毎日お酒を飲む習慣があった人が、震災で急に飲めなくなると、数日後に「振戦(しんせん)せん妄」と呼ばれる状態になることがあります。意識の混乱や興奮に加えて、手の震え、大量の汗、動悸が見られるのが特徴で、急いで医療につなぐ必要があります。
また、ふだん飲んでいる睡眠薬や抗不安薬が手に入らず急にやめた場合にも、似た状態が起こることがあります。
不眠との見分け方
せん妄の大きな特徴は、本人が自分の異変に気づけないことです。
周りの人が「いつもと違う」と気づいてあげることが何より大切です。次のような様子がないか、注意して見てください。
【注意すべき症状】
・話のつじつまが合わない、質問への答えがちぐはぐ
・今日の日付や、自分がどこにいるのかがわからない
・急にぼんやりする、混乱する
・夜中に興奮して大声を出す、歩き回る、「いないもの」が見えると言う
・昼間はウトウトして、夜に目が冴える(昼夜逆転)
・翌日に聞いても、夜の出来事を覚えていない
不眠症の人は「眠れなくてつらい」と自覚していて、起きているときの受け答えはしっかりしています。
これに対してせん妄では意識そのものがぼんやりし、受け答えや行動がいつもと違ってきます。
注意したいのは、興奮が目立たないタイプもあることです。不眠だけが目立つ、元気がなく“うつ”のように見える、物忘れや混乱が目立ち認知症のように見えるといった現れ方もあり、見過ごされがちです。
周りの人ができること
家族のせん妄が疑われたら、まずは救護所の医療スタッフやかかりつけ医に相談してください。特に、発熱や脱水の様子がある、手の震えや大量の汗がある、急に呼びかけへの反応が鈍くなった、といった場合は急いで医療につなぎましょう。
せん妄は夕方から夜にかけて悪化しやすい傾向があります。高齢の親御さんと一緒に避難している方は、特にこの時間帯の様子に気を配ってください。そのうえで、ご家族や周りの人にできることもあります。
【周囲ができること】
・昼間はなるべく明るい場所で過ごしてもらい、ウトウトしていたら声をかける
・こまめに水分をとってもらう
・「今日は○日、ここは○○小学校の避難所だよ」と、日付や場所をさりげなく伝える
・眼鏡や補聴器を使っている人は、なるべく身につけてもらう
・家族など、なじみのある人がそばにいて穏やかに声をかける
気をつけたいのは、「眠れないようだから」と、手持ちの睡眠薬や精神安定剤(抗不安薬)を自己判断で飲ませないことです。
一般的な睡眠薬や精神安定剤の多くはせん妄には効果が乏しく、かえって悪化させてしまうことがあります。せん妄は不眠症とは原因も治療法も異なるため、医師の判断が必要です。
震災後の不眠には「眠れるときに眠る」ことをおすすめしていますが、せん妄が疑われる場合は逆に、昼と夜のメリハリをつけることが回復の助けになります。
「眠れない」の陰に隠れたせん妄を見逃さないよう、身近な人の“いつもと違う”に目を向けてください。
三島和夫(みしま・かずお)
秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座教授。医学博士。秋田大学医学部医学科を卒業後、同大精神科学講座講師、同助教授、アメリカ・スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授などを経て、2018年から現職。

