じっと椅子に座ることが難しい。
「僕、ハサミしない・・・」ハサミで髪を切ることが苦手。
体や心の障害によって散髪が苦手な人など、一人一人の悩みと向き合うサービスが受けられる美容室が岡山県玉野市にある。美容室を取材した。
◆「福祉美容室」を作りたいという気持ちだけで…
2025年12月にオープンした「こぐま美容室」。
スタッフは、経営する大熊智巳さん、ただ1人。福祉美容室を作りたいという気持ちだけで作ったと言う。
美容室を立ち上げるにあたり、人の心をどうしたら癒やせるか、元気にさせられるかを考えた時に「マンツーマンで、1対1でできることに必要性を感じた」と言う。

◆シャンプー台が「移動式」なので利用客は「動かなくていいんです」
店内は、車いすでも利用しやすいバリアフリー設計。大熊さんのこだわりが詰まっている。
(大熊さんと客とのやりとり)
「そのまま倒れます」
「すごい、このままシャンプー!?動かなくていいんだ」
「動かなくていいんです」
「高齢者にとっても、いちいち移動大変だから」
「お子さんもそれでぐずついたりしますもんね」
「そうなんですよ」
「これはいい」
シャンプー台は利用客が歩く必要のない「移動式」。椅子は全自動でフルフラットになり一人一人に合う姿勢でサービスを受けることができる。

◆鏡がない座席?車いすの客にも優しい…大熊さんのこだわり
座席は2席あるが、一方には鏡がない。
その理由として大熊さんは「鏡がある方が落ち着く人もいる、無い方が落ち着く人もいるので鏡がないバージョンにしている。車いすの人はこのままシャンプーすることができる」という。最終チェックは自分が回り込んで目で確認するようにしているそうだ。

◆循環器内科の看護師だった大熊さんが「福祉美容師」を目指した理由
大熊さんは、かつては循環器内科の看護師だった。
入院患者をケアする中で「本人も家族も「スッキリした」「ありがとう」と言っていたが、その人らしさがないスタイルにどうなんだろうという気持ちが増えた」といった違和感があったと言う。
大熊さんは看護師の経験を生かして、カットもできる看護師になればいいと思い、美容学校に行くことを決めた。

◆美容院で経験を積みながら…福祉施設やグループホームで訪問カットのキャリア
昼は病院で働きながら夜は美容学校に通い美容師免許と福祉美容師の資格を取得。関東地方の美容院で12年間、経験を積みながら福祉施設やグループホームで訪問カットにも取り組んだキャリアを持つ。
そして、岡山に移住。
「岡山出身で、とにかく岡山が大好き。子供が小学校に入学するタイミングで今しかないと」勢いで移住したと語った。

◆軽い知的障害を伴う自閉スペクトラム症で「散髪が苦手」な子供が来店
この日、岡山南支援学校小学部3年の鍛冶 輝(ひかる)くんが「こぐま美容室」を訪れた。 輝くんは軽い知的障害を伴う自閉スペクトラム症で、散髪が苦手だという。
母・麻耶さんによると、輝くんを散髪するときはお風呂場でバリカンを使うが、「際の部分を嫌がる」のだそうだ。
麻耶さんは今回、初めて輝くんを店に連れてきた。
「こぐま(美容室)さんだから甘えちゃっているが、(輝くんが)普通のお店では色々なものを触るので放置できない」という一面もあり、自身が美容室に通っていた縁から大熊さんにカットをしてもらおうということになった。

◆「あえて病名は聞かない」福祉美容師・大熊さん その理由は…
一般社団法人日本美容福祉学会によりますと、福祉美容師の資格を取得する人は年々増えていて、美容室も多様化している。
「あえて病名は聞かないようにしている」という大熊さん。診断名がどうであれ、色々なパターンの性格の子供がいるというのが理由。
「特性というより、こういう性格なんだと向き合うようにしている」

◆散髪が苦手な輝くんに用意された大熊さんの「秘策」
「見て見てこれ。椅子に座る、タオルを巻く、エプロンをまく、バリカンで髪を切る。できる?これ」
輝くんの髪のカットを始める前に大熊さんは「秘策」を用意。手作りのイラストで、カット準備から終わりまでの手順を示している。
「椅子に座る。(輝くん椅子に座る)できた。できたからこれおしまいね。(最初のイラストを取って机に)次タオルまく。タオルまこう。オレンジ色のタオル」
1つの手順が終わったらそのイラストを鏡の前に置く大熊さん。その効果もあり、順調に準備が進んでいく。

◆カットの準備は万端!苦手なきわの部分をバリカンで…「ブーンブーン」と上手にできた?
いよいよカットです。
(輝くん)「(バリカン)貸して」
バリカンに触れることも大熊さんは拒まない。
「痛くないから。ここにブーンブーンブーンブーンやっていい?」
「いいよ」
「ありがとう」
「輝くん見た?」
「切れてる」
「切れてる。上手に切れてる」
苦手だったきわの部分も切ることができ、約40分でカットが終了。
「終わり。上手にできました。やった」
「やった」
母・麻耶さんは「よかった。(Q:出来栄えはどう?)私がやるよりかっこよくしてもらえてよかった」と安どの表情を浮かべた。

◆「心のお守りのような存在でありたい」福祉美容師として大事にしていること
玉野市で美容室を始めて半年、大熊さんには伝えたいメッセージがある。
「最後の砦(とりで)ではないが、その人の心のお守りのような存在でありたい。ある意味挑戦だと思う。行きづらい人や子供に特性があって、大丈夫かと感じる親もいると思う。一つの挑戦をここでしてもらえるというのが私も心からやってよかったなと思える」
サービスするのではなく「心の交わり、人との関わり」を大事にしている大熊さん。一人一人と向き合い、美容室が苦手な時期が少しでも早く終わってくれたらいいと願っている。
(岡山放送)

