「(11月29日の)朝方おそらく6時頃だったと思うんですけど、電話がかかってきて、息子の『心臓が止まりました』『とにかく急いで来て下さい』と」
まさかの一報を受けて病院につくと、医師からは「食道挿管になってしまいました」と伝えられました。心停止が30分続いたため「おそらくもう、低酸素脳症になっていると思います」と告げられ、「何がなんだかわからない状態だった」と父親は当時を振り返ります。
「食道挿管」とは何か?
医師から告げられた「食道挿管」とは何か、東京有明医療大学看護学科長の北島泰子教授に話を聞きました。
―――「食道挿管」とはどういう状態なのですか?
気管のうしろに食道があるんですけど、2つがほとんどくっついていますので、(チューブを)入れる時に間違えて食道に入ってしまう状況です。食道に挿管された場合、聴診器をあてようにも肺が全然ふくらまず、(空気が)食道に入っているので胃がどんどんふくらんでしまいます。
この状態が続くと肺に空気が送られず、急速な低酸素状態(酸欠)に陥り命に関わる重大な危険が生じると言います。
―――「食道挿管」になっていないかチェックする方法は?
必ず聴診器で空気がちゃんと入っているか聴くこと、X線写真を撮ること、(呼吸で二酸化炭素を吐いているか)CO2モニターで波形を確認することなどがガイドラインでは推奨されています。
他にも気管挿管が正しくできている場合はチューブに呼気が通り、水蒸気が付着して曇ることが多く、これを確認することや、血中の酸素飽和度(SpO2)も指標になり、現場では二重三重の確認が行われると言います。
しかし父親によると当時、「聴診器による確認」や「チューブの曇りの確認」は行われていなかったと医師から伝えられたといいます。
「食道挿管」はよく起こるのか?
重大な事故となりうるこの「食道挿管」のミスは、どれくらい起こることなのか?
日本医療機能評価機構のホームページで調べることができます。2010年以降に報告された医療事故を「食道挿管」のキーワードで検索すると、125件の事例が表示され、死亡例も含まれました。
ひとつひとつの事例を閲覧することも可能で、対応にあたった医療従事者の職務経験や、発生の曜日や時間帯なども表示されます。
病院側の説明は?
父親によると、病院は事故直後に、「医療過誤です。今回はどうもすみませんでした」と口頭で謝罪。しかし、何が医療過誤なのかっていうのは具体的な説明はなかったと言います。
その後、3月頃に病院側からミスについての説明をすると連絡があったものの、5月に延期され、さらに7月に延期されたといいます。
度重なる延期に、家族が「医療事故調査報告書」の開示を求めたところ、説明はあくまでも「口頭」で行うとし、文書での説明は拒否されたと言います。
父親は「当日何が起こったのか分単位で何が起こったのかというのを全く説明がないので、そこにすごく家族として憤りを感じています」と訴えます。
私たちは病院側に取材を申し込みましたが、「現在、院内、院外にて調査継続中のため、現時点での回答は控えさせていただきます」との回答でした。
警察の捜査は?
医療ミスの捜査では、カルテや看護記録、機器データ、関係者への聴取などを通じて因果関係や責任の所在を慎重に調べる必要があり、容易ではありません。
群馬県警の捜査1課と太田警察署は病院関係者などから事情を聴いていて、業務上過失傷害の疑いを視野に捜査しているとみられます。
長男が入院してから10か月、単身赴任のため遠方で仕事をしている父親は、シフト勤務の合間に群馬まで運転して、病院を訪れているということです。
病院が見える度に「パパは戦うよ、諦めないよ」と自らを奮い立たせているといいます。また、いつ帰ってきても大丈夫なように、長男の部屋は電気をつけっぱなしにしているそうです。
専門家によると医療事故の調査は、再発防止を視野に行うため1年、2年かかることもあると言いますが、その間の家族への情報共有やコミュニケーションのあり方も問われています。
【取材・執筆 調査報道統括部 弓削いく子】
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