育の最後の砦とされる夜間中学。進学だけでなく商工会議所の協力もと、企業の求人を学校に紹介する取り組みも始めている。「日本で夢をかなえたい」「社会の役に立ちたい」と希望を持つ子供たちを支えている。
(テレビ静岡)

