災害から住民の命を守るために、市町村では様々な防災対策を進めている。市町村の代表者である市町村長や住民代表から、それぞれの地域の防災「わがまち防災自慢」について話を伺う。今回、東京通信大学特任教授で防災マイスターの松尾一郎さんが訪ねたのは、福島県矢吹町。東日本台風からまもなく7年、どんな対策が進められているのか?
■阿武隈川流域を守る遊水地
2019年10月に福島県内を襲った「東日本台風」は、1年の4分の1にも及ぶ雨がたった2日間に集中。阿武隈川流域で堤防が決壊し、矢吹町でも約50棟の建物が浸水などの被害に遭った。
矢吹町ではいま、鏡石町・玉川村とあわせて遊水地の整備が進められている。
「遊水地」は、低くしておいた堤防から川が増水した場合に、水をあえて溢れさせることで市街地への水の流入を防ぐというもの。
完成すれば、郡山市や福島市など阿武隈川流域全体の水位低下が期待されるが、矢吹町の蛭田泰昭町長によると、平時の遊水地利活用についての課題もあるという。
■遊水地 平時はどう活用?
遊水地計画の対象となるのは、矢吹町だけでも田んぼや住宅など約100ヘクタールに及ぶ。遊水地全体では、建物移転が約150戸にのぼり、国は地域との対話を進めながら必要な用地の取得を進めている。
住民たちの大きな決断でつくられる遊水地、災害時だけでなく日常から活用できるよう、試験的な農地利用も実施されている。
遊水地の完成予定は2033年度、今の地盤からさらに2~3メートル掘り下げる大規模な工事も控えている。
蛭田町長は「私はやっぱり流域治水が大事だと思っている。地元の方も、下流域のみなさんも一緒になってやって頂ける、そんな考え方がしっかりできれば、私は自慢できる遊水地、自慢できる防災、そして自慢できるふるさとになると思う」と語った。
■16歳 矢吹町最年少の防災士
矢吹町の防災対策は「遊水地」というハード面の整備だけではない。防災のリーダーシップを取れる住民を増やそうと、「防災士」の資格取得へのサポートをしている。
須賀川市にある須賀川創英館高校に通う、矢吹町の最年少防災士・梅原虎太郎さん(16)。中学1年から野球に打ち込む高校球児で、その誠実さとひたむきさは友達や先生からも太鼓判。そんな梅原さんが防災士を志すきっかけとなったのは、小学6年生の時に起きた福島県沖地震だった。
梅原さんは「その時の揺れとか、物が散乱する様子とかが頭に残って、自分が今度は人を守ったり、パニックになったりしないように防災士という資格を取りました」と話す。
■“助けられる人”から“助ける人”へ
全国で累計36万人以上が認証登録されている「防災士」。
「地域の防災リーダー」としての知識や技能を修得したことを示す民間資格で、災害に強いまちづくりを目指す矢吹町では、資格取得に必要な講座や試験の費用などを助成する事業を実施している。
梅原さんも町内で防災講演を行うなど「防災リーダー」として活躍中だ。
「自分の身近な友達も、防災についてはまだまだ意識が低いのかなと思っている。そういう人たちの防災力をいかにあげていくか。あとは、矢吹町としてもっと防災力をあげていくかということが大切になる。自分はそういうことを伝えていきたい」と梅原さんは語った。
大切な人を、そしてふるさとを守れる自分へ。高校生防災士の決意だ。
■町が資格取得をサポート
梅原さんは、町のサポートがあったことも防災士を目指す後押しになったと話す。
矢吹町では、防災士の研修講座の受講料から試験の受験料、テキスト代まで助成の対象としていて上限は8万4000円となっている。
「災害に強いまちづくり」を住民と一緒に進めていこうという、強い気持ちが伺える。
防災マイスターの松尾一郎さんは「遊水地の整備には、土地を提供し移り住んだ住民の大きな決断がある。整備効果は下流域の氾濫対策にもつながる。上流の方々の協力を忘れずにいたい」と語った。
