2025年ノーベル化学賞を受賞した京都大学の北川進特別教授。北川さんが開発した二酸化炭素などの気体を自由に出し入れできる「MOF(モフ)」と呼ばれる新素材は、環境や医学など幅広い分野で応用が期待されています。
京都出身で高知に縁のない北川さんが今回なぜ高知にやってきたのか。実は北川さんのまな弟子・樋口雅一さんが高知市出身という縁から実現したんです。
今回は北川さんとともに講演を行った樋口さんに密着しました。
8月29日、土佐塾中・高の生徒たちが出迎えるなか、ノーベル化学賞を受賞した師匠とともに母校へ凱旋したのは、京都大学の樋口雅一特定拠点准教授です。
京都大学高等研究院・樋口雅一 特定拠点准教授:
「めちゃくちゃ久しぶりに帰ってきたという感じはないですけど、特別に北川先生とご一緒できるので楽しみにしてます」
樋口さんは高知市出身の51歳。土佐塾中高で6年間剣道と勉強に励み、1年の浪人を経て京都大学へ。その後、20年以上にわたって北川さんのもとで研究を続けてきました。
北川教授とのエピソードについて樋口さんはこんな話をー
京都大学高等研究院・樋口雅一 特定拠点准教授:
「(新品のパソコンを)箱から開けて今からまさに使おうとした時に、北川先生が通りかかられて僕の新品のパソコンを持ち上げて『データが入ってないし軽いな』って言って去っていかれました。これぐらいの先生になったらデータが重みとして感じられたりするんだなと」
北川さんは自らの座右の銘で中国の思想家、荘子の言葉「無用の用」を紹介しました。
京都大学高等研究院・北川進 特別教授:
「役に立つものの有用性は誰もが知っているが、役に立たないものの有用性を知る者は誰もいない。無用の用は何もないところからモノを作っていくから、まさに創造性の考え方なんですね。私それに出会いました」
まさに何もないところからMOFを開発した北川さん。思い描く未来はー
京都大学高等研究院・北川進 特別教授:
「空気中のCO2と再生可能エネルギーを使って空気から必要なものを作る。皆さんが着ている服、食べ物も空気から作れるわけです。こういう世界が我々の目指すところではあります」
高校1年生:
「誰も気にしてないことを気にするのは大事だなって思いました。それを心に留めてやっていこうかなと思います」
京都大学高等研究院・樋口雅一 特定拠点准教授:
「それではクイズ大会を開催いたします。正解は僕求めてないんで変な答えがほしいです。僕2015年の2月10日に何したでしょうかっていうクイズです」
生徒:
「バレンタインを楽しみにしてた」
京都大学高等研究院・樋口雅一 特定拠点准教授:
「あー、おもろい。正解は会社をつくりました。スタートアップ、アトミスを」
樋口さんは2015年MOFの実用化を目指し京都大学発のスタートアップ企業・アトミスを立ち上げました。
京都大学高等研究院・樋口雅一 特定拠点准教授:
「アトミスっていう会社ができてMOFをキログラムとか何トンって作れるようになったんですよ。大学ってそんなこと全くしないし、1g作るのがしんどいんですよ」
京都市に北川さんが開発した材料・MOFを使って製品を作っている化学品メーカーがあります。2年前に製品化された“ガスの吸着剤”です。たばこの吸い殻が入った容器の中の空気を、この製品を通してかぐと…
記者:
「全くなんの臭いもしないですね」
匂いを消すだけでなくさらに応用ができるそうです。
大原パラヂウム化学・大原正吉 専務取締役:
「さまざまなガスを取れる。それによって匂いをとれる目的もあるし、1つは人にとって有害なガスをとる。さまざまなガスに対する課題、社会課題にも貢献していきたい」
京都大学高等研究院・樋口雅一 特定拠点准教授:
「会社をつくるって言ってて、ホンマにつったら周りの見る目が変わったから。多くの人がやろうって言ってやらないんですよ、実際は。自分で行動を起こすってことはめちゃくちゃ大事です。その練習も今できるようになってますからがんばってね」
高校2年生:
「口で説明したら難しいことだと思うんですけど、おもしろいメガネを使って目で直感的に分かりやすくしているのでとても楽しかったです」
高校3年生:
「卒業後、偉い人として呼ばれたいなって。樋口先生を目標にしてやりたい」
樋口さんが京都大学に行くきっかけを作った同じ京大出身の海地先生。
土佐塾中高・海地健史 先生:
「授業の時とかに、京大おもしろいとこやで、変なやついっぱいおるで、自分の好きな勉強できるでっていう話したら、『僕も京大行きたい』って言って浪人して。おもしろいやつでこうやって後輩のためになることができるようになってくれて、ほんとに恩師と言えるほどでもないけども、関わった者の1人として非常にうれしく思ってます」
この日の午後は一般向けの講演会が行われ、会場には約1000人が詰めかけました。会では北川教授と樋口さんによる子弟対談も。
実は2人の出会いは北川さん主催のバーベキューでした。
京都大学高等研究院・樋口雅一 特定拠点准教授:
「そのバーベキューに行ってたのをきっかけに顔と名前を知ってくださってて、新しいプロジェクトが始まるから北川研で、『樋口君どうや』って声をかけていただいたんですよ。最初の返事は僕Yesって言わずに…だけど実際やってみたらめちゃくちゃ面白い研究で、これがそのあと世界中を巻き込んでいく研究に発展していった」
京都大学高等研究院・樋口雅一 特定拠点准教授:
「23年間北川研に在籍して、北川先生に関わりを持たせていただいてます。僕が素晴らしいと思うのは細かいことを一切おっしゃらないんですよ。『あとは任せた、よろしく』で、次は論文を書いて北川先生に見てもらうと。その間、全く細かいこと言わないです、ほんとに。“丸投げおじさん”っていうあだ名がついてて、ほんとに丸投げされますんで」
お客さんからの質問コーナーでは、ノーベル賞受賞時の裏話も。
京都大学高等研究院・樋口雅一 特定拠点准教授:
「ノーベル賞のお知らせは何時ごろどのようにもらいましたか?」
京都大学高等研究院・北川進 特別教授:
「6時15分くらいですかね。5時15分。その30分前に詐欺の電話がかかってきたんです。腹立っておまえもかと思ったんですけど、英語やったんで。英語でも詐欺があるのかと思ったけど、違ってちゃんと」
樋口さんは今回、高知の人たちに「世界最高峰の科学に触れてもらう」という大役を無事に果たしました。
京都大学高等研究院・樋口雅一 特定拠点准教授:
「今回特別に北川先生をお連れして高知で講演していただくのは特別な回ですので、私も身が引き締まる思いできょうは楽しくできました。(北川先生は)仲間が大事やっておっしゃるんですね。若い人と一緒にやっていく、仲間を作ってやっていくところを非常におっしゃるんで、それがこういう大きな賞に結びついたし、僕もそのうちの1人で、大切にしていただいて色々やってきたという思いがあるので、これからもまた北川先生と一緒に、面白いことをやりたいですね」
