長崎への原爆投下から9日で81年になりました。被爆者の高齢化が進む中で、97歳の女性が、長年語らなかった被爆体験を伝え始めました。
「戦争と被爆の記憶を途絶えさせてはいけない」との想いは2人娘と孫娘、さらに次の世代を担う高校生にも受け継がれています。
「誰にも言うな」80年間、語らなかった体験
横浜市で娘と暮らす、97歳の佐藤美津紀さん。

81年前の8月9日、16歳だった美津紀さんは長崎市の原爆の爆心地から約3キロメートルにある、郵便貯金を管理する「貯金支局」で仕事中に被爆しました。
佐藤美津紀さん:
長崎の空一面がね、もう夜みたいに暗くなって“死の街”っていうのかしら。そんな感じでね。

「アメリカ国立公文書館」には、長崎に原爆が投下されたときの映像が保存されています。
この原爆による死者は、約7万人にのぼりました。
原爆投下後の街の様子を記録した映像には美津紀さんが語る“死の街”の姿が映し出されています。
佐藤美津紀さん:
(貯金支局に避難してきた)若いお母さんがね、赤ちゃんおんぶしていらしたのね。
赤ちゃんが全く泣かないんですよ。赤ちゃんは泣くんじゃないかと見たら、お母さんの背中で赤ちゃんは亡くなってた。
(お母さんは)もう悲鳴に似た声で泣かれたんですけど、私たちもどうすることもできなくて。

その時の体験を今はありのままに話す美津紀さんですが、約80年もの間、被爆したことを積極的に語ることはありませんでした。
佐藤美津紀さん:
原爆被害に遭ったって絶対言っちゃいけないって言われていたの。結婚できないから。
主人とも結婚するまでは話さなかったですよ。誰にも言わないようにね。
被団協に背中を押され沈黙を破る
しかし、2024年、核兵器のない世界に向けた取り組みを続ける「日本被団協」がノーベル平和賞を受賞したことなどをきっかけに、戦争と被爆の記憶を語り継ぐ決意を固めました。
佐藤美津紀さん:
100歳近くまで生きているのに何の役にも立ってなかったなと思ってすごく反省しました。
もったいないことしたなと思ってね。

そこで美津紀さんは2025年から「おはなし会」を開き、戦争体験を話すようになりました。
2026年8月2日に開催された「おはなし会」での美津紀さんは、そろばんを手に話していました。

佐藤美津紀さん:
被爆したときに、このそろばん1個だけ持って逃げたんです。これが私の“命の証し”といいますか。
そろばんを振って鳴らし「良い音がするんです」などと、時にはユーモアを交えて話す美津紀さん。
傍らには、長女の佐藤ひろみさん(58)と、次女の梁瀬まなみさん(56)、そして孫娘の梁瀬こころさん(24)の姿がありました。
梁瀬こころさん:
受け止めることでいっぱいかなと思うんですけど、これを機に、自分なりに考えて、次の世代につなげていけたらなって思います。

今回の「おはなし会」には、定員を上回る90人以上が参加。
大学1年生の参加者(19):
人の言葉を自分の耳で聞いて、声が揺れてる感じだったりとか、そういうのを肌で感じて、身になったと思います。
中学3年生の参加者(15):
(お話を聞くことで)より詳しく情景が想像しやすい。個人の感想は、自分の家族がこうだとか、自分の関係者がこうだとかいうのが印象的に残る。
若い世代が、被爆を経験した美津紀さんの言葉の重みを受け止めていました。
「英語の字幕」16歳の協力で世界に発信
さらに、美津紀さんに新たな仲間が増えました。高校2年生の池田晃輔さん(16)です。
佐藤美津紀さん:
彼は素晴らしいです。ひとりで英文に翻訳してくださって“知らせていこう”という意気込みと熱意で私は刺激されてね。
池田晃輔さん:
戦争の記憶はどんどんつないでいかなければならない。

晃輔さんは、2025年に「おはなしの会」に参加したことをきっかけに、得意な英語を生かして、美津紀さんの戦争体験を英語に訳し世界へ発信する活動を始めました。
美津紀さんの次女・まなみさんのオフィスを借りてパソコンで編集する様子を見せてもらうと、インタビューの動画に自ら訳した「英語の字幕」を入力していました。
池田晃輔さん:
内容は本当に美津紀さん本人にしかわからないことなので、表現というか解釈がいいのかというのを1個1個確認しました
美津紀さんの次女・梁瀬まなみさん:
母に確認しながら、ここでまたやって、という作業をちょこちょこ繰り返してます。

美津紀さんが「ちょうど私がここに座っていて、ここへね、シャンデリアが落ちてきた」と話す動画には、晃輔さんが、“A chandelier crashed from the high ceiling onto my desk, right in front of me.”との英訳をつけていました。
晃輔さんは、今も世界で戦争が起きている中で、その悲惨さを海外にも伝え、未来へつないでいく決意を語ります。
池田晃輔さん:
特に海外の人にそういう戦争の怖さについて知ってもらいたいという思いで英訳をやらせていただきました。聞いてそこで終わりにしてしまったら記憶は途切れると。
託された思いは、娘へ、孫へ。そして、未来の世界へと受け継がれていきます。
佐藤美津紀さん:
話を伝えていってくださるということを聞いて、自分が体験者の一人として話さなきゃいけないことを実感しました。晃輔君を応援するつもりだったけど私の方が応援されていて感謝しています。(動画を見たのが)100人だったら、100人の若者たちがつないでいけるわけでしょう。
美津紀さんは、「晃輔くん、がんばろうね」と語りかけ、微笑んでいました。
(「イット!」8月7日放送より)

