広東省には存在しない広東麺
中国の地名がついているのに、そこにいくと存在しないものはまだある。それは広東麺だ。
福建炒飯は日本では知名度が低いが、香港と日本の両方にある。天津飯は天津にはないのに日本ではとても有名。では、広東麺はどうだろうかと考えたが、広東麺は広東省にないのに、日本では有名だ。
だが、広東麺の知名度は天津飯ほど高くない。豚肉、野菜、エビ、イカなどの具材を醤油ベースのスープであんかけにした麺料理で、店によっては「五目あんかけ麺」や「五目そば」などという名前になっている。天津飯のように、どこに行っても同じメニュー名ではない。その点で少しインパクトに欠ける。
調べてみても、天津飯や天津甘栗と比べて、広東麺のルーツに関する情報はほとんど出てこない。最初にそのメニューを考案して店で出したという元祖の店も存在しないようだ。
私の勝手な想像では、エビやイカなどの海鮮がのっている麺なので、何となく海の近くというイメージで、「広東」とついたのではないだろうか。福建炒飯の例から言えば、福建麺でもよかったんじゃないの?と思ったりもするが……。
中国にもある地名がついたメニュー
中国でも地名がついたメニューというのは存在する。代表的なものは北京烤鴨(カオヤー)(北京ダック)だ。明朝の永楽帝が、野生のアヒルが多く生息していた南京から都を北京に移したときに、北京ダックの原形である叉焼烤鴨も一緒に伝わり、宮廷料理に採用されたのが最初だと言われる。
元祖が北京なので、現在、中国のどこに行って食べても北京ダックと呼ばれている。
その南京では南京塩水鴨(イエンシュイヤー)が有名だ。日本での知名度はほとんどないといっていいが、南京を代表する料理だ。私は南京発のチェーン店で中国各地にあるレストラン「南京大排档(パイダン)」で食べたことがあり、美味しかった。
しかし、逆に、中国で日本の地名を冠していて、日本には存在しない日本料理はあるかと考えたら、思い浮かばなかった。
中国でも日本料理は流行っており、日本には存在しないメニュー(たとえていえば、「名古屋うどん」「大阪めし」みたいなメニュー)は、もしかしたらあるかもしれないが、私は聞いたことがない。
日本で天津飯、広東麺がこれだけ定着しているのは、横浜中華街ができて以降、さまざまな中華料理が日本に入ってきて、日本人がそれを独自にアレンジし「いかにも中国風」の名前をつけたからなのだろう。そう考えるととてもおもしろい現象だし、もっとルーツを調べてみたくなる。
中島恵
新聞記者を経てフリージャーナリスト。主な著書に『中国人エリートは日本人をこう見る』、『なぜ中国人は財布を持たないのか』、『日本の「中国人」社会』、『いま中国人は中国をこう見る』、『中国人が日本を買う理由』、『日本のなかの中国』(以上、日経プレミアシリーズ)、『中国人富裕層はなぜ「日本の老舗」が好きなのか』(プレジデント社)、『中国人のお金の使い道』(PHP新書)などがある。

