東京電力は福島第一原子力発電所2号機で10月2日午前10時、3回目となる「燃料デブリの試験的取り出し」作業に着手した。
格納容器内に初めて投入されたのは、全長約22m、重さ約4.6t、約78億円をかけ、燃料デブリの試験的取り出し専用に開発された大型の“ロボットアーム”。当初、2021年に投入予定だったこのロボットは4回の延期を経て約5年越しの投入となる。福島第一原発で廃炉・汚染水対策の最高責任者を務める小野明プレジデントは、着手前日に行われた10月1日の会見で「ようやくここまで来たなという気がしている」とこれまでの経緯を振り返り。今後に控えるデブリ取り出しの“規模拡大”に向けた格納容器内の情報を、このロボットアームを用いて取得していきたい考えを示した。
【新型コロナで開発中断も “5年越し”のロボットアーム】
福島第一原発は2011年の事故当時、1~3号機が稼働中で炉心に核燃料が格納されていた。地震と津波で電源が失われたことで炉心を冷やす機能が喪失。核燃料が過熱し、金属やコンクリートを巻き込んで冷え固まったものが“燃料デブリ”となった。
福島第一原発に残る燃料デブリは1号機に279t、2号機に237t、3号機に364tの計880tと推計されているが、今もなお、強い放射線を発し続ける燃料デブリには、人が直接近づくことはできない。このデブリを数g、“試験的に取り出す”ために開発されたのがロボットアームとなる。
当初は2021年に計画されていたロボットアームによる燃料デブリの試験的取り出し。しかし、新型コロナの流行により英国での開発が中断するなどして計4回の延期となる。開発に長い時間がかかったことにより、一部のケーブルが経年劣化で断線する不具合が生じて対応に追われたこともあった。
一方、“現場”となる原子炉側にも課題が見つかる。ロボットを投入しようとしている“格納容器につながる配管”に、事故の熱で溶けたケーブルなどが固まって詰まっていたことが発覚。大型のロボットアームではなく、狭い場所を通ることができる“釣り竿”形状のロボットで2024年11月に初の“試験的取り出し”に成功。その後、2025年4月に2回目の採取が実施され、2回の合計で約0.9gの燃料デブリが採取された。
東京電力はロボットアームの投入をめぐり、目標時期を“2026年夏頃”と見直し。福島第一原発の外の施設において実際の廃炉環境を模擬した設備などを使用しながら訓練を重ねてきた。2026年4月にロボットアームを福島第一原発構内に搬入。その後「アームが伸びない」不具合の発生により部品を交換する事案もあったが、10月2日に試験的取り出し作業に着手。“夏頃”という目標の達成に関しては「遅れているという認識はない」とした。
【目標は“山を安全にのぼるための立体的な地図”】
試験的取り出し作業に着手した10月2日は、ロボットアーム先端に取り付けられたウォータージェットで、経路となる配管入口付近の堆積物を除去する作業が行われたという。東京電力はこのような“経路構築”作業、さらには格納容器内の3次元データの取得に3~4か月かかるという見通しを示している。
燃料デブリの採取はその先の工程となり、数g程度の採取を計画している。
小野プレジデントは10月1日の会見で、3次元データの取得が、今後の作業計画において重要な位置づけであるとの認識を示した。格納容器内の3次元データを得ることで、「どういう状態になっているのかを視覚的にとらえることができる。デブリを将来どういう形でどういうふうに取っていこうかとか、うずたかく積んであるようなところがあるのであればそこにどういう形でアクセスしようかとか、この後の装置の使い方を決めていく中で非常に役に立つと思っている」「2号機では2030年ごろになると思うが、規模を拡大してデブリを取り出していこうとしている。その装置の設計にまずは活かしていけると思う」などと今後の工程についても言及。
「山に登るのに、立体的な地図があれば安全に登りやすくなる」とした。
【「生成過程は概ね同じ」とみられる2回のデブリ 次は】
2024年と2025年に“釣り竿”形状のロボットを使って採取された燃料デブリ。分析を行った日本原子力研究開発機構(JAEA)はこれまで「生成に至る過程が概ね似通っていると考えられる」とする分析結果を示している。2回目の採取は1回目よりも1mほど格納容器の中心に近いところで行っているため、その違いが明らかになることが期待されていたが、結果としては同じような生成過程をたどったとみられることになる。
2回の採取デブリはともにウランの重量比率が最も高い。これに加えて金属成分などが確認されたことなどから、溶け落ちた核燃料が周辺の部品を巻き込んで固まったと考えられている。
ロボットアームの先端は、“釣り竿型”よりも細かな動きが可能となる。
採取された燃料デブリから新たな情報が得られることも期待されている。
【“2051年、廃炉完了”の行方は】
福島第一原発では、国の廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議で決定される「中長期ロードマップ」に基づいて廃炉作業を進めているが、このなかで廃炉の完了は事故から30~40年後の「2041~2051年」とされている。
燃料デブリへの対応をめぐり、2号機では“試験的取り出し”が継続される一方、3号機では「大規模取出し」が計画されている。2025年7月に東京電力が原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)に工程案を示し、一定の技術的な成立性が確認されている。
NDFによると東京電力の工程案では、格納容器上部の“上蓋”に穴をあけて工具を入れ、ウォータージェットで内部の構造物や燃料デブリを破砕して細かくしたものを下に落とし、格納容器の横側に設置した装置で吸引、連続回収することを想定。大規模取出しの開始は2037年度以降とされ、これまで掲げられていた目標である「2030年代初頭の着手」の達成は極めて困難な状況となっている。また、3号機では内部調査の結果、格納容器の中にある「原子炉本体=圧力容器」の底部に大きな穴があいていることが判明。2011年の事故で核燃料が溶け落ちたことで生じたものと推定され、直径約5.5mの圧力容器に対して、直径約3mの穴が確認された。内部のさらなる状況把握も課題となっている。
1号機では内部調査が継続されているものの、燃料デブリの取り出しについての具体的な工法は検討中となっている。
福島第一原発の廃炉は、2号機の燃料デブリ採取の着手をもって最終段階の「第3期」へと入ったが、何をもって「廃炉完了」の判断とするか、明確なゴールは示されていない。
国と東京電力が掲げる「2051年の廃炉完了」まで残り25年、“廃炉の本丸”への対応が廃炉に向けた大きな課題のひとつとなっている。
【2号機燃料デブリ試験的取り出し・これまでの経緯】
■2021年:当初の試験的取り出し着手予定
⇒ロボットの開発遅れ、経路への堆積物の詰まり発覚などで延期
■2024年8月22日:試験的取り出し着手を計画するも「現場での棒の順番ミス」が発覚し取りやめ
⇒東京電力が現場に立ち会っていなかったことなどが問題に。
管理体制の見直しを行う。
■2024年9月10日:試験的取り出し作業に着手
■2024年9月14日:ロボットが一度デブリをつかむ
■2024年9月17日:カメラ4台のうち2台の映像が見られなくなるトラブルで中断
⇒高い放射線が影響でカメラ内部に電気がたまり不具合を起こしたと推定。
カメラ交換を決断。
■2024年10月24日:カメラの交換作業を完了
■2024年10月28日:試験的取り出し再開
■2024年10月30日:デブリの把持・吊り上げに成功
■2024年11月2日:デブリを事故後初めて格納容器外へ取り出し成功
■2024年11月5日:放射線量が「取り出し」基準クリアを確認
■2024年11月7日:試験的取り出し作業完了
■2024年11月8日:デブリの水素濃度などが輸送の基準を満たすこと確認
■2024年11月12日:事故後初めてデブリを第一原発構外へ 研究施設へ輸送
■2024年12月26日:JAEA「採取デブリからウラン検出」公表し「典型的な燃料デブリ」と評価
■2024年12月:デブリの非破壊分析が完了・分析機関に分配するためデブリを砕く
■2025年1月8日:JAEA「5つの分析機関への分配決定」公表
■2025年1月10日:デブリの一部をJAEAからMHI原子力研究開発株式会社(NDC)に輸送
■2025年1月22日:デブリの一部をSPring-8とJAEA原子力科学研究所に輸送完了
■2025年1月31日:デブリの一部をJAEAから日本核燃料開発株式会社(NFD)に輸送。予定されていたすべての研究施設への輸送が終了。
■2025年3月25日:2回目の採取に向け前回ミスがあった「棒の順番ミス」の訓練開始
■2025年4月14日:東京電力「準備が整った」として4月15日に2回目採取に着手することを公表
■2025年4月15日:ロボットの先端が格納容器につながる扉を通過し「2回目の採取着手」
■2025年4月17日:燃料デブリの2回目の把持・吊り上げに成功
■2025年4月19日:2回目の試験的取り出しで燃料デブリを格納容器外・配管の中にまで引き出す
■2025年4月20日:2回目の試験的取り出しでつかんだ燃料デブリの“引き出し”作業完了
■2025年4月21日:つかんだ燃料デブリが搬出基準(1時間あたり24ミリシーベルト以下)を下回っていることを確認
■2025年4月23日:事故後2回目の試験的取り出し作業完了
■2025年4月25日:燃料デブリ・事故後2回目の「原発構外」搬出完了
■2025年8月28日:3回目の取り出しに使用する「ロボットアーム」のカメラの耐放射線性がメーカーの仕様を満たしていないことを公表
■2025年9月25日:3回目の取り出し着手を「2026年度」に見直し
■2025年2月25日:3回目の取り出し着手を「2026年夏頃」とする
■2026年7月2日:3回目の取り出し着手を「順調にいけば着手は2026年7月以降」とする
■2026年7月30日:取り出しに使用するロボットのアームがのびない不具合が発生し、7月着手は断念。工程を再精査へ。
■2026年10月2日:3回目の試験的取り出しに着手。初のロボットアーム投入
