広島県大竹市の栗谷町で、地元の栗を使った焼き菓子を作り続けてきた女性グループ「くり魔女」。約7年にわたる活動の最終日、里山の魅力を取材していたテレビ新広島の辰已麗アナウンサーが偶然その現場を訪れた。
マロンの里を盛り上げた「くり魔女」
大竹市の北部に位置する栗谷町。豊かな森林や清流、日本の原風景が残る中山間地域だ。
広島県天然記念物の「蛇喰磐(じゃぐいいわ)」で自然に触れた辰已アナが次に向かったのは「マロンの里交流館」。ここで、地元の栗を使って焼き菓子を作ってきた「くり魔女」の存在を知る。
しかし、案内してくれた中川晴雄館長から返ってきたのは、思いがけない言葉だった。
「くり魔女の焼き菓子はすごく有名になったけど、あまり宣伝したくない。8月で辞められたんで」
なんと、辰已アナが訪れた日が、くり魔女グループの最後の活動日だったのだ。
館内の加工室をのぞくと、メンバーたちはこれまで使ってきた場所をきれいにしてから活動を終えようと、片づけと掃除を進めていた。そんな中、正木清美さん(76)と稲垣洋子さん(78)が話を聞かせてくれた。
「いつからやられていたんですか?」
「令和元年6月からですから、7年ですね」
「昔から作っていたから、栗谷の栗で地域おこしというか」
マロンの里を元気にしようと、2019年に始まった活動。和栗を練り込んだマドレーヌなど、地元産の栗を使った焼き菓子は人気を集めた。
「残念です」と話す2人に、辰已アナも「本当にお疲れさまでした」とねぎらいの言葉をかけた。
最後のおやつは大粒の栗タルト
活動最終日のおやつにと、稲垣さんが用意していたのは栗のタルトだった。
「みんなのおやつにと思って作ってきたんだけど、一緒に食べてもらいますか?」
思いがけない誘いに、辰已アナは「え!?」と驚きつつ、「楽しみ!食べたいです!」と笑顔を見せた。
きれいに片付いた加工室で、6人の女性がテーブル代わりの作業台に集まっている。その輪に加わった辰已アナも、まるで「くり魔女」の一員だ。ホットコーヒーと栗タルトが振る舞われ、最後のおやつ時間が始まった。
「もう、くり魔女さんのお菓子は食べられないと思っていたんです」
タルトには、大粒の渋皮煮がごろりとのっている。昨年の秋に地元で収穫した栗だという。
「こんな大きい!いただきます!」
辰已アナは一口食べて声を弾ませた。
「ん~!甘い!渋皮煮がめっちゃおいしいです」
メンバーも「でしょ!」と顔をほころばせる。
甘さだけでなく、栗本来の味わいが感じられる渋皮煮。正木さんが「すごく上手なの」と稲垣さんの腕前をたたえた。
「この地区の栗自体、やっぱりおいしいんですか?」
「おいしい」
栗谷の栗がおいしい理由を尋ねると、メンバーからは「気候のせいもあるかも。お米もおいしいし野菜もおいしい」と、地元の農産物を誇る声が上がった。
惜しいけど「やっぱり歳にはかなわない」
くり魔女は、もともと7人でスタートした。近所の人に声をかけて仲間を集め、1人が高齢を理由に活動を離れた後も、6人で力を合わせてきた。
「もうばっちりですね、このチームは。何も言わなくても“あうんの呼吸”で動けるんです」
長く一緒に活動してきたからこそ、自分が何をすればいいのか、言葉にしなくても分かる。そんな関係ができあがっていた。
「何をしている時が一番楽しかったですか?」
「まあこうやって、おしゃべりしたり」
お菓子を作ることだけでなく、仲間と集まって過ごす時間が「生きがいにもなっていた」と話すメンバーもいた。
「みんな同じ価値観だったから。終わるのが惜しいですよね」
それでも、活動を終える決断をしたのには理由があった。
「やっぱり歳にはかないません。できなくなってやめるよりか、少し前にやめることに決めて」
正木さんの言葉に、ほかのメンバーもうなずく。
「きょう来てもらってよかったです。明日じゃいませんでしたから」
笑いと会話が絶えないおやつ時間。約7年にわたって築いてきた6人のつながりが、そこにはあった。
栗谷の地名の由来は「栗」?
その後、辰已アナは正木さんと一緒にある場所へ向かった。
目の前には立派な栗の木。茶色く色づいたイガから、艶やかな実が顔をのぞかせている。
「栗谷に来て、やっと栗が見られました!」
朝から栗を探していたものの、目にしたのはまだ青いイガばかり。ようやく出合えた栗に、辰已アナも喜びを隠せない。
「栗がいっぱいあるから、栗谷っていう地名になったんですか?」
地名の由来には諸説あるが、昔から栗の栽培が盛んだったことに由来するともいわれる。栗谷町には「大栗林」「小栗林」など、さらに栗が付く地名もある。
実際、栗の木がある民家も珍しくないが、近年は気がかりなことも…
「クマが出たりするんで。クマは栗と柿が好きなんですよ」
栗は人だけでなく、クマにとっても好物。クマを呼び寄せないために、場所によっては栗の木を「切らないといけないかなと思ったりする」という。
辰已アナ、初めての栗拾いに挑戦!
辰已アナは栗の木を見上げ、イガが割れた実を指さした。
「パンって開いて中身が…」
「ちょっと当たったら落ちますよ」
正木さんが長い竿を伸ばし、イガを軽くつつくと、いとも簡単に落ちた。
「すごい!」
風に揺られるだけで落ちそうなイガ栗。正木さんが次々と竿で落としていく様子を見て、辰已アナも収穫に挑戦することに。
「待ってお母さん!私もやりたい!」
辰已アナは高い場所にある栗を狙い、長い竿をめいっぱい伸ばした。
「届く?」
「届かないかも……。届け!よっ、落ちた!」
狙い通り栗が落ちると、笑顔がこぼれた。続いて正木さんからイガの開き方を教わる。
「とり方わかる?」
「わかんないです。手でとる?」
「手じゃ痛いから、こうして開く」
正木さんが見せてくれたのは、靴の裏でイガをパカッと開く方法。手で触ると、とげが刺さってしまうためだ。
「すごい!初めて!」
イガの中から、つやつやとした栗の実が現れた。
「これを手で取るんですか?」
「イガが当たったら痛いからね」
「あっ、痛い!」
とげに気をつけながら、実を取り出す。
「とれた!すご~い!」
初めての体験に大喜びする姿に、正木さんは「そんなことで感動してくれて」と笑う。
「そんなことじゃないですよ。すごいじゃないですか!かわいい!」
栗谷町でようやく出合えた栗。自分の手で収穫できた喜びもひとしおだ。
「いや~、見られず帰るかと思いました」
「本当に?よかった」
念願の栗を手にし、正木さんに感謝を伝えた辰已アナ。栗に導かれた出会いの先にあったのは、活動をともにしてきた6人の絆と、地元・栗谷への深い愛着だった。
(テレビ新広島)

