高知の酒蔵で8月から始まる新酒造りが危機に直面しています。背景にあるのは「令和の米騒動」です。
国が公表している過去10年の米の取引価格。酒米は栽培方法が難しいため食用米より高く設定され、60kgあたりの価格で約1万円の差がありました。
しかし、2024年に異変が起きます。「令和の米騒動」です。食用米が不足し価格が急上昇。その結果2025年、ついに酒米の価格を上回ってしまいました。
この逆転現象は異常事態で、全国各地、高知でも起きているのです。これは酒米農家に大きな衝撃を与え、その結果、酒米作りから食用米作りに転換する動きも出るという深刻な酒米不足を招いたのです。
令和の米騒動ならぬ「酒米騒動」。その実態を取材しました。
140年以上の歴史がある香南市赤岡町の高木酒造では8月20日、県内で最も早く新酒造りが始まります。しかし、大きな問題が―
高木酒造・高木直之 代表:
「予定していた酒米が入らない。酒蔵業界は大変厳しい状況にある」
県内の多くの酒蔵で2026年に使う酒米が不足しているのです。そもそも、高知の酒蔵が使う酒米は主に県酒造組合が集約してJA高知県に発注し、JAが需要に応じた生産を農家に依頼します。計画栽培の酒米が、なぜ足りないのでしょうか。
高木酒造・高木直之 代表:
「JAから県酒造組合が酒米を買う時には安定した価格でずっとやってきたが、令和の米騒動で令和7年産に関しては酒米と食用米の価格が逆転した」
酒米は栽培方法や品質管理が難しいため、食用米より高い価格で取引されてきました。しかし、その価格が「令和の米騒動」の影響で逆転したのです。
高木酒造・高木直之 代表:
「初めてのこと。誰も経験したことのない状況の中、対策をしないといけない」
酒米農家にも大きな衝撃が―
高知市の酒米農家・中島正根さん:
「酒米は収量も伸びない。手間もかかる。大変大きいリスクの中でこだわって酒米を作っている。食用米より安かったら作る人はいなくなるという危惧はある」
実際に2025年、価格の逆転を受け、作付けの一部を酒米から食用米に転換する農家も出ました。こうした動きも深刻な酒米不足につながったと考えられています。
香美市土佐山田町の松尾酒造では対策に乗り出しています。
松尾酒造・松尾禎之 社長:
「今年から海外への輸出を急激に増やした。酒米が足りない状況。どこか方法はないかあちらこちら声をかけた」
初めて地元の農家と直接取引をし、酒造りにも使える食用米のコシヒカリを仕入れることにしました。
松尾酒造・松尾禎之 社長:
「高知の酒は高知の米でと思い、県産米しか使っていない」
松尾酒造に米を卸す米農家・岡田修一さん:
「地元の酒屋が儲けることは地元に税収を納めて働く人の給料も良くなる。ちょっとでも町が良くなる。土佐山田町はさびれきっている。何とかなってもらいたい」
こうした蔵元と農家との直接取引を県も支援することに。2026年度、蔵元が直接農家から酒米を購入した場合などに上限付きで補助します。
高木酒造・高木直之 代表:
「蔵元は安定的な酒米供給を望んでいる。我々の思いをしっかり農家に伝えながら交渉していかなければ」
高木酒造の高木代表は2025年、県酒造組合の理事長に就任。2026年の酒米の価格をJAと話し合って決める立場となりました。酒米と食用米の価格の逆転は解消できるのか。それを占う大事な情報が取材中、高木酒造に入ってきました。
高木酒造・高木直之 代表:
「予想外」
JA高知県が農家に前払いする新米・コシヒカリの概算金は60kgあたり1万4000円に。米騒動で高騰した2025年の2万2000円に比べ、36%も下がったのです。
高木酒造・高木直之 代表:
「酒米の価格交渉はやりやすい」
逆転現象は解消される見込みですが、ある心配が―
高木酒造・高木直之 代表:
「我々の予想より(食用米が)大分安いので農家がどう考えるのか。不安定な形で米作りをしないといけない状況」
米の価格の下落は、生産コストの増加とともに農家に重くのしかかります。
南国市の農家・岡田修一さん:
「倍以上の単価に機械はなっている。肥料もそう。2000円前後で買っていたものが4000円を超えている。燃料価格もずっと高騰。しんどい」
高知市の酒米農家・中島正根さん:
Q2026年の出来は
「まずまず」
高知市の酒米農家・中島さんは8月20日に収穫する予定です。
高知市の酒米農家・中島正根さん:
「苦労が少しでも価格に反映できなければ、なんで作らなあかんのかみんな迷う。価格交渉の過程で農業者の気持ちをくんでほしい」
「令和の酒米騒動」の教訓とは―
高木酒造・高木直之 代表:
「我々が酒米に求めているものはJAを通じて農家に伝えていたが、米騒動の中、我々の思いが十分に伝わっていなかった反省はある。酒米に関係する組織がみんなで連携をとる」
2026年の酒米の不足分は食用米のコシヒカリで補う酒蔵が多い。ただ、純米大吟醸などコシヒカリでは造れない高級な日本酒を中心に、一部の商品の生産量は減る見通しです。
県酒造組合は「酒米騒動」を教訓に、農家と酒蔵との結びつきを強め、安定した酒米供給を目指すとしています。
