2024年の大統領選でトランプ氏が18ポイントもの大差で勝った南部・テキサス州の下院選挙区で異変が起きていた。この地域は本来なら共和党が心配する必要もないはずの「赤い(共和党のシンボルカラー)選挙区」だ。ところが9月、共和党系の政治団体は現職の候補を支援するため、追加で約200万ドル、日本円で約3億1500万円の資金を投入した。厳しい選挙情勢を反映した動きの一つだ。
選挙分析サイト「クック・ポリティカル・リポート」は、この選挙区を、共和党やや有利から「Toss Up=互角」に変更した。情勢の変化はここだけではない。ロイター通信が各選挙区の選挙資金を分析したところ、共和党系の主要団体や大口献金者は9月1日以降、それまで資金を投入していなかった少なくとも39の下院選挙区で新たに支出を始めた。

共和党幹部は、トランプ氏が2桁差で勝った選挙区でも「勝てると思い込むな」と警告しているという。11月3日の中間選挙まで、1カ月。いったい何が起きているのだろうか。
「中間選挙」は時の政権への中間評価
中間選挙は、大統領の4年の任期のちょうど中間に行われる議会選挙だ。今回は下院435議席すべてと上院(100議席)の約3分の1が改選される。現在はホワイトハウスと上下両院を共和党が握る、いわゆる「トリプルレッド」。民主党がどちらかの院を奪えば、トランプ政権の残り2年間の法案や予算、議会による政権監視にも大きな影響が出る。
トランプ氏が打ち出す「2つの経済カード」は危機感の表れ
この選挙を自らへの審判にしようとしているのがトランプ氏だ。9月、テキサス州ダラスで開かれた共和党の党大会の演説で、「Pretend that I’m on the ballot=私が投票用紙に載っていると思ってほしい」と支持者に呼びかけた。
その象徴が、共和党が上下両院の多数派を維持すれば成人1人あたり5000ドルを支給するとした「トランプ配当」だ。ただ、実現には1兆ドルを超える規模の財源が必要とみられ、議会の承認も必要となるとも言われている。
トランプ氏は9月28日、もう一つの経済カードを打ち出した。ミネソタ州の企業がアイオワ州に150億ドル、日本円で約2兆4000億円規模の巨大製鉄所を建設する計画だ。
完成後は少なくとも1750人を雇用し、建設段階でも最大6000人の雇用を支えるとしている。アイオワは2024年にトランプ氏が約13ポイント差で勝った「赤い州」だが、今回は上院選で激しい競り合いの様相を呈している。相次いで打ち出す経済カードからも、トランプ共和党の苦戦への危機感が透けて見える。
最大の敵は「生活費」
ただ、共和党の候補者たちにとって、より切実なのが家計を圧迫する物価高騰の問題だ。9月のロイター/イプソスの調査で、トランプ氏の支持率は32%と過去最低を記録。生活費への対応を評価した人は17%にとどまった。議会選挙の投票先でも民主党が共和党を8ポイント上回った。 NPR/PBS News/Maristの調査では民主党53%、共和党41%。中でも2年前の大統領選でトランプ氏の返り咲きを後押ししたとも言われている無党派層では民主党が57%、共和党は32%と25ポイントの差がつき、無党派層の54%が自らの一票は「トランプ氏への反対票」という意味合いが強いと答えた。

終盤のもう一つの変数が、イラン戦争と燃料価格だ。アイオワ州やミシガン州の共和党候補からは、戦争の早期終結を求める声が出ている。 「戦争時」ならではの外交問題が生活費の問題と重なり、選挙終盤に入っても共和党候補は「イラン戦争」の逆風から抜け出せずにいる。
「赤い選挙区」まで戦場に
こうした変化は、個別の選挙区に顕著に表れ始めている。「クック・ポリティカル・リポート」は9月25日、共和党有利や互角とみていた選挙区を中心に、15の下院選挙区の情勢評価を一斉に民主党方向へ変更した。さらに、今回激戦区として注目されている37の下院選挙区の有権者を対象にした最新の調査では、民主党候補の支持率が49%、共和党候補が47%と、民主党が上回っている。2年前の大統領選挙では全体としてトランプ氏が優位だった地域だが、風向きが変わっていることが伺える。

中間選挙の審判は、全議席が改選される下院に顕著に表れる傾向がある。2018年の「青い波」も主に下院で起きた。しかし今回は上院でも、本来なら共和党が心配する必要のなかった州に変化が出ている。「経済カード」を切り出した前述のアイオワ州に加え、共和党の牙城とも言える南部・テキサス州でも上院選が接戦となっている。9月のマリスト・ポールの調査では民主党候補の支持率が50%、共和党候補は44%だった。
テキサス州は2024年にトランプ氏が13ポイント以上の差で勝った州だ。
もちろん、一つの世論調査だけで情勢を決めつけることはできないが、重要なのは、2年前にトランプ氏が2桁差で勝った州まで接戦になっていることだ。一方、民主党もミシガン州やニューハンプシャー州など、自らの議席を守らなければならず、民主党にも「守る戦い」がある。
1期目の8年前は「青い波」だった
トランプ氏は今回、大統領として2回目の中間選挙を迎える。1期目に経験した2018年の中間選挙では有権者から厳しい審判が突きつけられた。野党・民主党は下院で41議席を純増し、トランプ氏率いる与党・共和党から多数派を奪還した。このとき「青い(民主党のシンボルカラー)波」の震源となったのは都市周辺の住宅地に暮らす「郊外票」だった。共和党(農村地域に支持層が多いとされる)と民主党(都市部に支持層が多いとされる)が競り合う地域だ。
2016年の大統領選ではトランプ氏47%、クリントン氏45%とほぼ互角だった「郊外票」は、2018年の下院選では民主党52%、共和党45%と7ポイント差に広がった。 背景にはトランプ氏への反発に加え、医療保険への不安があった。選挙直前の医療政策の非営利組織KFFの調査では、医療を「最も重要な争点」とした有権者が30%と、経済・雇用の21%を上回った。 投票率も中間選挙として100年ぶりの高水準となった。
ピュー・リサーチセンターの分析では、2016年には投票しなかったものの2018年に投票した人の68%が民主党の下院候補を支持した。 そして、この2018年の選挙戦でもトランプ氏は、「Pretend I’m on the ballot=私が投票用紙に載っていると思ってほしい」と訴えていた。しかし、結果は下院41議席を失い、選挙後には一転して、「I wasn’t on the ballot=私は投票用紙に載っていなかった」と弁明した。
トランプは「歴史」に抗えるのか
そしてトランプ氏が戦っている相手は、民主党だけではなく、「歴史」も一つに挙げられる。

1938年以降に行われた22回の中間選挙のうち、大統領の政党が下院で議席を減らしたのは20回。例外は1998年のクリントン政権と2002年のブッシュ政権だけだった。
トランプ氏は、自らも一度味わった「中間選挙の歴史」に今回は抗えるのだろうか。
(報道局・外信部 千田淳一)

