何気なく目に入った光景なのに、なぜか視線が引き寄せられる―。その背後には、本人も気づかない脳の働きが隠されているのかもしれない。
北海道大学大学院文学研究院の河原純一郎教授らの研究グループは、スカートや短パンなどから見える『肌の露出した脚が、見る人の性別にかかわらず、自動的に注意を引きつける』ことを実験で明らかにした。
しかも、注目を集めるのは、単に肌が見えているからというわけではないようだ。実験では、脚の露出による注意の引きつけ方に、男女の違いも浮かび上がった。
■ 視線を奪うのは偶然か、それとも脳の仕組みなのか?
人の印象を左右する身体部位といえば、まず顔が思い浮かぶ。しかし、脚もまた、他者の印象を形づくる重要な要素の一つだ。
では、肌の露出した脚は、見る人が意識していなくても視線を引きつけるのだろうか。
これまで、この疑問は科学的に十分検証されていなかった。そこで研究グループは、行動実験と視線計測実験という2つのアプローチから、人の注意がどのように動くのかを詳しく調べた。
■ 文字を探していても、ダンスを見ていても……視線が示した結果
実験の一つ目では、参加者が画面上の文字を探す課題に取り組む。その最中、課題とは無関係な脚の画像が表示され続ける仕組みだ。
文字を探すことに集中しているとき、関係のない脚の画像はどのような影響を及ぼすのか。研究者たちは、参加者の反応を通じて注意の向き方を検証した。
二つ目の実験では、男女それぞれ1人のダンサーが、短パンと長ズボンを着用して踊る動画を使用。参加者が動画を自由に見ている間の視線の動きを計測した。
課題に集中している場面と、自由に映像を見ている場面。異なる状況で得られたデータから、研究グループは肌の露出と視線の関係を探った。
そこで明らかになったのは、興味深い傾向だった。
■ 女性の露出した脚に、より強く引きつけられる視線
実験の結果、『肌が露出した脚は、衣服で覆われた脚よりも長く注視される』ことが分かった。
この傾向は、ダンサーの性別にも、見る人の性別にも左右されなかった。つまり、男女どちらの参加者も、男性・女性どちらのダンサーを見る場合にも、露出した脚により長く視線を向ける傾向が確認されたのだ。
さらに注目すべきなのは、女性の露出した脚が、男性の露出した脚よりも、男女双方の参加者の注意を引きつける傾向を示した点だ。
ただし、ここで明らかになったのは、あくまで視線の向き方や注視時間の違いである。視線が長く向けられた理由や見た人の感情まで説明できるわけではない。
そして、研究結果にはもう一つ、重要な手がかりがあった。
■ 肌の露出なら何でもいいわけではない! 脚と腕で異なる結果
研究グループが確認したのは、単純に肌が見えていれば視線が集まる、という現象ではなかった。
腕を露出させた場合には、脚で見られたような注意を引きつける効果は確認されなかったのだ。
この違いは、身体のどの部分が露出しているかによって、人の注意の向き方が変わる可能性を示している。
なぜ脚なのか。なぜ腕では同じ結果が得られなかったのか。その背景にある認知の仕組みを解き明かすことは、人が他者の姿をどのように捉え、無意識のうちに何に注目するのかを理解するうえで、重要な課題となりそうだ。
■ 無意識の視線が映し出す、人間のコミュニケーションの仕組み
今回の結果について、研究グループは、肌の露出した脚が、見る人の意図とは無関係に注意を引きつける「社会的な信号」として働く可能性を示すものだとしている。
私たちは、何を見ようとするかを自分で決めているつもりでも、実際には、意識する前に注意を向けていることがあるのかもしれない。
今回の成果は、そんな人間の注意と認知の働きに新たな光を当てるものだ。
研究成果は2026年9月18日、国際学術誌「Consciousness and Cognition」にオンライン掲載された。研究は、静岡大学教育学部の鶴見周摩助教、福山大学人間文化学部の反田智之講師との共同で行われた。
北海道大学は今後も、人の注意や認知に関する基礎研究を通じて、社会的なコミュニケーションへの理解を深めるための知見を積み重ねていく方針だ。
何気ない視線の動き。その一瞬に、人間の脳が持つ意外な仕組みが隠されているのかもしれない。
