令和元年東日本台風で甚大な被害を受けた福島県本宮市。市内で唯一の酒蔵「大天狗酒造」は床上60cmの浸水被害に見舞われたが、地域の支えで酒造りを再開した。復興の道のりで再認識したのは「普段からの地域とのつながり」の大切さだった。
■本宮市唯一の酒蔵を襲った水害
東日本台風では、福島県内で統計開始以降最大となる約6800億円の被害が発生した。多くの産業が被災し、今も復興の途上にある。
本宮市にある「大天狗酒造」は、約150年の歴史を持つ市内で唯一の酒蔵である。安達太良山の伏流水と地元産の酒米を使い、代表銘柄の「大天狗」をはじめ、地元で愛される酒を造り続けてきた。
しかし、その豊かな自然は時に脅威となる。酒蔵は阿武隈川と安達太良川に囲まれた場所にあり、東日本台風では市街地一帯が浸水するという大きな被害に見舞われた。
被害は新酒の仕込みが始まる直前に発生。店内は約60cmの高さまで水に浸かり、大きな冷蔵庫が倒れて中の酒瓶が散乱するなどの被害が出た。
■“その年のうち”に酒造りを再開
被害から2ヶ月後の2019年12月、大天狗酒造では新酒の初搾り作業が行われた。例年より1ヶ月ほど遅れての再開だった。
床上浸水によって冷蔵庫や瓶詰め用の機械などを失ったが、水害を免れた本宮産の酒米を使い、その年のうちに酒造りを再開したのである。
その後、新型コロナウイルスの影響もあり、製造量は6〜7割ほどにしか回復していないというが、本宮市唯一の酒蔵は水害を乗り越え、伝統を守り続けている。
■復興の支えは“顔見知り”の存在
2026年8月、大天狗酒造は福島大学で防災などを学ぶ学生たちに、これまでの道のりを語った。未来のまちづくりを担う若者たちに伝えたのは、「普段からの地域とのつながり」の大切さだった。
関係者は、「どこに誰が何人住んでいるかって分からなかったら助けてはあげられないですよね」「顔見知りだったということが支援をしていただけるにあたって一番大事だったんだろうなと」と語る。
大天狗酒造の伊藤滋敏社長は、水害直後を振り返り、酒造りが再開できるか非常に心配だったと話す。しかし、酒蔵の従業員や地域の人々がすぐに片付けや製造作業に協力してくれたおかげで、酒造りを始めることができたという。伊藤社長は「その恩返しも含めて、これからも本当にいいお酒を造っていきたい」と語った。
■絆を育むイベントスペース
地域とのつながりの大切さは、復興の歩みの中でも感じられた。水害後、クラウドファンディングによって酒蔵にイベントスペースが整備された。壁には、多くの人からの応援メッセージが刻まれている。
このスペースでは、新酒ができた際に搾りたての酒を一緒に楽しむイベントなどが開催され、地域の交流の場となっている。
伊藤社長は、「一番大事なのは日頃の付き合い。こういったところを利用して、酒の会だったり、いろんな集まりをやって、強い絆を持っていければいいなと思っています」と述べ、日頃の付き合いが防災にもつながると考えている。
大天狗酒造では、今年も来月から新酒の仕込み作業が始まる。水害という困難を乗り越え、地域とともに前に進んでいる。
