市場にほとんど出回らない「幻のブドウ」、そして2年ぶりに復活を目指すイチゴ狩り。鹿児島県鹿屋市吾平町の黒羽子観光農園は、農家の減少という厳しい現実と向き合いながら、季節ごとの「おいしい」と「たのしい」を届け続けている。
「人を呼べるものを」——農園誕生の背景
鹿屋市吾平町黒羽子地区にある黒羽子観光農園は、約180アールの敷地に4戸の農家が寄り合って運営する観光農園だ。旧吾平町がハウスや駐車場を整備し、1990年にオープンした。
鹿屋市吾平総合支所の柿内徹支所長によると、「当時の町長が『吾平には吾平山稜がある』『ここ黒羽子地区は土がいいので何か人を呼べるものができないだろうか』と。『観光農園をやろう』と」いう発想が出発点だったという。
夏はスイートコーン狩りや落花生収穫、冬はイチゴ狩りと、季節を彩る収穫体験が好評を博し、ピーク時には年間約8500人が訪れていた。
農家は最大6戸から4戸へ——深刻な担い手不足
しかし今、農園が直面しているのは農家の担い手不足という深刻な課題だ。かつて最大6戸いた農家は、現在どうにか4戸を保っている状態で、2027年にはさらに1戸減ることが決まっている。吾平エリア外から後継者を探すなど、存続に向けた模索が続く。
「永遠に続きますように」——元介護士が引き継いだブドウ園
そんな農園に、頼もしい後継者が現れた。5年前、30年以上続くブドウ園を高齢の夫婦から引き継いだ永野田健二さんだ。元々は介護の仕事などをしていたが、農園の後継者を募集していると聞き、農業への関心から立候補した。

農園の名前は「ei farm」。「永遠に続きますように」という願いを込め、自分の名字から一文字取って名付けた。永野田さんは「ブドウも全然作ったことはなかったが、農業をやっておいしいものを作りたいというのが一番のきっかけだった」と話す。

「みんなが作らないから幻」——先輩農家が守る竜宝
次世代が農園を支える一方、先輩農家も独自の魅力を生み出している。有馬農園の有馬敏孝さんが手がける「竜宝」は、「幻のブドウ」と呼ばれる品種だ。果汁がたっぷりで熟す前から甘いと人気を集めているが、少しの衝撃で実が房から離れてしまい、皮も柔らかいため市場にほとんど出回らない。
有馬さんはその理由をこう語る。「みんなが作らないから。味はいい。人気があるからやめられない」。大変だからこそ他の農家が敬遠するこの品種を、有馬農園は今も丁寧に育て続けている。有馬農園ではブドウ狩りに加えて直売も行っており、竜宝の販売は残りわずかとなっている。
イチゴ狩り復活へ——地域おこし協力隊が奮闘中
農園の再活性化に向けては、鹿屋市の地域おこし協力隊・畑中祐亮さんも動いている。2027年1月にも、2年ぶりのイチゴ狩り復活を目指して現在奮闘中だ。畑中さんは「年間を通してお客さんがいっぱい来てくれる観光農園にしたい」と意気込む。

農家の減少という課題を抱えながらも、後継者の情熱、先輩農家のこだわり、そして協力隊の挑戦——黒羽子観光農園はいくつもの季節を重ねながら、これからも地域に根ざした農園であり続けようとしている。
【動画で見る▶黒羽子観光農園の魅力 地域に愛され36年 鹿屋市吾平町【鹿児島】 】

