「ウサギの島」として知られる広島県竹原市の大久野島で、異変が起きている。イノシシが頻繁に現れるようになり、ウサギを襲って食べる事例も…。その背景に何があるのか。島の生態系に影響を及ぼす要因を、野川諭生キャスターが調査した。
ウサギの島に異変! イノシシが出没
竹原市の沖合約3キロ、瀬戸内海に浮かぶ大久野島。宿泊施設のある無人島に数百匹のウサギが生息し、年間約20万人の観光客が訪れる人気の観光地だ。一方、かつて旧日本陸軍の毒ガス製造拠点だったという、戦争の記憶も残されている。
フェリーを降りて島を歩き始めると、さっそくウサギたちが駆け寄ってきた。
「お~、寄ってくる、寄ってくる!平和に見えますけどね。一体、彼らの生息環境に今、何が起きているんでしょうか」
初めて島を訪れた野川キャスターも、人に慣れたウサギたちの様子に驚いた。しかし、今回の調査で確かめたいのは、島で起きている“異変”だ。島でイノシシを見たことがあるか、船員に尋ねると「イノシシが出るのは知っていますよ」と平然と答えた。
イノシシの出没だけではない。2026年の夏、福島大学や呉高専などの調査チームは、大久野島でイノシシが生きたウサギを襲って食べていたことを示す研究成果を発表した。
なぜ、こうした事態が起きているのか。調査に携わった呉高専の小倉亜紗美准教授とともに、島を歩いた。
食べ残しのエサがイノシシを呼ぶ?
「日中、堂々とイノシシが人前に現れるようになったのは、最近のことなのかなと思います」と、小倉准教授は話す。島を歩いてみると、さっそくその背景につながるものが見つかった。
「小倉さん!これ、ニンジンが丸々1本じゃないですか」
地面に落ちていたのは、観光客が残していったとみられるニンジンだ。
「こんな大きなニンジンは、ウサギが到底食べきれないと思います」
小倉准教授によると、ウサギの食べ残しがイノシシなどほかの動物のエサになっている可能性があるという。
「誰かがよかれと思ってウサギのために置いていったエサが、結果的にこの島の生態系を崩すことにつながっているということですか」
野川キャスターの問いに、小倉准教授も「その通りだと思います」とうなずく。
さらにその近くに、今度はスライスされたニンジンが大量に放置されていた。ウサギが食べきれないエサがイノシシを呼び寄せる一因になり、増えたイノシシがウサギを捕食する事態を招いたと考えられている。
人を恐れないイノシシ…すぐ目の前に
調査を続けていると、茂みの向こうに動く影が見えた。
「あ、いました!イノシシです!」
イノシシは、島の桟橋へと続く通り道に姿を現した。日中にもかかわらず、人の近くを堂々と歩いている。
「ここまで来るんですね」
野川キャスターが驚くと、小倉准教授は「動物園以外で、こんなに近くでイノシシを見ることってなかなかないと思います」と話す。
ウサギとの距離感に慣れていると、“茂みの向こう”ならまだ離れた場所にいるように感じるかもしれない。しかし、イノシシの性質を考えると、これほど近い距離で遭遇することには不安がある。実際に遭遇した野川キャスターも、イノシシが人を恐れる様子はなく、人に慣れているように感じたという。
大久野島のイノシシは、周辺の島などから泳いで渡ってきた個体もいるとみられ、捕獲などの対策が行われているが、ここ1~2年で急速に数が増えたと推定される。視聴者が撮影した映像や画像では、子どものイノシシも確認されている。
小倉准教授は、人が持ち込んだエサがイノシシと人との接触リスクを高めている可能性を指摘する。
「エサをやることがウサギにとってどういう意味があるのか。それが、人間もイノシシに接触してしまうかもしれない問題につながっているんだということまで考えてもらえれば」
たった1日で大量のニンジンを回収
問題となっているのは、食べ残されたエサだけではない。危険を顧みず、イノシシに近づいて直接エサを与える観光客もいて、野生動物との関わり方や島の環境を守るためのモラルが問われている。
現在、大久野島ではエサを販売していないが、島の外から野菜やペレットなどを持ち込み、ウサギに与える光景が当たり前になっている。海外から訪れた観光客も「一日中ウサギとふれあえるのが楽しい」と話し、白菜やニンジンをたくさん持参していた。
大久野島を管理する環境省は「法律でエサやりは禁止されていないが、望ましくはない」としている。一方、ウサギとのふれあいは“観光の目玉”にもなっており、エサやりをめぐる対応は難しい問題だ。
大久野島ビジターセンターによると、島で回収されるエサの量は、特に連休中などに増える傾向があるという。実際、5月2日にはニンジンなど大量のエサが1日で回収された。
こうした状況を改善しようと、島で活動するボランティアもいる。
「ごみを拾ったり、ウサギさんの余ったエサを拾ったりしています」
「持ってきたものは責任をもって持って帰ってもらえれば、島もきれいだし、平和になると思います」
雨の日も島を見回り、放置されたエサを拾い続ける人たち。活動の根底にあるのは、ウサギの島を守りたいという思いだ。
「イノシシが悪いわけじゃない。エサがなければ増えない」
野生動物との距離感、対策が必要に
調査中、野川キャスターは再びイノシシに遭遇した。
「今、歩道を悠然と横切っていきました。そのイノシシから逃げるウサギ…といった状況です」
ウサギをかわいがるために人間が持ち込んだエサが、結果的にウサギを脅かすことにつながっていないか。
小倉准教授は、ペットフードを大量に持ち込む人や、キャベツを丸ごと1玉持っている人を見かけると話す。
「ウサギがかわいくて観光客は来ていると思うんですけれども、そのウサギを守るためにも、やはりエサやりを減らす必要があるのかなと思います」
大久野島では、観光客の善意に委ねるだけでなく、エサやりのルールづくりや、持ち込んだエサの後始末を徹底するための対策が課題となっている。注意を促す案内板なども設置されているが、今一度、一人ひとりがエサを食べきるまで見守るなどの周知が必要だ
野生動物との距離感が問題になっているのは、大久野島だけではない。廿日市市の宮島でも2026年度、人に慣れたとみられるキツネが人を襲う事案が4件発生している。
観光客の善意が、思わぬ形で生態系や人の安全に影響を及ぼすこともある。野生動物とのふれあいを楽しむためにも、適切な距離を保ち、島の環境を守る行動が求められている。
(テレビ新広島)

